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VS プルシスト・グラスエイプ


◆「6-27 セルトハーレス警戒戦 (2) - 牛の屠殺」より:VS プルシスト・グラスエイプ


 ともあれ、作戦開始だ。


 1分もしないうちにマップ情報には動きがあり、一番近くにいた赤丸が俺たちに向かって移動を始めた。

 現実の方でも山道の向こうから一匹の水牛が猛烈な勢いで駆けてくるのが見えた。


「きたぞーーー!! プルシストだ! 1匹だ!!」


 物見の兵が大声をあげた。


 見た目はメイホーでも見かけた水牛そのままの姿だが、二本の角は少々攻撃的で、螺旋を描きながら上に向けて伸びている。あれがプルシストだろう。鉄の防具にあの角は刺さるんだろうか。


 ――ブモオオォォッ!!


 物見の大声に呼応するかのように駆けてくるプルシストは猛々しい声をあげたが、基地の前の開けた場所ですぐに悲鳴じみた声をあげた。誰かの射った矢が彼の目の上に命中したからだ。


 プルシストが痛みに突進を止め、引き返そうとしたらしいが、無数の矢が彼を無情にも襲った。

 鼻、側頭部、首、胴。一本も外れることなく刺さった矢は間もなくプルシストを地に倒した。しばらくプルシストは足を動かしていたが、やがてパタリと動かなくなった。


 見た目は水牛そのものなので少しかわいそうにも思ってしまったが、俺のそんな現代っ子心情をよそに物見からは、


「今度は3匹だ! 山からも2匹!!」という声。


 声のままに山を見てみれば、確かに真ん中の山道から3匹、山道の左右から1匹ずつ降りてきていた。いずれも突進してきている。あまり憐憫にうつつを抜かしている暇はなさそうだ。


 先ほどと同じく間もなく矢が飛び交い、先頭を行く3匹のプルシストのうち2匹は間もなく失速したが、一匹が無傷のまま突進してくる。

 前にいるのはホロイッツだ。大きな両刃の斧を肩に乗せている。


 斧は、銀色の刃には少し意匠が刻まれているようだが目立ったものはそれだけで、高価な代物ではないことは分かる。子爵もプルシストに鋼のものは使うなと言っていたので、安物かもしれない。とはいえ、牛の首を両断するのならそれなりの殺傷力は必要か。


 そんなホロイッツはやがて軽く飛びのいて、プルシストの突進の射程から外れた。結構早すぎる回避だったが、全力疾走しているプルシストが急な軌道修正をできるようにはちょっと思えない。


「ふんっ!!」


 実際その通りだったようで、プルシストがホロイッツの横を通り抜けようとする際、ホロイッツはタイミング良くその太い首に両手で斧を思いっきり振り下ろした。

 バキン! と何かを断ち切る鈍い音が一瞬聞こえ、そのまま斧は地面に突き刺さった。切断された首が前方に転がっていき、プルシストは刺さった斧につまずいて滑るように地面に腹から伏した。


 プルシストの首はもちろんなく、首からは骨肉の断面図が覗いている。


 見事なものだが……えぐい……。牛だからかそんなにメンタルダメージはないようだけれども。


 そういえば左右からも来ていたなと思い、気持ちを切り替えて見てみれば、右の方の一体は既に倒れていた。深々と首に矢が刺さり、血を流していた。

 左の方のプルシストは……ちょうどエリゼオが肩から両断したところで、青いロングソードについた血を切っていた。前脚が斬られている。傍にはイェネーさんもいて、彼もまた長剣の血を切った。二人ともさすがだ。


 これはいよいよやることがなくなるかもしれない。俺がやることなくなるのは別に構わないのだが……。


 ディアラは俺の傍で槍をしっかりと構えて前方の討伐模様を観察している。俺のようにたじろいだりしている様子は一切なく、どことなくうずうずしているように見える。狼戦に幾度となくそう思ったか分からないが、狩人の申し子のようだ。

 俺たちの後ろでは、オランドル隊長をはじめ、駐屯兵たちが暇そうにしている。暇そうと言ってもしっかりと剣を構えていて、世間話をしているとかさすがにそこまでの砕けた雰囲気はない。


 まあもう少し様子を見よう。ミノタウロスもいるしね。プルシストは前座だ。


 特に変わったこともなく、さらに5匹のプルシストと小柄なカーフ・プルシスト1匹が同様のやり方で始末されたあと、ロウテック隊長が石塁から降りてきた。少し急いでいる様子だ。矢でもなくなったか?


 マップでは特に変わった動きはない。香りがまだ森の奥には届いていないのか、運よく転がっているだけですんでいる憤懣の香も、依然として白煙を吐き続けている。


 隊長はイェネーさんの元に行き、頷いた。入れ替わりにイェネーさんが移動する。イェネーさんが駆けていった先には小屋があり、大きな台車があった。

 用事は台車だったようで、彼は急いで台車を転がしていく。それと同じく、後方のいた兵士の半分以上が持ち場を離れて台車を転がしているイェネーさんの元へ駆けていった。


 彼らは台車に畳んであったスロープを降ろしてプルシストの死体を乗せ、石塁の方へ移動させていく。

 何してるんだ? 邪魔とか?


