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故郷への絶望

 正月の三箇日が過ぎて、一月四日になった。

 世間でもそろそろ仕事始めのところが多いのだが、今だに実家に居る俺に対して父親が「そろそろ仕事に戻らなくていいのか」と尋ねてくる。正月と呼べる期間も過ぎたのでそろそろ打ち明けなければ。

 両親の前で事の経緯のあらましを話した俺。予想していたとおりのことながら、なんだ、最近の若い者は、などと呆れられた。仕事を辞めるのは自分の勝手だが、いつまでも無職でいるつもりか。ぼやっとしていないで早く新しい就職口を見つけろと。

 父親が言う。

「俺も今年で定年なのだからな。いつまでも親を頼ろうなんて考えてもらっては困る。俺たちにも老後の生活ってものがあるのだし」

 続いて母親が口を開く。

「もう透は三十歳の大の大人なんだから。自分の責任は自分で取らなければならないの。ただ、あなたのために私たちもできる限りのサポートはしていくつもりではあるわ。ここは透の家でもあるのだから、頼りたかったらいつでもここに戻ってきていいの」

「母さん、あまり透を甘やかすのもどうかと思うぞ。透、結局十年も東京に居て、お前はいったい何を学んできたのだ」

 父親が続けて言う。

「とにかく、俺が定年になる春までに、透も自分の新しい就職口を見つけること。そして、就職したらその仕事を続けること。それがこの家に透を置いてやることの条件だ」

 失業手当も永久にもらえるわけではない。貯金だって少ない。お金というものがないと、住むところが保障されないどころか、生きていくことすら出来ない。そういう社会である。お金を得るためには働く。これ以外の手段もあることにはあるかもしれないけれど、働くのがいちばん「無難」で「堅実」な方法であるには違いない。


 とりあえずは東京の汚い部屋をひとりで引き払いに行くことになる。この引っ越し作業が終わったら、今度こそは東京に戻ることはもうないだろう。

 「最後の東京」で「遊んで暮らして」やった昨秋。そのときに大事な貯金や失業手当を散財して買ったどうでもいいようなものもほとんど捨てていくことになった。実家に持ち込んでも邪魔になるだけだし。どうでもいいようなもの、それは主にオタク趣味丸出しのグッズである。

 無職になったにも関わらず、新しい仕事に就くつもりもなく、東京から去りたいのなら即去るわけでもなく、何故に三ヶ月ばかりの期間を「去りたい」はずの「東京」で「遊んで暮らして」いたのだろう。改めて考えてみると本当に馬鹿らしい。頭が少しおかしくなっていたんじゃないのか。荷物の梱包がすっかり終わってあとは運送業者に来てもらうだけになった、東京を本当に去ってしまうことになる前の晩、暗い部屋の中で寝袋に入りながらそう思っていた。



 東京のアパートを引き払ったら、次は地元富山の公共職業安定所、いわゆるハローワークへ求職者として通うことになる。

 寒空の外から暖房も効いた建物内に入ると、もわっとした熱気がやってくる。息が詰まるほど大勢いる求職者たち。皆、生活に追われて、新しい仕事に一日でも早く就くことを希望しつつという最中であろう。仕事を失っている立場である以上皆元気なんてものはなくしているようだ。冬場の人が集まる場所故にマスクをした人も多い。まるで病院の待合室のようである。

 子連れで来ている若い女性もちらほらいる。赤ん坊の泣く声が響き渡ることすらある。周りに申し訳なさそうな顔を見せつつ赤ん坊をあやすその母親。俺も赤ん坊の泣き声なんて聞こえると、はっきりいって不愉快だと感じてしまう。ただ、よく指摘されるように、少子化の社会でありながら、それはいささか心の狭い考え方であること。それは頭では解っている。

 子供を連れているだけに、毎日の生活費に加え、子育ての費用もかかる。それ故に一日でも早く新しい仕事を見つけたい。その気持ちは切実なものであろう。


 春までに仕事を見つけないと、実家さえも追い出されることになるのだから、俺も必死だ。モニターに向かって年齢などの条件を入力して、求人を検索する。

 なんてこったい。少子高齢化が日本全国により先駆けて進んでいる、ここ田舎の富山。福祉といえば聞こえは多少はいいかもしれないが、介護の仕事がほとんどである。まぁ、いちどはもうコンピュータ相手の仕事なんぞからエスケープして人と人の接点を大事にしたいなんぞ思い上がっていた我が身。そう思っているのならば、とりあえずは介護の仕事に飛び込んでみたらどうかね、と自分で自分にささやく。

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