むね肉もも肉、どっちがお好き?
突然だが、むねかお尻、どちらがあなたはお好みだろうか?
男なら誰しも、一度は争ったことがあるのではないだろうか。
――上派閥か、下派閥かと。
簡単に言えば、おっぱいとおしりどちらが好きかという話である。
女性から言わせれば、「低俗な会話ですこと・・・」と一蹴されるかもしれない。
しかしながら、男性にとってその議題は永遠のテーマと言っても過言ではない。
多くの経験を積みいい年になった大人でさえも、その論争に正解を見出せない。
それだけ多くの男性を惑わせる、魅惑の二大派閥なのだ。
そんなナレーションが頭の中を巡っているおれは今、
ふたりの女の子に告白をされている。
状況を整理しよう。
いまおれたちは修学旅行に来ている。時は夕飯時だ。
各宿泊部屋で夕食をとるルールだが、部屋の奴らは女風呂覗くためにみんな出ていった。
きっと今頃玉砕して、生徒指導に折檻されているだろう。
そしてひとりさみしく夕食をとっていたおれの前に、二人の少女が現れた。
ひとりは委員長。
普段は内気だがいざという時クラスをまとめてくれる、そんな寛大な包容力をもっている。
そして胸が大きい。
もうひとりは幼馴染。
とても活発で、陸上部に所属し数々の賞を総なめにしている。
そして尻のラインが見事。
そんな二人がいま、おれに告白を迫っている。
まさに上か下かの派閥の選択を強いられている。
どうすればいい。
幸いにもいまは夕食時。
飯を食べるフリをして、少し考える時間を稼ごう。
まずおれは、むね肉のピカタを口に入れる。
実にシンプル。素朴な味わいだ。
しかし噛めば噛むほど味が出てくる。
じわりとくる奥ゆかしさに、心が揺らぐ。
そういえばこの前見たネットの記事に、おっぱい派の意見が載っていたことを思い出した。
『希望の双丘』『憧れ』『癒し』
『簡単には立ち入れない神聖な地』
『エロスの聖なる丘』『ロマンであり人生』
『夢がいっぱいおっぱい』
数々の意見があったが、どれもおっぱいを教祖かのように崇めていた。
いま口にしているむね肉のような上品さを、言葉通り胸に描いている。
男はみな、聖なる奥ゆかしき秘宝の地を夢見て探求するのだ。
心が揺らめく中、おれはもも肉の照り焼きをほおばる。
――衝撃が走る。
一口目からジューシーな味わい。脂のノリが違う。
上派閥の考えに揺らいでいた中、意識が下へと引っ張られた。
のっけからフルスロットル、聖なる丘からの弾丸ダウンヒルだ。
またおれは記事で見た、お尻派閥の意見を思い出していた。
『まさに桃源郷』『平和のシンボル』『逆ハート』
『男にもある部位なのに、なぜかそこから女性を感じる』
『腰、尻、もものラインはまさに現代のアート』
『下にも夢とロマンが詰まっている事を最近知った』
男女共通の部位のため、胸ほどの神聖さはないかもしれない。
しかしこのもも肉のような、慣れ親しんだうまさ。
この親しみがあるからこそ、その素晴らしき味わいに男は歓喜する。
そして双方の良さを振り返り終えたおれは結論を出す。
――おれには、決められない。
気付いたら走り出していた。
勇気を出してくれた二人を置いて、おれは走った。
どこかもわからぬまま、あてもなく走り続ける。
同時に頭の中も、胸のヒルクライムと尻のダウンヒルの
限界タイムアタックが駆け巡る。
おれはどっちなんだ。どっちを選べばいい。
その答えも、向かう場所もわからぬまま走り続けた。
やがて夜が明けてきた。
汗をかけば、楽になると思っていた。
限界まで走り続け動けなくなったおれに残ったのは、
目から溢れでる『想い』だった。
なにかが吹っ切れた気がして、おれは宿泊先へと帰路に着く。
結論、宿泊先に戻ったおれは二人の告白を断った。
多くの女子からは非難を浴び、おれは異端者扱い。
男子からは侮蔑、懐疑、尊敬の多様な目を向けられ、
これまた浮いた存在として過ごした。
そんな日々の中で、あの時断ったという選択は正しかったのかと
ふと鑑みるが、不思議と後悔の念は残っていない。
最初の質問に戻るが、あなたは胸とお尻どちらがお好みだろうか。
おれはこう答える。
「どちらも大好きだ」・・とな。
答えになってないって?そんなことはないだろう。
上下の双方に共通していることは
男にとっては『ロマン』であること。
たとえ手にできなくとも、
それをぶっ倒れるまで追いかけ続ける。
それも『人生のロマン』と言えるんじゃないか?
なあ、愛すべき男どもよ。