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美咲の夢日記:下着売りの少女

作者: misaki

ある年齢まで私は施設で育った。将来の夢は思い描けなかったが、ただの男女混合の集団生活であり、世間が思っている程、不幸ではなかったように思う。物心ついた頃から私の遺伝子情報の元は記憶にも存在しない。出会った事もないので両親って言い方は苦手。出自について興味はなく、苗字は日本で最も多い“佐藤”、名前は200×年のランキング第1位の“美咲みさき”だった。いろいろ、てきとーだったんだろって事だけは分かる。


「美咲ちゃんを引き取りたいって人が来ているから、ちょっと……」

「はーい」


ある日の事、こういうのは時々ある。自称親類をかたる事が多い。目の前の人物が善人か悪人であるか、こればっかりはガチャ。家族の絆が芽生えて幸せに暮らす事もあれば、真の両親でないならば、誰しも一皮剥けば人間って動物のオスかメスであって、いたずらで壊れて2人、3人になって出戻る子もいる。正式な呼び方はわからないが、寮母が付き添い部屋に向かう。


「母方の遠い親戚で……、すごく真面目そう」

「それ、おじさん?」

「きっと、いい人。これ以上の人はいま逃したら次はないかも」


薄暗い廊下に響く声。懸命に説得する寮母を見上げる。1人居なくなったら施設の負担が減る事は知っている。潮時かも分からない。断る事は出来るだろうか。蝉の鳴く声が木霊する。流れる汗が下着ににじみ、気持ち悪かった。寮母が軽く扉を叩く。


「お待たせしてすみません、美咲ちゃん連れて来ました」


寮母の声は明るい。私は内心「やっぱりおじさんじゃん」って呟いていた。身なりから判断するに裕福ではないっぽい。背を押されて席に着く。嫌な時間のはじまり、露骨な人ならブラのカップまで聞いて来る。困った。思案する。あれで行こう。


「はじめまして! 佐藤美咲です。母はどういう人ですか?」


主導権を握りたいので先制パンチしてみた。おじさんは情報端末スマホに知らない女性の画像を写し出し差し出す。頭がぼんやりする。AI生成か私に似た誰か。正月の集まりか、顔真っ赤で談笑する人々の中に、その人は居た。


「親戚の集まりで何度か会った事がある。顔は遠くからだったけど美咲ちゃんに似ていて、振る舞いはかなり大雑把な人だったかな」

「そうですか。具体的には?」

「お酒を注いで回っていたけどよくこぼしていたよ。だから覚えていたんだけどね」

「そうですか。会話はした事あるの?」

「注ぎますって言ってきたね」

「は、はぁ……」


こいつはコミュニケーション下手か。当たり障りのない会話のデットボールが続いて終了した。部屋に残る私たちは今後の事について話し合う。


「美咲ちゃん、あの人どう」

「……悪くないかも」


寮母の問い。この一言が出た事に私自身も驚く。終わった。トントン拍子に引き渡しの手続きが進んでいく。決定は絶対で止める事が出来ず困惑する。施設の友だちからいろいろ避妊具やらもらった。憐れみの視線が痛い。でも、おじさんの事を思い出す度、じんじんした。


——その日

「いままでありがとうございました」


礼服である制服に身を包み一礼する。見送りは総出で出立した。揺れる車。助手席に座り横顔を盗み見る。……ギリ30代っぽい。露出のあるスカートだから、いま襲われたら困る。あれも子供っぽいから恥ずかしい。ポッケのゴムをムニムニしていた。


「ひぃ……」


ガチャ失敗っぽい。窓を全開にして、ココロを無にする。喫煙者はムリ。


——あくる日

バスタイム。準備で部屋の箪笥たんすから服を取り出す。古いパンツブラがなくなり新品が入っている。「ウソっ、お気に入り、売っちゃったの?」ココロの中で呟く。需要があるから供給する人がいるってだけの話。中古の上下で10000円。問い詰めたくても、あの人は不在が多い。取引に使っているPCを無断で立ち上げる。


「ふ〜ん、えっちじゃん。35点」


椅子にだらしなく座り、やり取りに目を通す。見ず知らずのオスがお気に入りの下着を嗅いで興奮している様子が瞳に映る。あの人は私を騙る。事後報告が届いていて顔が好みだったら閲覧する事もあった。うずく事もある。大半はグロくてキモいからムリ。


——ある年

卒業式当日、あの人はやって来た。私は満面の笑みで言う。


「四年制大学に進学出来て嬉しい!」


私はそのカネの出所を知っている。あの人が父だって事も。


2024年8月14日〜15日にかけて鮮明な夢見たのでつらつら書いたのです。

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