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涙色の愛  作者: 喜多瀬 香
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5話 星野君という人

5話 星野君という人


朝早く起きた私は制服を着るためにパジャマを脱ぐ。ズボンを脱いだ私は自分の脚に目を落とす。朝日に照らされて白く光って見える自分の脚に触れる。


「痣…少し薄くなってる…」


少し乾燥気味の脚を指でなぞる。脚全体にあった痣は薄くなり、私の心の悩みを軽くした。自然に自分の口角が上がっていることに気がついた。


(今日はいい日になるといいな…)


そう願って私は身支度を済ませ、朝ごはんを食べた後に部活のため家を出た。



学校に着いた私は職員室へ音楽室の鍵を取りに向かう。


「失礼します。音楽部の雫川 澪依です。音楽室の鍵を借りに来ました。」


「あっ澪依ちゃん!」


少しハスキーな声が私の名前を呼んだ。私は名前を読んだ先生を見つける。


「どうしたんですか、たちばな先生。」


「あのねぇ3年のお別れ会についてなんだけど…」


「あっはい。」


「毎年のようにまた、音楽部の発表があるからその発表者を決めて欲しいの。」


「わかりました。じゃあそれぞれの楽器で代表者を決めておきますね。」


「うん!じゃあよろしくね。」


橘先生は私に鍵を渡した。


「失礼しました。」


私は音楽室に向かう道のりで青い青空が見えた。少し立ち止まって空を見上げる。きらりと光る太陽が眩しくて手で太陽を隠す。空を翔る鳥が眩くていつか私もこのように羽ばたいてみたいと思った。


「あっ急がなきゃ」

私は音楽室まで走った。


「はぁはぁ…はぁ…体力…無さすぎ…」


音楽室まで走った私の体は息を切らす。必死に酸素を求める。


「ふぅ〜すぅ〜ふぅ〜…」


胸に手を当てて深呼吸を繰り返す。冬の冷たい風が吹いて私の髪の毛を揺らして前が見えなくなる。


「あっちょッッ」


すると少し冷たくなった指が私の髪の毛に触れた。


「雫川さん大丈夫?!」


「えっ?」


どこからともなくやって来た指の主を見る。


「ほっ星野君!?」


「おはよぉ〜」


鼻を赤くして白い息を吐きながら首を横に傾ける拍子に、赤みがかった茶色い星野君の髪がぱらりと星野君の顔に触れる。


「うっうんおはよう。えっでもどうしたの?最近部活来てなかったよね?なにかあっ…」


「その前に中入ろうよ。」


星野君は私の会話を妨げる。


「えっでっでも」


「ね?」


「うっうん。」


私は音楽室の鍵を開けて、自分のカバンを持って中に入る。続けて星野君も入る。音楽室が予想した以上に寒くて私は身震いをする。早く暖房をつけたくて急いでエアコンのスイッチに駆け寄る。光の速さで私はスイッチを入れる。


「みんなが来るまで後30分ぐらいあるから、僕と話そうよ。」


星野君はマフラーをとったあと私をにこやかに見つめながら言った。


「うん。いいよ何の話をする?」


「なんでもいいよ。くだらない中身のない話でもいい。とにかく喋ろうよ。」


「わかった。ちょつと待ってね。マフラーとるから。」


私はマフラーをとってカバンの上にそっと置いた。そして星野君は2人で面と向かって話せるように椅子を置いてくれた。私は椅子に座る。


「おまたせ、何を話す?」

「なんでもいいよ。」

「じゃあさ、なんで部活休んでたの?しかも無断で…」

「それは…塾が忙しくて…」

「塾って…言いに来ればよかったじゃない。」

「うん…そうだね…」


沈黙が私たちを包んだ。


「本当は…」


星野君が口を開く。


「本当は部活に来るのが怖かったんだ。」

「えっ…」


星野君は悲しい顔をしながら私の顔を見て微笑んだ。


「僕、こう見えて臆病だから…親友や友達以外の人と関わりをもつことに怖くなって逃げ出したんだ。最初の方はあっできるかもって思ったけど、どんどん成長していく君を見ていくと自分がとりのこされていく感じがして、君は認められてるのに僕は認められてないって思って、僕は必要とされてないんだって思ったんだよね。笑っちゃうよね。あははは」


「…気づいてないのは星野君でしょ…」

「えっ?」


「先輩達が星野君にあんまり話しかけなかったのは星野君が一生懸命ギターやピアノを練習してたからだよ!元々上手いのにさらに努力するから先輩達も影ながら応援してたんだよ…なのに…部活来なくなって喜多先輩がどんなけ心配したと思ってんの!!"僕は認められてない"?!意味わかんないこと言わないでよ!」


勢い余って私は椅子から立ち上がる。


「認められてるから何も言われなかったんでしょ?全て出来てるから一目置かれたんでしょ!?音楽部の輪の中に入れてるって気づいてなかったのは星野君でしょ!?なのに…"認められてない"だの"必要とされてない"だの…周りを見てなかったのにそんな意味わかんないこと言うなっ!!!」


