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涙色の愛  作者: 喜多瀬 香
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4話 聖なる夜の事情

4話 聖なる夜の事情


冷たい風が顔にあたりながら私は白い息を吐いた。


「さっ寒っ!ゔゔ…」


人知れずうめき声を上げながら何とか学校につくと、靴箱で奏汰とあった。


「おはよう。今日だったよね?クリスマス会。どちらかと言えばクリスマスイブ会だけど。」


「ははっそうだな。考えてみればクリスマスイブ会だよなぁ日程明日にすればよかった…」


奏汰は頭を抱えた。


「えぇ別に今日でもいいよ!クリスマスの日は毎年家族で発表会っぽいことするの。」


「えっ!?何すんの?」


奏汰は私の家の事情に興味を示した。


「特に大したことではないんだけど…お父さんと、お母さんが一緒に歌って。私とお兄ちゃんで楽器を弾くって感じのなんともいえない発表会をするの。」


「へぇいいなぁ。俺一人っ子だから羨ましい…うちの親はクリスマス勝負時だから…」


「あぁケーキ屋さんだっけ?」


「そうそう。クリスマスケーキの予約とかで忙しいからクリスマス期間中は1人で寂しいんだよぉ…」


「意外と奏汰って寂しがり屋だよね。私の友達にすんごい似てる。」


いつの間にか階段をのぼり、別れ地点までついていた。


「じゃあ今日学校終わって、家に帰って用意したらすぐ行くね。」


「うん。わかった。来る前に連絡しろよぉ。」


「うん。じゃあまたね。」


クリスマスイブなどに友達とか過ごしたことの無い私は心のどこかで舞い上がっている。クリスマスイブ会が楽しみで仕方がない。


教室に入ると私の目の前をとある爽やかな男子が横切った。個人的に好きな七三分けをしていた。


(あっかっこいい髪型してるなぁでもこんな人いたっけ?…)


そう思いつつも席に着く。


「おはよぉ澪依〜」


少し私に遅れて七瀬がやってくる。


コートを脱ぎ、手袋とマフラーをとり、ふわりとした七瀬の髪の毛が空を舞う。


「ふぅ今日で学校も終業式かぁ!ここまでよく頑張ったよ自分!」


「私もそう思うよ。」


「おぉ真面目な澪依君もそう思うかね。」


七瀬は私のくだらない話も全て聞いてくれる。本当に七瀬がいないと私はこの学校生活を送れないのだと改めて思う。


「ねぇ奥さん見ました?」


「なんですか?奥さん。」


「昨日、奥さんがお隣の水瀬さんに好きな髪型教えたじゃないですかぁ」


「あぁ教えました。」


「今朝水瀬さんを見たらなんとですね…髪型が変わってたんですよ…」


「ええええええ!!??」


私は目を大きく見開く。そして、教室にいるであろう水瀬君を探す。


(もしかして…さっき教室のドアで私の前を横切った人が水瀬君なのかなぁ…)


