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VS 飛竜

◆「1-4 歓迎」より:VS 飛竜


(中略)


 ――ギャーーーオッッ!


 遥か遠方からでも獰猛さと敵意が伝わってくる強烈な鳴き声。


 近くに「銀竜の顎」という場所があるという情報を得ているので、確実にドラゴンの鳴き声だろうとは推測できたのだが、どんどん大きくなる黒いシルエットを見ていると、やはりプテラノドンの存在がちらつく。

 プテラノドンとドラゴンの見た目の違いがぱっと思い浮かばなかったのもあるし、ゲームではドラゴンの姿は見飽きるほど見ていても、鳴き声の方はあまり聞かなかったためかもしれない。ギャーオなんて声をドラゴンが発したらちょっとかっこ悪い感じもあるし。


 あっという間に距離を詰めてやってきたのはやっぱりというか、ドラゴンだった。

 翼を生やした、生物学的に爬虫類寄りの生き物であり、ファンタジージャンルならどんなゲームでも1匹はいるあのドラゴンだ。


 ギャーーーーオッッ!!


 ドラゴンが空中で止まり、バッサバッサとでかすぎる羽ばたき音とつむじ風の余波を草原の表面になで付けながら、再度鳴き声を発する。つんざくような鳴き声に耳が痛くて思わず耳をふさいだ。


 でっか……。そうでないと思いたかったけど、ドラゴンの目線は明らかに俺にある。


 全身緑がかった紺色の硬そうな鱗で覆われた表皮。つま先や翼の節についた鋭い爪。ぷらぷらと垂れている尻尾の先端には黒々とした俺の顔くらいの球体がついていて、その鈍器の一撃を喰らえば俺の体なんて虫を蹴散らすように軽々と吹っ飛ばすに違いない。

 ドラゴンが口を開ける。口にびっしりと生えている細めの鋭利な歯が覗いた。その動きにビクっと反応してとっさにまた耳を押さえようと構えるがドラゴンは鳴き声は発しなかった。人情なんて欠片もなさそうな黄色い眼が、俺の様子を面白がっているように見えた。


 リアルドラゴンに会えた喜びは多少はあったけど、ドラゴンの態度に友好的なものがなさそうなことが分かったら、慌てるのは早かった。心臓がバクバクとうるさい。


 逃げるか? どうすればいい?


 名案が何一つ浮かばない。強いて言うならやっぱり逃げることが名案だったけど、“一瞬で「カモメ」だった距離からここまで詰めてきた”ドラゴンの速度にどう逃げろと言うのか。


 何も行動を起こさない俺に飽きたのか、ドラゴンはググっと体と翼を反る。その瞬間、ドラゴンの胸の前辺りの一部の空間が歪みだした。

 ただ空間が歪んでいるというだけで、それが“凝縮された空気の塊のようなもの”だと察した辺り俺はゲーマーなんだろう。


 ドラゴンは間もなく俺に向かって勢いよく翼を羽ばたかせた。体や顔を歪ませている透明なそれを俺に向けて何のためらいもなく発射したのだ。


 体が硬直して動けない俺は夢の中なのに走馬燈を見た。

 見たのはシカイプ会議の様子だ。俺は缶ビールを片手に、ゲーム画面を見て笑っている。

 夢の中なのにゲーム内の、それもシカイプをしながらのクライシスのメンバーとの疑似飲み会の様子とか、器用すぎて笑える。それなら実際に朝まで飲んだオフ会の様子にしとけよ。


 ……別れた彼女と結婚してればよかったかなぁ。結婚は人を変える。俺だって変わったかもしれない――



 ――……何も起きなかった。


 おそるおそる目を開ける。

 目の前にあったのは、風の刃らしきものが今まさにゆっくりと(・・・・・・・・・)こちらにやってきているところだった。


 ……は? おっそ。


 風の刃だと思ったのは、やってきている横に広がった3本の爪跡のようなものが薄い緑色をしていて、ゲーム知識から緑といえば風魔法的な攻撃と考えたまでで、とくに根拠はない。

 とりあえずあれに体が耐えられる自信も根拠もないので、まだ心臓が爆発寸前で痛いくらいだし、すぐさま射程外に飛びのいて距離を取る。


 安心すると同時に、風の刃が急に速度を取り戻して一瞬のうちに草原と周りの道に直撃する。


 砂塵と飛び散った草が落ち着いた先にあったのは……ごっそり抉られた地面だけだ。その光景に背筋が寒くなる。

 他に植物はないのかちょっと気になって草原に入っていてよかった。戻っていたら、ティアン・メグリンドの家をこなごなにしていたに違いないから。


>スキル「緊急回避」を習得しました

>スキル「攻撃予測」を習得しました


 スキル習得? 待って。あとで!


 ドラゴンが俺の姿を確認すると、意外そうに観察してきた。抉られた地面には俺の死体が転がっていると思っていたのだろう。

 爬虫類な顔のドラゴンが意外そうな顔をしているように見えたのは、ドラゴンが開けていた口を閉じ、少しだけ首を傾けているように見えたからそう察してみたに過ぎない。


 どっちにしてもさすが知能の高いドラゴンと言うべきなのか、同じ攻撃を二度繰り返すほど愚かではないようだ。

 ドラゴンは風の刃をやめて、今度は滑空しつつ、足の爪を伸ばして突進してきた。俺を捕獲するつもりらしい。


 同時にまた世界がスローモーションになる。今度はさっきよりも少し遅いらしい。というか、だいぶ遅い。


 同じ現象、生き延びる術があることに多少余裕のある心持でいられるせいか、少し冷静になる。

 避けるべく走り出しながら、再表示されたログウインドウをざっと確認する。

 《緊急回避》に《攻撃予測》か……このスローモーションとなにか関係が? でも習得前もスローモーション出てたしな……。避けてばっかりじゃどうしようもないんだよ。

 ひとまず急いで「スキル 緊急回避」と念じる。ぱっと出てくる緊急回避のスキル欄。スキルを実行しようとしたんだけど、この際いい。

 LV1か。スキルウインドウがブレるので立ち止まり、LV10まで上げるべく指で触れる。レベルが上がる1回ごとに軽くエフェクトが入るのが今は鬱陶しい。てか、スキルってこういう風にしか覚えられないの?


 足の爪がそろそろ1メートルを切るところだったので、慌ててさらに家と反対側の草原に走る。崖も森もまだまだ先だ。この草原広すぎる。これじゃどこに逃げても見つかるだろ……。


 音を立ててドラゴンの足がイネ科植物を盛大に踏み潰した。ドラゴンが片足をあげて捕えたと思いながら足を確認する様はちょっと可愛かったけど、顔つきは相変わらず獰猛で無慈悲な爬虫類のそれだ。


 ギャーオッッ!!!


 ドラゴンが今度は威嚇するように俺に向けて吠えた。

 耳が痛い。ビリビリくる。ドラゴンの俺を見てくる顔に怒りの感情が垣間見えるのは間違いではないと思う。


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