がむしゃらに言葉を星野君に投げた私は息を切らす。私の言葉を聞いていた星野君は目を丸くして驚いていた。


「ごっごめん…なさい…ついカッとなって…」

「いや、逆にありがとう。周りを見てなかったのは僕だったことを教えてくれて。」


星野君は優しく笑って私を見た。


「いやぁでも取り乱した雫川さんを初めて見たよ。結構いいもんだね。意外でさ。」

「わっ忘れて!忘れてね!絶対に!」

「うん。わかった忘れるよ。」

「ありがとう。」

「やっぱり忘れるのが勿体ないよ!」

「えぇぇ!」

「じゃあ2人だけの秘密ってことはどうかな?」

「星野君言わないでよ。」

「言うわけないじゃないか。じゃあ指切りしようよ。」

「うん。」


「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます指切った!」」


2人で小学生のようにはしゃぎながらに約束を交わす。思わず笑ってしまう私たちを誰も止めようともしない2人だけの時間が過ぎっていった。


「部活が始まるまであと15分あるけど、どうする?」


私は星野君に問う。


「うーんじゃあ…恋バナとかする?」

「えっ恋バナ!?」

「うん。雫川さん好きな人いる?」

「いるって言ったらどうなるの?」

「学年の男子が嘆く。」

「えっそんなに?じゃあいない。」

「えっいるの?いないの?どっち?」

「いないよ。」

「そっそうなんだ。」


星野君は胸を撫で下ろす。


「じゃあ恋バナをしたいって言った星野君は好きな人がいるってこと?恋してるってこと?」

「まぁ人並みに…」

「なるほど…で、どんな人なの?人並みに恋してる星野君。教えてね。」

「うっうん。まぁ僕の好きな人は凄く親切なんだよね…なんというか空気が暖かいっていうかでもそれは心を開いている人だけに見せてて、他人から見たら空気がさっぱりしてて、そんなに笑顔とか見せないタイプって思われがちかな?」


「へぇ〜そこまで見てるんだね。凄いね星野君。」

「いやそんなことはないよ。」


星野君は照れていた。顔を少し赤に染めながら…


「その人のさっき言ったところ以外でどんなところが好きなの?」

「えっえぇ…そうだな…頭がいいのも好きだし、たまに見せる笑顔が本当に可愛いんだよね…普段はすんごい冷静でほとんど真顔で過ごしてる人だけど、美人だから真顔も綺麗で美しいんだよ…あと礼儀正しいのも好きだなって思う…」


「へぇ結構その人のこと好きなんだね。人を好きになるってそんなに綺麗で美しいんだね。」

「まっまぁね…なんか恥ずかしいな…」


また星野君は照れてついに顔を手で隠してしまった。


「別に隠さなくたっていいのに…あっその人のこといつから好きなの?」

「えっと僕実はその人のこと一目惚れだったというか…まぁ時期は中学1年の時だったよ。」

「そうなんだぁ。恋って素晴らしいものなんだね。」

「へへへぇ…」


そうやって私たちはにこやかにポカポカする時間を短いながらに感じ取った。


《ガチャッ》

私と星野君は音のなる方へと首を動かした。


「ふわぁ〜おはよぉ…朝に部活とかだるいよなぁしかも冬休み中とか勘弁して欲しいわ…」


と言いながらあくびをする人物、響 奏汰は私以外のもう1人の存在に気づいた。


「…おはようございます。えぇーとっ…ほ…星野君?」

「あっうんそうです。」

「あぁ…そうなんだ…へぇ〜…」


2人は苦笑いをしながら重たい空気に包まれていく。


「じっ自己紹介したら?」


思わず手助けに入ってしまう。


「あぁうん。そうだな、ん"ん"ん"えーと俺の名前は、ひびき奏汰かなた一応音楽部の副部長です。よっよろしく…あっ担当楽器はギターです。」


「あっぼっ僕か…えーと、僕の名前は、星野ほしのれんです。僕の担当楽器は一応ピアノとギターです。よろしく…」


「あっそういえばだけど星野君。なんにも言わずに決めちゃったけど、星野君には副部長になってもらいました。」

「えっ?!僕が!?」

「うん。ちょうど2年生3人だし、部長と、副部長2人でいいんじゃない?って感じになったからよろしくね。」

「がっ頑張って部を支えるよ。」

「頑張ってね。星野君。」

「うん…!」


こうして奏汰と星野君の顔合わせなども終わり、次々と後輩たちが音楽室に入ってきた。後輩たちが音楽室に入るたんびに、爽やかな匂いがふわりと香った。未熟ながらにも生き生きと部活に取り組み、さらに1年生で輪になって話に花を咲かせているのにも微笑ましかった。自分も中学になったら同級生の部員たちと輪になって喋るんだろうな…と思っていた。だが、現実はそう簡単ではなかった。途中から私は1人になった。ただ1人で先輩方のグループに入って必死になって楽器について勉強したり、弾き方を真似たこともあった。でも、今は違う。私には奏汰と星野君がいるのだ。改めて"仲間"という言葉が重く感じた。そう考えると不思議と心がキュッとなってもどかしい気持ちになる。