私は女子で囲まりができている部分が目に止まった。女子の高い声が教室にこだまする。


背伸びをして女子に囲まれている人物を見る。


「えっ!?」


そこには髪型を七三分けにした水瀬君がいた。


「ほら言ったじゃん。髪型変えてくるかもって。」


七瀬は予感が当たったのでニヤつきを隠せていない。


「でっでも、普通髪型変える?だって…あの水瀬君が…」


「澪依は分かってないなぁ…」


七瀬は呆れている。まるで全てを知っているかのごとく、私を真剣な目で見つめたあと水瀬君を見る。


おもわず私も水瀬君を見る。七瀬と目が合った水瀬君は少し動揺していた…その後私と目が合った水瀬君は、私と七瀬に向かって歩いてきた。


「2人ともおはよう。」


「ん」


七瀬は素っ気ない。


「あっ水瀬君髪型変えたんだね!」


「うん…どうかな?似合う?」


「うん!似合ってるよ!かっこいい!」


「いやそこまで言わなくても…」


「私、その髪型の水瀬君、好きだよ。」


「っっ…!」


水瀬君は手で口を覆いながら顔を赤く染める。それを見た七瀬の表情が一気に曇った。


「あっありがと…嬉しいよ…」


「ふふっどういたしましてぇ」


そう言った後水瀬は自分の席につく。七瀬は


「クソっ敵が増えた…」


と小さな声で呟いた。ちょうど予鈴が鳴り、七瀬は自分の席に座る。美魔女である担任の入江いりえ先生が教室に入り、朝の連絡後終業式のため体育館へ向かった。



「あぁ終わったぁ!」


終業式が終わり、1時間の特活のあとついに待ちに待った冬休みとなった。


「あぁでも部活じゃん!」


こんな寒い日にもミニスカを履いているテニス部は本当に尊敬でしかない。


「風邪ひかないようにしてね!テニス部本当に寒そう…」


「大丈夫大丈夫!タイツ履くから!」


七瀬はガッツポーズでこたえる。


「しっ雫川…一緒に帰らない?」


突然声をかけられる。振り向くと水瀬君がいた。


「えっ別にいいけどなんで?」


一緒に帰ると始業式の時には彼氏彼女の関係だと思われてしまう。


「いや…ただ単に一緒に帰りたくて…」


「うん。いいよ。ちょっと待ってね。」


そう言って私はコートを羽織り、マフラーと手袋をつけた。


「じゃあいこっか。七瀬部活頑張ってね!メリークリスマス!」


私は七瀬に向かって軽く手を振る。それを見た七瀬はぎこちない表情で手を振り返す。


「なぁ…雫川って好きな人いたりするの?」


唐突に水瀬君は帰り道で聞いてくる。


「えっ!?べっ別にいないけど…ていうか初恋もまだ…」


「あっそうなんだ。教えてくれてありがとう。」


水瀬君はうなじを指でかいた。


「最近流行ってるの?そういう恋バナとか…」


自分の靴を見ながら私は水瀬君の歩くペースに合わせる。


「まぁ女子のいない時に結構男子で恋バナしてるよ。だいたいは[あの子が可愛い]だとか[あの子のここが好き]とか話してるよ。」


「ふーん。じゃあ水瀬君も話してるんだ。」


「えっ!?いやぁそのぉあははは」


学年一とも言われる美男子は焦って変な苦笑いで誤魔化す。耳が真っ赤だった。それが少しの幼さが抜けていなくて少し可愛いところもあるのだと思う。


急に水瀬君は脚を止める。私は隣に水瀬君がいないことに気づき脚を止めて水瀬君を見る。


「俺だってするよ…好きな子の話とか…だって男子だもん…俺だって好きな子に欲情するんだから…」


そう言って水瀬は耳を真っ赤に染めて私を真剣に見つめる。変な空気になる。冬の冷たい風が、私と水瀬君の髪の毛を意地悪く舞い上がらせる。


「………」


ただ、返す言葉がなかった。沈黙が私たちを包む。


「みっ水瀬君も好きな人いるんだね…」


「うん。」


「この事は黙っておくよ。七瀬にも言わない。学年一の美男子が好きな人がいるってなったらみんな大騒ぎだよ。」


私は意地悪く笑ってみる。


「そっちだって学年一の美少女が好きな人がいないって分かったら男子みんな告りに来るよ。」


「はい?学年一の美少女?」


私の頭は情報量が多すぎてオーバーヒートが起きる寸前だった。


「えっ知らなかったの?雫川は学年一の美少女ってことになってるけど…」


「ぇぇええええ?!それは七瀬だよ!私どこにでもいる普通の平均顔じゃない!」


「いや雫川が自覚してないだけで、性格もいいし、スタイルいいし、可愛いし…みんな好きなんだよ!」


水瀬君はやけくそだった。


「すっ好きだなんてそんなこと…恐れ多いというか…」


「ちなみに俺、好きな人に振り向いて欲しくて髪型変えたんだよ…んじゃ!」


水瀬君は耳と顔を真っ赤に染めて、帰り道を走って帰っていった……


(その好きな人も私と同じ髪型が好きなんだなぁ七三分けって結構人気あるしなぁ…お兄ちゃんが言ってたように水瀬君は奇跡に出会って人を好きになったんだ…凄いなぁ)


