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Report-1(1) 白き追憶の『半能薬』

君は怪我した事はあるかな?

もしくは病気になった事は?

生活の中で擦り傷や風邪になった経験は誰にでもあると思う。

それらは正しい処置を行えば治るものだ。

しかし、世の中には治療法の見つからない不治の病や、手の施しようがない大怪我なんかも存在する。

もし、それらの症状をも治すことが出来る薬があったら君は欲しいと思うかな…?



私が険究所を開いてしばらくしたある日、1つの依頼が届いた。


「万能薬の正体を調べて欲しい。」


その言葉から始まった依頼書が全ての始まりだったんだ。


依頼書を書いた女性に話を聞くため、私はある街へ向かった。

指定された家の扉をノックすると、依頼人の女性が出迎えてくれた。

ツグミと名乗った女性は私をソファーに案内し、2人分の紅茶を淹れてくれた後、


「自分は万能薬を飲んだのです。」


と、彼女の身に起こった出来事を語り始めた。


「私は半年程前、トラックに撥ねられ大怪我を負いました。即死は免れましたが内臓が損傷しており、医師には持って1ヶ月と言われました。」


お疑いですねとツグミは言い、病院の診断書を見せた。どうやら本当の事らしい。

不運な事故だったのだろう。

だが謎なのは半年たった現在、こうして生きている事だ。

今の話を聞かなければ、事故で怪我した事など想像も出来ないほど健康に見える。


「つまり、大怪我をした貴女はその万能薬を使用して全快したと?」


私がそう問いかけると、ツグミは答えた。


「その通り…いや、少し違いますね。私が使用したのでは無く、使用させられたと言うべきでしょうか。」


使用させられた?

望まない状況下で他者に使用を強制されたのか。

私が思案していると、ツグミは話を続けた。


「入院中、私は出来る限りの治療のおかげで意識はありましたが、声も出せず動けない状態でした。見舞いに来た人の相手もろくに出来ないため、面会拒否にして、ぼんやり窓の外を見て過ごしていました。」


恋人だけは面会を拒否してもずっと病院に来ていたそうですが と寂しげに笑った。


「事故から2週間ほどたった日の夜、私が窓から空を見ていた時です。ふと何かの気配を感じ、視線をドアに向けるとそこには黒装束の2人組が立っていました。

私は声が出せないため助けを呼べず、ただ怯えるだけでした。

すると2人は音もなく私の方へ近づくと小さな袋から1粒のカプセル薬を取り出しました。

そして私がつけていた人工呼吸器を外すと、カプセル薬を私の口に押し込んだのです。

吐き出そうとしましたが、ペットボトルに入った水で飲み込まされました。

その後すぐ、強い眠気に襲われ、私は眠ってしまったのです。

翌朝目を覚ますと、2人組はもういませんでした。」


そして目覚めると身体がとても軽く感じ、声も出せるようになっていた。

急いで検査したところ身体の負傷は擦り傷1つ無く、一般人以上に健康な身体と診断されたのだった。

2人組に関しては病院の医師ではなく、誰もその存在を知らなかったという。


そこまで話を語り終え、ツグミは紅茶を飲んだ。

つられて私もティーカップを持ち上げたが、口には運ばず


「2人組の特徴は覚えていますか?」


という質問をしたが、ツグミは首を横に振った。


「夜中で暗かった事とそもそも意識が薄い状況下でしたから、全身黒い服装だったとしか……あっ!」


急に大きな声を出したツグミを見ると、ごめんなさい と謝りつつ、1つ覚えている と言った。


「眠ってしまう直前、2人組がこちらに背を向けた時、ローブのような黒い服に花みたいな刺繍があったんです。」


あまりしっかりと思い出せないけど とツグミは記憶を手繰るように続ける。


「ハート型の葉と十字型の花弁があったと思います。」


それだけ分かれば十分だ。

私は少しタブレット端末を操作し、1枚の写真をツグミに見せた。


「これです!確かこの花!」


そう言ったツグミに対して私は少し躊躇った後、最後に1つ質問した。


「退院後あなたの周りで変わった事はありませんでしたか?」


ツグミは目を見開いて驚いた様子だったがこう聞き返してきた。


「変わった事では無いかもしれませんが…。先程話に出た私の恋人を覚えていますか?」


ええ覚えています と私は頷いた。


「彼が…いなくなったんです。今も行方は分かりません。」


きっと大怪我した上、会おうともしない自分に愛想が尽きたんですねと自嘲気味に笑ってツグミは口を閉ざした。


冷めてしまった紅茶を飲み干し、万能薬の件調査しましょうと私は言った。



ツグミの家を出てから、1度溜息をつく。

調査結果は良いものだけでは無さそうだと私は気を引き締めた。

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