両親への報告。
私とお兄様がお父様の部屋の前に到着すると、お兄様がノックして「父上。ジノとレイチェルです。」と声を掛けた。
しばらくすると、「あぁ、入りなさい。」という父上の声が聞こえたので私とお兄様は「失礼致します。」と、部屋に入った。
ソファーには、お父様とお母様が座っており、向かい側のソファーに「二人共、座りなさい。」と、お父様から言われたため私達は腰掛けた。
「さて、なぜいきなり、こうして皆を呼んだのかは……レイチェル、わかるね?」
お父様は私を見据えてそう言った。
あぁ、やはり婚約解消の件が伝わっていたのだ。
「はい。私とクロード殿下の件についてですね。」
「あぁ、そうだ。」
お母様は心配そうな顔で私を見つめ、お兄様は何の話だとばかりに怪訝そうな顔をしていた。
「先ほど急遽、城に呼ばれてね。クロード殿下から直々にお話されたよ。レイチェル、本気なのかい?」
お父様は心配そうに私を見た。
私とクロード殿下の婚約が決まったとき、お父様とお母様はとても喜んでいたものだから婚約解消を娘の方から申し出たと知ったら怒るかと思っていたが、心配してくれるのか。
予想とは違っていたが、これなら私の意見を落ち着いて聞いてくれるかもしれない。
「はい、本気です。お父様とお母様のご期待を裏切ってしまい、本当に申し訳ありません。でも、私は殿下とのご婚約はあまり気乗りしなくて……。」
「うん?別に期待を裏切ってはいないと思うよ。ただ、お父様とお母様は驚いていてね。レイチェル本人から直接話を聞きたいと思ったんだ。」
えっ?
期待を裏切っていない?
つまり、別にクロード殿下との結婚は別に期待していなかったということか。
つまり、いずれ私が婚約解消をすることを見透かしていたということっ!?
私の考えを見透かしているなんてお父様はすごいと思うと同時に、自分から婚約を解消するだろうという問題児扱いされていた事実に少しばかりショックを受けた……。
「それで、どうなんだい?レイチェル、クロード殿下から距離を置きたいと言うのは本当なのかい。」
私は今こそ言うときだとお父様の顔を真っ直ぐに見た。
「はい、本当です。私はクロード殿下から離れて自由に暮らしたいんです。もちろん、けじめとしてこの公爵家から出て自立して一人で生きていきます。」
「えっ、いやいや待ちなさい!何も家を出ていくことはないだろう。そんな覚悟なんて決められてもお父様は困るんだが……。」
「そうですよ、レイチェル。それに公爵令嬢が自立して一人で生きていくなんて無理に決まっています。」
お父様は困り始め、先ほどから黙っていたお母様も反対し始めた。
でも、私の決心は揺らがない。
全ては私の自由きままな生活を手に入れるためだ!
隣でお兄様が「あのメモ書きってそういうことか。」と、呟くと、「何のことです?」と、お母様がお兄様に尋ねた。
私は説明した。
自立して生きていくために一人暮らしするための準備を今まで続けてきたこと。
これから住む家も資金も用意していること。
家まで用意していると聞いてお父様はかなり動揺し、お兄様は驚き、お母様は黙って私の話を聞いていた。
私が全て話し終わるとお父様は静かに頷いた。
「わかった。レイチェルがそこまでやりたいのならとことんやりなさい。」
「いいんですか!?お父様!」
「あなた!何を仰っているの!?」
お父様はにっこり微笑んだ。
「子供がやりたいと思ったことをひたすら応援するのが親というものだろう。その代わり何かあったらお父様やクロード殿下に助けを求めるんだぞ。後、定期的に我が家に帰ってくること。」
「……あなたがそう仰るのでしたら私からは何も言いませんわ。いいですか、レイチェル。ソルトニア公爵家の名に恥じぬよう頑張るのですよ。」
なぜ元婚約者であるクロード殿下の名前が出てきたのかは不明だが、両親ともに了解を得ることができた!
私はものすごく嬉しかった。
これで私は自由を謳歌した日々を送ることができる!
毎日、魔法の研究に明け暮れても誰も文句は言わない!!
「ありがとうございます!お父様、お母様。クロード殿下との婚約解消をお聞きになったらお怒りになるものだとばかり思っていたけれど、こうして許していただけるなんて……」
「ちょっと待ちなさい!レイチェル、今なんて言った?」
お父様は聞き捨てならない言葉を聞いたとばかりに顔が強張っていた。
お母様も怪訝そうな顔をしている。
どうしたのだろう。
「えっ……。ですからこうして許していただけるなんて……と、言いましたが。」
「いや、その前だ。まさかクロード殿下との婚約を解消したのかいっ!?」
「そうですけど……。えっ、ちょっと待ってください。お父様とお母様は私が殿下に婚約解消を申し出たのを知った上でお話されていたのではないのですか!?」
「馬鹿なことを言うんじゃない!お父様は殿下からそんな話全く聞いてないぞ。そもそも私が殿下から聞いた話は……」
「レイチェル」
ハッと、して私は声がした方を恐る恐る見た。
そこには、鬼のような形相で私を睨みつけるお母様の姿があった。
あまりの怒りでお母様の体の周りにはメラメラと、炎のオーラのが見えてくる。
「ミシェル、あの、熱い!熱いから!炎の魔法をやめてくれ!!」
お母様の隣に座っていたお父様はあまりの熱さにソファーから飛び退いた。
そんなお父様の呼びかけに応じずお母様の魔法の炎のオーラが増していく。
「お、お兄様……。」
あまりの怖さに体が動かなくなり、隣にいたお兄様に助けを求めようとしたが、その姿はなかった。
部屋を見渡してもどこにもいない。
どうやら自分だけさっさと逃げたらしい。
妹がピンチの時になんて薄情な兄なんだ……!
「レイチェル」
再びお母様が私の名前を呼んだ。
「ヒッ」と、小さな悲鳴を上げ、私はあまりの恐怖でソファーの背もたれを掴みながらお母様の方に顔を向けた。
「どういうことなのか説明しなさいっ!!!」
両親が怒ったらすぐ荷物を持って逃げようと考えていたのに、あまりの恐怖で私の頭からその計画はすっかり抜け落ちていたのだった。