そう思いながら私は家に向かう脚を速めた。




家に着くと私はすぐに着替えを済ませた。いつも履いている黒いパンツに、ウエストのしまったニットを合わせ、いつも下ろしている長い髪の毛をポニーテールに結ぶ。


カーキ色のダウンジャケットを羽織り、いつも使っているカバンにカードゲームなどを詰める。ちょっとしたワクワク感と心臓をこちょばされているような変な感覚をおぼえる。


奏汰に〚今から行くね。〛と連絡を入れる。


1階にいくとお母さんがいた。


「澪依〜これ持っていきなさぁい。奏汰君だっけ?楽しんでねぇ」


笑顔を絶やすことなく紙袋を私に渡す。中身はお菓子の詰め合わせや、ジュースだった。結構重い量だったが平気な顔で持ち上げていたお母さんは凄いと思う。


「おっお母さんありがとう。じゃあ行ってくるね。」


マフラーと手袋を身につける。


「楽しんでねぇ」


私はお母さんに微笑みを返し、寒い外に出る。ガレージに止めてある自分の自転車を出し、紙袋をカゴの中に入れる単純な作業を終え、自転車をこいで奏汰の家へと向かった。



《ピーンポーン》

奏汰の家のチャイムを鳴らす。


〚はぁーい〛


奏汰は軽く返事をした後すぐに鍵を開けてくれた。


奏汰は黒い長ズボンに、黒いパーカを着てその上にデニム生地の上着を着ていた。


「いらっしゃい!おぉ澪依なんか雰囲気違うねぇ。うん似合ってる。可愛い!」


奏汰は私をまじまじと見る。


「奏汰もシンプルな感じでいい思うよ!かっこいい!」


お互いをお互いで褒め合いにこやかに笑う私たちを第三者から見たら多分"バカップル"なんだと思うが、けして私たちは付き合ってもいないし、そういう関係でもない。


「あぁ寒いな!ごめんごめん中入って!」


玄関で靴を揃えて廊下に立つ。


「おっおじゃましまぁす…」


あまり男子の家に来たことがない、そういう免疫のない私にとって男子の家は未知の世界すぎている。


奏汰は私のダウンジャケットをハンガーにかけてくれた。


(奏汰って紳士だなぁ)


きっとご両親の教育方針や、それをすぐに飲み込んだ奏汰が凄いのだろうと尊敬してしまう。


リビングにつくと、壁一面に本棚があり、CDがたくさん入っていた。


「わっわぁ!凄い!!えっこのアーティスト知ってる!!」


私は興味津々で、目を輝かせる。まるで幼稚園児のようにキャピキャピと舞い上がっている。


「ふふっいや澪依もそんなことするんだな。」


奏汰はクスリと笑った。それを見た私は我に返り、1部のCDをじっくりと見た。


「ん"ん"!いやっさっきのは忘れて!それにしても凄いねぇご両親が良ければ貸してよ!」


「えぇ忘れられないなぁ。まぁいいや。あぁCD?全然貸すよ!今日2~3枚持って帰りなよ。」


「えぇいいの?!ありがとう!」


私と奏汰はCDに夢中でオススメのアーティストや好きな曲のジャンルなどを話した。


そして、私と奏汰のクリスマスイブ会はとても楽しいものだった。奏汰がアコースティックギターでクリスマスソングを弾き語りしてくれたり、


1発芸をしてくれたりとても楽しかった。その他にも、私が持ってきたトランプで遊んだり、オセロをした。


奏汰の部屋を見てみたり、楽器専用の部屋を見てみて、ドラムを少し教えてもらった。おやつに奏汰のご両親が作ったクリスマスケーキを食べて私たちは濃厚な時間を過ごした。



《チッチッチッチッチ…》

時計の秒針がリビングに響き渡る。


特にすることも無くなった私たちはリビングのソファーに座りながらただ、何もせず秒針を聞いていた。


奏汰を見てみる。奏汰は頭を抱えて悩んでいた。


(なにか悩み事があるんだ…)


そう思ったあと私は奏汰から元の視線に戻す。すると奏汰は重そうな口を開いた。


「なっなぁ…俺さ…澪依に言ってないことがあるんだよね…」


表情が暗かった。


「なっ何?」


「いや俺さ、小学校の時から人付き合いとか苦手で…中学入っても1年時誰とも喋んなかったんだよ…」


「うん。」


奏汰の顔はますます曇る。


「2年になった時、部活ぐらいは自分でも出来そうだって思って、1番平和そうな音楽部に入部しようと思ってさ…そしたら澪依にあったわけ。」


「ふふっそうだねなんか懐かしい。」


「正直、学年一の美少女がなんで俺になんかに仲良くしてくれるんだろう?って最初は思ってたんだけど…だんだん一緒にいるうちにただの音楽部員としてじゃなくて、友達として俺のこと見てくれてるって気づいてさ…そんで…あぁもうわけわかんねぇ」