 俺はベイアーの元に行って、彼らが何をしているのか訊ねた。


「肉や革の確保ですね。プルシストは北部駐屯地の貴重な財源なんです。ああやってなるべく損傷が少なくすむように隅の方に移動させています。今は仮の移動ですが、あとでまた大掛かりな移動がありますよ」


 お金はいるだろうけど……相変わらずこの世界の人たちは逞しい。


 移動を終えてイェネーさんが持ち場に戻り、ロウテック隊長も石塁に戻った。


 しばらくすると、またプルシストたちがやってきた。

 今度は10匹とかなり多い上に、プルシストの背中にグラス・エイプが乗っかっているのもいた。なるほど、確かに少ない数でプルシストたちを相手するのは危険だ。いくら猛者だろうと、牛のような巨体が何体も押し寄せてきたら命の危険もあるだろう。


 今度は矢の他に、魔法班も加わった。数の減ったプルシストに対し、首を断つか、前脚を切って倒したあとに止めを刺すかの同様のやり方でホロイッツたちが始末していくが、さすがに数が多くて手に余ってきたので、俺とディアラの出番もまわってきた。


 ディアラは打ち合わせ通りに、ホロイッツがそうしたように、プルシストの愚直な突進の直線範囲から軽々と逃れたあと――首を槍で突き刺した。首の支えを半ば失い、ガクンと頭を垂れたプルシルトは勢い止まらずにしばらく走っていたが、やがて地に伏した。

 少し心配していたが、ディアラの動きは軽やかで、突進に槍が持っていかれるといったこともなく何も問題はなさそうだった。首には相変わらず綺麗な風穴が開いていた。


 一匹は一撃で仕留めることができたが、もう一匹はまだ動いていたので俺が槍にした《魔力弾(マジックショット)》で心臓を刺して仕留めた。

 心臓は前脚の上にあり、手動だと狙いにくい場所のように思うのだが、念じるだけでしっかりと狙ってくれるものらしい。


 ディアラがいくら心配した面持ちで見てきたので、問題ないよ、と返した。

 別にそうしようと思ったわけじゃないんだが、槍の形は牛突槍で、馬車の時よりも少し平べったくなっていた。次は首を切ってみてもいいかもね。


 突進してくるだけのプルシストと攻撃してくる人型のデミオーガを比べると、タイミングが重要という部分はありこそすれ戦闘の難易度は全然違うと思うが、ディアラは頼もしくなったものだ。

 今回のディアラは戦闘中に誰からも指示をもらってはいないし、俺の傍に来ることはあれど、特に不安を漏らすこともしていない。


 グラス・エイプには石塁の人たちが《火弾(ファイアーボール)》で牽制していた。さすがに魔法を見ただけで術者の見分けはつかないが、ヘルミラも飛ばしていたかもしれない。

 火を怖がってプルシストの背中から降りたグラス・エイプたちは、俺たちに向かってくるでもなくあらぬ方向に移動していたが、一匹は《魔力弾》の槍で俺が、他のはオランドル隊長や後続の兵士たちが後ろから走ってきて仕留めた。


 グラス・エイプは聞いていた通り、腕や背中に草を生やした猿で、それ以外の変わった特徴らしいものはなかった。掴みかかってはくるようで一人グラス・エイプから足蹴にされた兵士がいたが、しっかり鎧を着こんでいれば怪我すらもしそうにない。

 ちなみにその兵士はホロイッツから怒られていたバルトロメウスとかいう若い兵士のようだった。彼はあの時の印象のままにあまり戦闘に向かない兵士らしい。1年の勤務でこの様子だと確かにちょっと考え物かもしれない。子爵の噂がほんとならいいね。


 この戦闘が落ち着いた頃、イェネーさんが何か言いたげに俺のことを見ていたが、結局何もなかった。

 イェネーさんとはまだこれといった交流がない。単に俺の力量に驚いてる、信じられないとかならいいんだけども、とにもかくにも戦闘には集中した方がいい。タンカーだしね。


 再び8匹ほどのプルシストの群れがあった。グラス・エイプも2匹乗っかっていた。

 心臓を狙って刺すのと、剣のように降り下ろして首を落とすのをやってみたが、どちらも問題なかった。前者は地面に《魔力弾》が刺さり、ちょっとそのままにしてたんだが、当然のようにプルシストは突進の勢いをもってしても俺の《魔力弾》を折ったりすることはできず、そのまま息絶えることになった。


 同じ要領でグラス・エイプともども何事もなく仕留めると、ロウテック隊長が上空に向けて小さな岩を射出した。《岩槍(ロックショット)》だろうが、放たれた《岩槍》は空中で崩壊し、それなりの音が響いた。砲撃に似せている応用術式とか、なにか仕込みがあるのかもしれない。


 間もなく、4人の兵士が山道に向かっていった。一人は巾着袋を手にしていた。


 何をするんだろうと見ていると、周りの兵士たちにはいくらか緊張が解けた様子があった。マップを見ると、こちらに向かってきそうなものは特にいない。


 広間は言うまでもなく、プルシストもとい水牛や猿の死体がごろごろしている。

 死体の付近は血も流れているし凄惨な現場には違いなかったが、デミオーガとゴブリンの死体の山よりはメンタルダメージは少ない。見慣れたのもあるんだろうけど、人型でなく牛だというのはやはり大きいのだろう。



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