謎の副収入
俺たち一家の家計管理は俺がしている。月に二万円までは、俺が自分の小遣いとして使ってよいという決まりになってはいるが。
パソコンの表計算ソフトで自分で作ったシートで家計管理をしている。愛美の目がそこに入ることはないと思うが、月二万円までという自分の小遣いは遵守している。今更、そう欲しいものもないのだし。
ところがある月。収支計算が合わないという事態が発生した。それも足りないのではなく、十万円も余るのだ。
翌月もまた、お金が余った。今度は十五万円も。不審に思い、改めて通帳などを確認すると、確かに謎の入金があった。この謎の入金は一体何なのか。愛美には心あたりがあるかもしれないので、愛美に聞いてみることにした。
「ああ、多分それ、お客さんからのチップ、よ。透は気にしないで。こういう仕事をしているとそういうこともあるのよ」
どうも、夜の「お水」の仕事でのお客さんからの入金らしい。愛美の元旦那からの慰謝料か何かかとも疑ったが、元旦那は今更そんなもの払ってくれる人じゃないと言っていた。離婚調停のときに一括で慰謝料を受け取って、それでもう終わりということにしたとか。
その後も数ヶ月の間、謎の入金、愛美にいわせれば「お客さんからのチップ」の十万円とかが入ってくることが時々あった。
俺のデイケアでの介護職での稼ぎ、愛美のダブルワークでの稼ぎ、そして「チップ」。
「チップ」というのがそれにしては多額であることもあり不気味ではあるが、そのおかげで家計にも少し余裕というものが出てきたのではないだろうか。ある晩、二人の子供を寝かしつけたあと、家計の集計のためにパソコンに向かいながらそう思う。
家計に余裕が出てきたこともあるし、そろそろ動きの鈍くなってきたこのパソコンも新調したいんだよね。それに俺の携帯電話、いわゆるガラケーもそろそろスマートフォンに機種変更したいな。
金銭面ではある程度自由だった独身時代以来、久しぶりに物欲というものを感じてしまった。その物欲というものも、一度思い巡らせてしまえば、これまた次々と出てくるものである。毎月二万円の小遣いの余ったぶんは貯蓄しているが、物欲を満たすにはそれだけでは到底足りなくなってしまうだろう。小遣いももう少しでも増額されればなぁ。まぁ、どうせ愛美に相談したところでダメ、の一点張りだろう。「チップ」というのも愛美の稼ぎといえるものであるのだし。
悠と葵、子供二人の寝顔を確認してから俺も眠りに就く。明日のデイケア勤務のシフト、俺は休日だが、愛美は出勤だ。しかし、今夜愛美が帰るのはまだまだ後だろう。今晩もお先に休ませてもらおうか。