奏汰は髪の毛をぐしゃぐしゃにする。


「ゆっくりでいいよ。私ちゃんとここにいるから。」


「ほらそういうとこ。澪依のなんでも包み込んでくれる優しさが俺は好きなんだ。だから、今日澪依に伝えたいことがあるんだけど…正直怖いんだ。今まで[受け止めるからなんでも言えよ!]ってやつが何人もいたんだけど、俺の秘密を言うとみんな顔を真っ青にして俺から離れていったんだ……」


奏汰はソファーの上で膝をかかえて丸まった。


「もう1人は嫌なんだ…1人は嫌…」


布が擦れる音が聞こえる。私は気づいた時奏汰を抱きしめていた。奏汰は小刻みに震えていたのがわかった。


「大丈夫。私はずっとそばにいるよ。安心して。奏汰のこと話して、ねっ?ゆっくりでいいから…」


奏汰の鼻をすする音が聞こえる。


抱きしめていた腕をはなして奏汰の顔を見る。奏汰は重い重い口を開く。


「………俺、ゲイなんだ…」


とか細くいった。


(なぁーんだそんなことか…)

と私は心のどこかで思っていたのかもしれない。


「いいと思うよ!」


私は奏汰に向けてグッドポーズをし、満笑の笑みでこたえた。


それを見た奏汰は安心したのか私を見て目から大粒の涙を流した。


「澪"依"〜!!」


そう言って私の胸に奏汰が飛び込んできた。その拍子に私はソファーからズレ落ち2人とも床に叩きつけられた。


「「あはははははははは!」」


2人で大笑いした。涙が出るほどに…


その日から私たちは秘密の共有者となった。


「そのことご両親知ってるの?」


「うん。小学生の時から知ってる。特に何も言われなかったし、逆に彼氏をつくらないのか?ってうるさいよ。」


私は奏汰が受け入れられていてとても嬉しかった。障害なんかじゃない。ただの人間なのだ。好きになった人が男の人だった。ただそれだけ。


「俺…小学生の時色々あって転校したんだよね…その理由が[みんなに受け入れられなかったから]なんだよ…」


私は目頭が熱くなった。


「小5の時に好きな男子がいて、告ったんだよ。そしたら[はぁ?キモッ。ホモとかキモすぎんだろ]って言われて振られたんだよ。んで学校行ったらみんなから[ホモ]呼ばわりされて…つらくて学校転校したんだ。」


奏汰は正直に全てを丁寧に話してくれた。それが嬉しかった。きっと悩んで悩んで出した結論だったのだろう。


「そうだったんだ…世の中って荒波で、息をするのもままならない時があるし、大勢の人の波には1人ではかなわないもん…1人だと怖いし…でも私は奏汰の味方だからね。」


「うん。澪依好きだよ。へへっ」


奏汰は安心したのか笑顔を見せてくれた。


「何よそれ。私も奏汰が好きだよ。」


この好意はきっと友達としての好意で、私たちが親友になれた瞬間だったのかもしれない…


別れの時間になってしまい、帰りの準備を済ました私は靴を履く。


「じゃあおじゃましました!ありがとう。」


「帰したくないなぁ」


時間というものは時に残酷だ。別れを惜しまなければならないから…


「私も帰りたくない…」


そう言いながら私たちは強く抱きしめ合う。これからもう二度と会えないような、そんなハグを…


「ああぁ離れがたいなぁ…ダメだなぁ俺…」


「そんなことないよ。冬休みの宿題早く終わらせなよ!」


「ハイハイ。」


「はいは1回!」


「へーい」


「ふふっおっかしぃ」


そう言いながら玄関のドアを開ける。


「じゃあね奏汰。」


「うん。」


お互い手を振って別れを告げた。私は自転車をこいで家へと向かう。



冬はまだまだこれから。

私の貴重なお友達Aちゃんは、響 奏汰 推しだそうです!


というわけで、最後まで読んでくださった皆様、

是非ともご感想とご評価して下さると幸いです!



次もよろしくお願いします。

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