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Report-2 『ダンス風呂ア』は沸いている

最近、私は温泉巡りにはまってるんだ。

温泉に限らず疲労回復には入浴が1番だね。

おぉ!君も興味があるのかい?

なら私が今まで行った中で、最も刺激的な温泉について話すとしようか。

温泉に刺激はいらない?

そう言わずに、ひとまず聞いておくれよ。

きっと気に入ると思うよ?





温泉巡りにはまって、私は結構色々な所に行った。

自分の温泉巡りのルールとして、訪れた温泉で出会った人にオススメの温泉について聞き、次に行く場所を決めるようにしていた。

ある旅館にいった時、女将さんに教えて貰ったのが、その温泉だった。

女将さん曰く、


「明るい音楽が流れていて、皆楽しそうに踊っていたんです。温泉なのに。

私もなんだか楽しくなって踊ってしまったんですけど。」


だそうだ。

リラックスして休むことが目的の温泉で、人々が踊っている。

温泉好きとして、研究者として、これは行くしかないと私は決意した。


女将さんに聞いた場所を目指して行くと、そこはちょっと山の奥にあった。

所謂 秘湯みたいな感じで、落ち着いた外観の建物には「鶴の舞湯」と書かれた看板がある。

中に入ると、昔ながらの番頭台に老人が座っていて、入浴料を支払うと 入っていいよ と言われた。

番頭台の左右に2つ入口があり、暖簾がかかっている。

普通、暖簾には「男」や「女」などと書かれているものだがここは違った。

書いてあるのは「STAGE」と「FLOOR」。

何だこれは?

フーム と悩んでいると番頭台の老人が、初めてなら「FLOOR」にしときな と言ってくれたので、そちらの暖簾をくぐる事にした。

至って普通の脱衣場で脱衣し、ガラスの扉を開けると、立派な大浴場が広がっていた。

浴場には老若男女、十数人の人がいた。

入口で男女分けされていなかったから予想していたが、やはり混浴か。

洗い場で身体を清め、いざ湯に浸かると温かさが染み渡った。

ふぅ と息を吐くと隣にいた女性に話しかけられた。


「初めて来たの?

気持ちいいわよねー、ここって。」


「ええ、身体の芯まで温まりますね。」


「そうよねー。

でもね、お楽しみはこれからよ。」


始まるわ と彼女が言った瞬間 、浴場内の明かりが全て消えた。

そして天井から出てきたのは……ミラーボール?

途端に光を放つミラーボールに合わせ、音楽が流れ出す。

アップテンポでつい身体が動いていまうリズムの曲だ。

周りを見渡すと入浴客が思い思いのダンスをしている。

湯船の中でタップダンスをする者、浴場の床でヘッドスピンする者。

話をしていた女性もキレのあるステップを踏んでいた。


「あなたも!踊りましょ!」


そう言って手を伸ばす女性にやや躊躇する。

この浴場の人々は纏ったタオルがはだけるのも気にせず踊っている。

最終的には全員全裸だろう。

と、躊躇っているうちに異変に気付いた。

何やら身体が熱くなっている。全身に血が巡り、心臓の鼓動が響く。勝手に脚が、腕が動き出す。

まるで全身の細胞が踊れと言っているかのように。

女性の手を取ると、自分でも驚く激しい動きで私は踊り出した。

楽しさや充実感、そういうもので心が満たされた。

やがて曲が終わると、何事も無かったような浴場に戻っていた。

ミラーボールもなくなっていた。

残されたのは踊り終わって汗だくの入浴客だけだった。

私も彼らも結局全裸だったが、彼らは笑い合いながら再び汗を流し温泉を楽しんでいた。


浴場と脱衣場を出て、番頭台の老人にインタビューをする事にした。


「ここは何なんですか?」


「温泉だが。」


老人が答えた。


「何故音楽やミラーボールが?」


「ワシが子供の時からずっとある。

あんた、ここの店の名を知ってるかい?」


「「鶴の舞湯」と書かれていました。」


「そうだ。

ここの温泉を作った初代はワシの祖父でな。

源泉を探してこの山に登った時、川辺で動き回る鶴を見つけたそうだ。まるで舞いを舞っているような優雅な動きだったと聞く。

近づいてみると川の水温が高く、調べると上流で温泉が湧き出していた。

そこで温泉の存在を教えてくれた鶴の舞いから名をとって「鶴の舞湯」と名付けたという。」


なかなか良い物語を持った温泉だ。

話から推測するに、踊ってしまうのは湯が原因だ。

ミラーボールや音楽については記録が残っていないらしく、いつの間にかあったと言う。

おそらく温泉の湯の異常性に連動して発生したのだろう。

しかし、冷静さには自信がある私まで踊らせるとは恐ろしい温泉だ。

ただ、ダンス中の幸せな感覚は癖になりそうな程良かった。


「どう?楽しかったでしょ?」


暖簾から出てきた例の女性が話しかけてきた。


「ええ、癖になりそうですね。」


「そうね。

私も大好きよ、ここ。」


「皆さんが何度も来られる理由わかる気がします。」


「ふふっ。

また会えたら一緒に踊りましょ!

じゃーね!」


そう言って女性はウインクをして去っていった。

まるで温泉の湯気が消えるように。


老人に一礼して、私も建物を出て看板を見上げた。

次に来る時は「STAGE」の暖簾もくぐってみようか なんて考えながら。






さてさて温泉の話はここまでだよ。

結局「FLOOR」と「STAGE」の違いは何だったのか?

それは2回目に行った時分かった。

「FLOOR」は今の話の通り入浴客全員が自由に踊れる温泉。

「STAGE」は1人だけ湯船に入ってダンスし、周りの人はそれを見て楽しむんだ。1曲ずつ交代でね。

どうだい、君も一緒に行ってみるかい?

裸になりたくないから嫌だ?

それは確かにそうだねぇ…。




Report-2 『ダンス風呂フロア』

色んな意味で汗を流せる秘湯温泉

心も身体も踊った後は、ゆっくり温泉を楽しめる

ミラーボールと湯煙の下、人々が舞い踊るダンスフロア


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