公爵令嬢は自立したい。
花々が咲き誇る美しい庭園で私はティーカップを手にし、紅茶を飲んだ。
目の前には私の婚約者にしてこの国の第一王子クロード殿下が微笑んでいる。
「いかがですかレイチェル?あなたのために用意した紅茶は。お口に合えばいいのですが……」
私は令嬢らしくにっこりと微笑むと、「とても素晴らしい香りですね、美味しいですわ。」と、当たり障りのない返答をした。
それを聞いたクロードは「それは良かったです。」と、嬉しそうに言うと、この紅茶はどこで作られたもの、今の時期にだけ手に入れることができるだと紅茶の説明をし始めた。
私は「まぁ」だと「そうなのですね」だの、うんうんと相槌を打ちながらにこにこと笑いながら聞いていた。
しかし、心の中ではハァっと、溜息をついていた。
あぁ、さっさと自立してこんな婚約破棄したい……
私、レイチェル•ソルトニアはこの国の公爵ソルトニア家の公爵令嬢である。
公爵令嬢にしてこの国の第一王子の婚約者、将来的には王妃となりこの国を支える立場になる私は幼い頃からの厳しい教育を受けてきた成果もあり、社交界でも認められる令嬢になった。
茶色の髪をまとめ上げ、背筋を真っ直ぐにしてドレスを着こなし、緑色の瞳を細めて愛らしく微笑む。
立ち居振る舞いが完璧で次期国王の婚約者、誰もが羨む美しい公爵令嬢。
私に対する周りの評価はまさにそれだと言っても過言ではない。
だが、私はそんな周囲の評価に心底うんざりしていた。
理由は……プレッシャーが重い。
私は元々そんな物語に出てくるような完璧な令嬢ではない。
公爵令嬢という立場から必死で勉強をしてきたが、元々は魔法の研究が趣味の魔法オタクである。
そして、令嬢として教育を受ける前も今もそうだが、私はもっと自由気ままな生活をしたいと常に思っている。
完璧な令嬢を演じているが、本当は誰にも干渉されず、ひっそりと魔法の研究をしながら静かに暮らしたい。
そんなことを常に考えているような人間が王子の婚約者など重荷になるだけである。
このままだと将来的に王妃になり、今よりも自由がなくなると思ったらゾッとする。
そうならないために、私はある手段を思いついた。
それは自立することである。
公爵令嬢、王子の婚約者という立場を全て捨てて、得意分野である魔法を職業にして就職し、ひっそりと生きていこうというものである。
別に目の前にいる王子に蔑ろにされたことも、ひどい扱いを受けたこともないため何の恨みもないが、王妃になる気がない令嬢を婚約者にし続けるのも不憫であるため、近いうちにやんわりと婚約解消の申し出をしよう。
金髪碧眼で容姿端麗、頭脳明晰、社交界でも人気の彼ならすぐに新しい婚約者が見つかるだろう。
まぁ、王子との婚約解消が両親に知られたら確実にお怒りになるのは目に見えているからタイミング的に平民となって就職できる準備が済んでから婚約解消の申し出をするのがベストだろう。
あぁ、早く自立して自由な生活をするのが楽しみだわ。
私は王子の話を聞きながら、自立した後の生活のことを考えると顔がニヤけていることに気づかずにいたのであった。