「雫川さん。そろそろ挨拶しようか。」


星野君の声で私は今まで入り続けていた自分の世界から現実世界へと戻る。


「あっうっうん。みんな集合!円になって!」


ひとつの掛け声で後輩たちは話を取りやめ、ちょこちょこと可愛く走りながら少し歪な円を作る。もうちょっとそっちに寄れるでしょ!と言い合いっこをしているまだ幼さの抜けない1年生達がさらに可愛く見える。


「はい。じゃあまず、こちらのもう1人の副部長を紹介します!星野君よろしくお願いします。」

「はい。えーと、 音楽部副部長の、星野ほしの れんです。しばらくの間部活に来てませんでしたが、ようやく来れるようになったので皆さん仲良くしてください!特にピアノとギターと関わることが多くなると思いますが、皆さんで仲良く協力して頑張りましょう!」


自然と拍手をしてくれる後輩たちはとても優しく微笑ましかった。


「はい。みんな星野副部長の話を聞いて行動するようにしましょうね!そして、えーと毎年のようにお別れ会で音楽部は演奏してるんですけど、そのメンバーを募りたいと思います。」


1年生達がおぉ〜と言うのが伝わってくる。


「えーと大まかに私がメンバーを決めてみました。そのメンバーを発表します。ベース、私雫川です。ギター&ヴォーカル、響君。ピアノ、星野君。となっております。その他の楽器は1年生を出してください。じゃあ1年生今話し合って決めてください!」


それを聞いた1年生はすぐに1年生で輪を作り、コソコソと話を始めた。それを私は見つめながらに音楽部に入部したての頃をふと思い出していた。


「えっ俺も演奏すんの?」


奏汰が不安気に私に喋りかける。


「えっうん。奏汰はギターも歌も上手いから人前で演奏出来ると思って。」

「はぁ…もうダメだ俺死んじゃう。俺が人前嫌いって知ってるのにぃ〜澪依のドS…」

「ごめんごめん…だって2年生だし、今は部活で代表する学年だしなぁと思って…まぁ大丈夫だって!私も人前苦手だし!」

「澪依は良いかもだけど俺の心情を考えてくれよぉ…」


奏汰は大きなため息をつきながら壁へともたれかかった。


「ねぇ雫川さん。もう曲とか決まってるの?」


星野君が私に質問をする。


「あっうん!ちょうど今、卒業ソングを練習してるところだからそれにしようと思ってて。」

「なるほど…わかったありがとう!」

「多分星野君は耳コピ出来ると思うし、譜面も簡単だからすぐに引けると思うよ。」

「そうなんだ!助かるよ。」

「そんなことないよ。」


などと言っているうちに1年生のメンバーが決まった。その後にお別れ会で発表する曲を練習したあと、各自家へと帰ることとなった…


「星野ってなんか好きなことあんの?」


途中まで帰り道が同じ2年生、3人組は奏汰の素朴な質問から話が始まった。


「好きなことかぁ…うーん個人的に物語を作るのが好きかも…?」

「えっそうなの!?星野君意外すぎる!」

「そうかなぁ?実は趣味でノートとかに短編の小説書いたりしてる…」

「マジかよ!今度俺たちにその小説見せてくれよ!」

「うん。いいよ。文の表現とかまだちょっとぎこちないかもしれないけど…」


星野君は嬉しそうに笑いながらこたえた。それを見た私は心が暖かくなる。まるで1部の風景がオレンジ色の暖かい空気になり、明らかに周りの風景と違う変化が感じ取られる。


「雫川さんは何が好きなことは無いの?」

「えっ私?うーん…音楽をきくことかなぁ…でも公園とかのベンチに座って缶ジュースを飲みながら季節を堪能するのも好き…」

「そんなことするんだぁ。想像すると…うん雫川さんらしい。」

「澪依は読書するタイプっぽいと勝手に思う。」

「当たり!結構ベンチで本読んだりする!今度星野君の小説読もうかなぁ」

「寒いからやめなよ…風邪ひくよ?そんなこと言うんだったら貸さないよ?」

「えぇ!?それはやだ!じゃあベンチに座りません!今は!」

「ふふふっ」


いつの間にかみんなが笑って、別れ道となる場所についていた。


「じゃあまた、部活で。」

「うん。澪依と星野またなぁ」

「雫川さんと響君またね。」


手を振りながら別々に別れていった。別れがおしかったけれど、また部活で会えるからその日までに宿題を終わらせて星野君の小説を見ようと思った。あと合唱の時のピアノ担当もお願いしないといけないと思った。


冷たい冬の風が私のスカートをなびかせた。

頑張って書きます!


最後まで見てくださった方は是非ご感想とご評価お願いします!

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