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Report-1(3) 白き追憶の『半能薬』

「お墓には、ここへ捧命薬を求めてきたやって来た人々が眠っています。

ただそれは、彼らが望んだ事なのです。」


志布岐の言葉に私は聞き返した。


「自ら死を選んだと言うのですか?」


「いいえ、彼らは死んだのではなく、繋いだのです。

……この花は人の命を栄養に実をつけます。

その実こそが捧命薬の材料です。

効果はご存知の通り、病気・怪我の完全治癒です。」


志布岐は 命を栄養に と言った。

何故彼らは薬を求めたのに、ここでこの花の栄養となったのか?

それは薬を使用するのが別の人間だからだ。


「彼らは自分の為ではなく、誰かの為に命を捧げたのですね。」


志布岐は静かに頷いた。


「よくお分かりになりましたね。

ここへ来た人々は皆、大切な相手の為に薬を求めていました。

病に侵された我が子を救わんとする親、大怪我をした教え子の為と言った教師、そして恋人の運命を変えようとした男性など…。

例を挙げればきりがありません。」


その中の1人が依頼人 ツグミの恋人だったのだろう。

ドクダミの花言葉通り、まさしく自己犠牲の結晶という訳だ。


「止めないのですか?命を捧げる彼らを。」


そう言った私に、志布岐は静かに答えた。


「私には止めることは出来ません。

私の仕事はここへ薬を求めてやって来た人々を案内する事。

そして屋敷の者達も、死にゆく彼らの想いを手助けするために、彼らが届けたかった相手に薬を届ける事を使命としています。

それは愛する人の為に命を捧げるという、気高い彼らの覚悟を知っているからです。

だからこそ、彼らを止められないし、見届けたいと思うのです。」


志布岐の言葉は偽りの無い真っ直ぐなものだった。

私には反論する事が出来なかった。


「薬の秘密はこれくらいです。

他に何か気になることはありますか?」


黙っていると志布岐がそう尋ねてきた。


「この花はいつから存在していたのでしょうか?」


「具体的な時期は分かりませんが、人が薬を求め始めてから、と言うべきですかね。」


「貴方は…いや屋敷の方達も含め、貴方達は何者ですか?

人間…ではありませんね?」


志布岐は少し驚いた様子だったがすぐ微笑んで返した。


「流石は研究者、バレていましたか。

その通り、私達は人間ではありません。

私達はいわばこの花自体の化身のようなものです。

とはいえたいした力もありませんが。」


「なるほど。…知りたい事は以上です。ありがとうございました。」



調査を終える前に、志布岐に案内してもらい1つのお墓の前に立った。


「彼女は元気に過ごしていますよ。

貴方の覚悟、そして愛のおかげで。」


お墓に語りかけた言葉は、ツグミの恋人に届いただろうか。

そう思い、立ち去ろうとする私に声が聞こえた。


よかった ありがとう


と。





さて、1つ目の話はこれでおしまいさ。

レポートは出来たかい?

おぉ流石だね。

ん?ツグミになんて報告したのかって?

ああ、彼女には万能薬は海外で開発中の超回復薬だったと言ったよ。

開発中の薬は正規のものじゃない、だからこっそり飲ませに来たんだって。

ツグミは半信半疑だったけど押し切った。

え?なんで恋人の事を話さなかったのか?

君も無粋だなぁ。

もし恋人が自分の為に犠牲になったと知ったらツグミは後悔するだろう?

そんな事は天国の彼も望んでない。

必要な嘘ってのもあるもんさ。

…この薬、君なら欲しいかい?




Report-1 『半能薬ばんのうやく

・正式名称 = 捧命薬

・1人の命を犠牲に作ることが出来る、

どんな病も怪我も治癒する薬

・薬を使う人間と、薬を生み出す人間、

救われるのは1人だけ

・決して万能などでは無い、半分しか救えない、

覚悟と愛と命の薬

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