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【2部完結!】親馬鹿奮闘記!〜最強親父、娘たちが可愛すぎて常識を蒸発させる〜  作者: 美貴
第一部 「エピローグ」という名のプロローグ
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「――ふざけんなッ! 俺はアンタの守護騎士だ! 主を置いて逃げる守護騎士がどこにいんだよッ! 姫さんは黙ってついて来い! 逃げるぞ!」


 ――クーデターであった。

 首魁は、女王の執政に不満を持っていた王配。彼は隣接する小国の第三王子であり、婿入り先の国を乗っ取り、母国に復讐するという野望を持っていた。


 しかし彼は所詮余所者。代々国に尽くしてきた由緒ある大貴族が、彼に賛同する道理はなかった。


 ――そう、なかったはずなのだ。


 しかし実際には、女王と血縁ある公爵以下、有力貴族の多数が王配を支持した。


 他方、夭折した先代に代わって王位に就いた女王は若くも才媛に溢れており、国民を愛し、国民からも愛されていた。


 ゆえに解せぬのだ。


 なぜ、王国創建時より王家に尽くした貴族が、余所者の王配の後ろ盾になったのだ。


 なぜ、女王を愛していた国民までもがクーデターに交じって剣や槍を振りかざしているのだ。


 なぜ、叛逆者たる王配の甘言を信じ、女王を信じなかったのだ……。


 なぜ。なぜ。なぜ!


 男は疑問と失望と動揺が綯い交ぜになりながらも、自らの忠誠を捧げている女王と対峙し、避難を促す。しかし、


「だめよ。王たる私が、民に背を向けることなんてあってはならないわ」


 腰まで伸ばしたプラチナブロンドの髪を掻き揚げながら、女王はきっぱりと拒絶する。


 いつもの我儘ぶりを笑いながら許していた男も今回ばかりは折れずに、なお女王に進言する。


「……なら俺があいつらを鏖殺(みなごろし)にする。許可をくれ」


 敵の戦力は厖大。翻って、こちらの戦力は守護騎士たる男のみ。王室近衛騎士も悉く敵側についた。その戦火は既に、城内にまで及んでいる。


 まさに四面楚歌。絶体絶命の状況にありながら、男はそれを意に介さない様子で毅然と言い切った。事実、彼にはそれだけの力があった。


 魔法に満ちたこの世界で最強に至った男。彼の剣は天を裂き、その拳は山をも穿つ。彼がその気になれば、この窮状を打破できるのだ。だが――、


「もっとだめよ。彼らはこの国を愛している民よ。敵国の兵士ならまだしも、私の国の、私の民に、剣を向けることは許さないわ」


 女王は海のように蒼く、空のように澄んだ瞳を男に向けて再度拒絶する。


「こんな時まで我儘言ってんじゃねぇよ! 国がなんだ! 国民がなんだ! 俺はあんただけが生きていられればいいんだ! あんたさえ居れば! 俺の命にも意味があったと思えるんだよ……!」

「…………っ⁉」


 男の魂の告白に女王は目を見張る。


 そして向かい合っていた男を抱きしめ、女王も想いを述べる。


「……ごめんなさい。私の我儘で流れ者のあなたをこの国に置きとどめてしまったわ。十年間も私の傍にいてくれてありがとう。いつも守ってくれてありがとう。私を……愛してくれてありがとう」

「……なんだよ。最後の別れみたいに言うなよ。無理矢理にでも姫さんを連れて行くぞ」


 女王のいつもとは違う言の葉に薄ら寒い予感を感じた男は、女王を強く抱きしめ返す。


「……いいえ、お別れよ。だから最後に私の我儘を聞いて頂戴……?」


 言って女王は男から離れ、背後――女王と男が抱き合っていた玉座の間の奥――から淡いピンク色の豪奢なドレスを着た少女を呼ぶ。すると同時に、窓から火の手が見えた。


「いい? これからはこの人を父親だと思うのよ? ……成人を迎えるまで一緒に居てあげられなくてごめんなさいね……」


 少女は唇を噛み、両の拳を強く握って涙をボロボロと零しながらも、母たる女王の顔を凝視しつつ頷いている。賢い娘なのだろう。ここでいくら泣き叫んでも母が考え直すとは思っていないのだ。


 娘を傍らに置いた女王は、凛々しい美貌を男に向ける。


「あなたと私の物語は、ここが終わり(エピローグ)。これからは私の娘を護ってあげて」

「――――ッ」


 長い付き合いだ。


 彼女が折れないことも、男が文句を言っても最後は我儘を許し認めるのを、お互い理解している。


 火の手はついに窓のガラスを割り、扉を燃やし、玉座の間を犯し始めた。


「……それともう一つ。あなたのその『刀』を頂戴」


 つい数瞬前に〝最後〟と言っておきながらさらに要望する女王の普段と変わらぬ姿に、男の滅紫色の瞳にも揺らぎが生まれる。


「……これは俺の命よりも――」

「――大事なのでしょう? 知っているわ。だから最後の時まで一緒に居たいのよ……」


 我儘ぶりが止まらない。


 パチパチと焼ける音と黒煙が辺りに蔓延してきた。今までの彼女との思い出が男の脳裡をよぎる。


 だからなのか分からないが、なぜかふと、ある言葉が男の口を突いた。


「――なら、姫さんのその首飾りも、娘にあげてやれ……」


 女王の豊満な胸の谷間に鎮座している幼子の拳ほどの宝石を擁した首飾り。巧緻な装飾など皆無であるのがかえって女王の品位を際立たせている。


 その代々王家の女王にのみ継受されている首飾りを形見として娘に渡すよう言った。


 言ってしまった。


「――っ。……そうね。せめて『これ』くらいは残してあげないと」


 なぜか少し驚いた表情の女王は、胸に煌めく首飾りを娘の首に掛けてやる。そして男も帯剣していた双剣――黒く反りのあるものと、白く真っ直ぐなもの――のうちの一振り、反りのある方を女王に渡す。そして、


「…………」

「……んっ」


 刹那、言葉無く、男と女王は唇を触れ合わせる。そして後顧の憂いはもはやない、とでも謂わんばかりの雰囲気で女王は男から一歩下がる。


 少女は女王に肩を押され男にしがみつく。


 女王は男と娘に向かって、これからの未来を寿ぐ。


「これから……………を――に…………。――か幸せに…………」


 辺り一面を炎が埋め尽くす。


「俺は……ッ! ――ん…………て――だった……ッ! ――が…………ッ!」


 男が少女を抱きしめながら、声の限り叫んだ。


 少女は最後の最後まで、母の顔を涙で溺れながら見つめ続けていた。


 女王も美麗な顔を、濡れた真珠で着飾った。

 


 その日、大陸西部に位置する愛と慈悲に満ちた千年王国は、繁栄の帳を下ろした――。


お読みいただき、ありがとうございます!


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