ヒトと人間
この宇宙のどこか、
小さな星の話をします。
そこは幸福な星。平和なところ。
化学文明が発達し、病原菌は根絶されて、カラダをパーツごとに交換することができる技術がある星です。
なので、そこでは皆が笑っています。
子供も大人も、男も女も、年寄りも若者たちも、 みんな幸せに暮らしています。
そう、みんなが。
主人公は男の子。
彼は誰よりも優しい、心の持ち主です。
困っているヒトを放ってはいけない。そんな考えの持ち主です。
でも、そのせいでいつも損ばかりしています。
自分の身を犠牲にしてまで誰かを助けようとする。ですがそれは、彼の良いところでもあり、悪いところでもあるのです。
みんなはそれを知っています。
なので、それを利用します。
自分が良ければ全部いいので。
そう、みんな、こころがないのです。
そんなヒトがたくさんいる、とある日常の、ある日のことです。
いつものように、彼は町中を走り回っていました。
それは、誰かが助けを求めているから。誰かが困っているから。
助けを求める声が聞こえるので、彼は走り続けます。
声のする所に着くと、そこには一人の少女がいました。
少女はとても震えていました。まるで何かを我慢しているように。
「……あ」
彼の姿に驚きながらも、少女は安心したような表情を浮かべると、こう言いました。
「助けて…」
それを聞いて、彼は首を縦にふりました。
「こっち。」
少年は少女に案内されるまま歩いて行くと、街を出て、森の中へと入っていきました。
少女が、この先に助けを求めている人が居ると言っていたからです。
辺りが暗くなってきました。
それ程、森の中に入ったということです。
外を走る車の音が、全く聞こえなくなってからだいたい30分が経った頃、少年は恐ろしい光景を見ました。
辺り一面には死体が転がっていたのです。
ですが、少女は何も言いません。
ただ黙ってうつむいているだけです。
すると、少年は少女が震えているのに気づきました。
少年は、少女に駆け寄りました。
すると、
少女は少年に抱きついて、言いました。
「やっと2人きりになれた…!♡」
少年は驚きました。
「だいすき♡」
少年は混乱しました。覚えのないヒトが、急に告白してきたからです。
ですが、それは無理もない事です。
だって少年は、助けたヒトの顔を覚えたことは一回もないからです。
ここで、私が少し説明しましょう。
少女は、昔、少年に助けられました。
少女が恐ろしいストーカーに襲われていた所を、少年は助けてくれたのです。
なので、助けてくれた少年を王子さまだと勘違いをしているのです。
両思いだ。と、勘違いをしているのです。
少年は声が出ません。
病気で声が出せないのです。
なので、少女には、少年の"行動"しかわかりません。
なんで助けてくれたのか、動機がわからないのです。
なので、勝手な解釈をしてしまっているのです。
『わたしを助けてくれた、わたしだけの王子さま』だと。
少年は困っているヒトを見過ごせません。ですが、この光景を見て、少女がしてしまったことをわかってしまっています。
「さぁ、一緒に遊びましょう?♪♡」
気づけば少女の面影は消えてなくなり、そこには少女のようなヒトがいました。
少女のようなヒト言いました。
「どうしたの?こわくないよ。だって私はあなたの味方だもの。あなたもわたしの味方でしよ?そうだよね?」
それでも少年は、ここにいる少女のようなヒトを助けたいと思っていました。
ですが、
少年は声が出せません。
なので、少女のようなヒトは、少年の"行動"しか、見えていません。
本当の"思い"が伝わらないのです。
『僕に頼らずに生きていけるヒトに、なって欲しい。』
その思いは、少女のようなヒトには届いていません。
所詮はこのヒトもみんなと同じでした。
自分のこと"だけ"を考えるヒトだったのです。
少女の姿を模した怪物は少年を押し倒しました。
そして、ゆっくりと顔を近づけてきます。
………
「…美味しい…♡」
少女は言いました。
「もっと頂戴…?」
少女のような、甘い声でした。
『いいよ。』
怪物は、そんな声を聞きました。
「なんだ、喋れるじゃん…♡」
怪物は、少年を見ていて、少年と話しているような様子ですが、
目線の先には少年はいません。
少年は、こうゆう怪物にも慣れています。
ですがまだ、どうすれば助かるかはわかっていません。
なので、少年は考え抜いた結果、
怪物に今、幻を見せているのです。
「あぁ、幸せ…♡」
怪物は、自ら命を絶ちました。
怪物の顔は、とても幸せそうでした。少年はその顔を見て、悲しくなりました。
少女はとても幸せそうでしたが、少年はとても辛いからです。
『こんな方法でしか、僕はヒトを救えない』ということに、少年はまた、絶望しました。
なのでせめて、周辺で眠っている人達全員を"ベッド"へ運びました。
運び終わると、森はさっきよりも暗くなっていました。
少年は森を歩きだします。
そして、街に戻りました。
ですが、
森を抜けても、
ヒト通りの多い街へ着いても、
どこへ行っても、暗いままです。
どんなに光っている所へ行っても、
そこは暗い所でした。
ですが、そこはとても幸福な星です。
だって、みんな幸せですから。
ただ1人の、人間を除いて。
以上。とある小さな星の話でした。