1話 こんにちは日常
私には、誰にも言えない秘密がある。
私はこの秘密をみんなに黙っていようと思う。
私は…この先どうすればいい?…
1話 こんにちは日常
あれは夏の暑さがまだ残る中学二年生の頃だった…
人知れず鳴き続ける蝉の声を聞き流しながら、私は私の背中に流れる汗を感じていた。
頬に張り付く自分の髪の毛をはらいながらそよ風を待った。
(七瀬遅い…)
そう思いながらたった一人の親友を待つ私はとても親切で、とても良い奴だと勝手に思う。
「澪依〜!」と私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
振り返ってみるとそこには、茶髪の髪の毛をボブにし、
茶色の瞳と汗を輝かせながら華奢な腕でテニスラケットを持って私に向かってに走っている。きっとテニス部の彼女は、時間が惜しかったのだろう。
「待った?」と息を切らしながら小さな唇から言葉をこぼした。
「全然待ってないよ。」と私は嘘をつく。
「澪依嘘ついてるでしょぉ〜いつも私のこと待ってるくせにぃ」と、ニヤッと笑った。
「はいはい。待ちました。七瀬さんを待ちましたよぉ」
「ちょっと〜遅かったのは先輩がぁ〜」とテニス部の話をしてくれる私の親友はとても可愛い。
職員室に向かう途中でサッカー部が校庭で練習をしているのが見えた。
「ほんとなんで放課後なのぉ!こっちは部活があるのに呼び出してさぁ!」そう七瀬はイライラして大股で歩いていた。
私は不意に立ち止まって、校庭で練習をしているサッカー部員を見ていた。(あっいた…)とあるサッカー部員を見つめる。
「ちょっとちょっと澪依さーん。誰のこと見てるんですかぁ?私早く部活戻らないと先輩に怒られるんですよ。早く職員室行きましょ〜」と七瀬は早くしてくれと呟いた。
「ごめんごめん、早く行かなきゃね。」
そうして私たちは職員室で担任に頼まれていたプリント類を教室に運んだ。
「テニスラケット邪魔だったな…」七瀬は少し後悔していた。
「それより部活…行かなくていいの?」私は少し心配になった。
ここの中学のテニス部は上下関係が厳しいらしく、少し時間に遅れるなどをすると先輩に怒られてしまうらしい…
「あぁ全然大丈夫だよ!お姉ちゃんが何とかしてくれそうだしぃ」そう七瀬にはお姉さんがいて、テニス部の部長なのである。
「でも…遅れちゃまずいんじゃない?」
「そうだねぇじゃあ行ってくるよ!澪依も部活頑張ってね!」そう言いながら七瀬は髪の毛を揺らしながらにこやかに笑った。
(私も部活にいこう…)と思い、自分のカバンを持ち上げた。
私は音楽部に入部しているが、特に大変…という訳でもない、普通に部員で集まって演奏し帰宅することが多い。喧嘩もなくて穏やかな部活なのでそこまで苦労はしないのである。
《ガチャッ》
音楽室の扉を開けて部屋に入る。
部員はおらず、私だけだった。
[はぁ…そりゃそうかみんな来るの遅いし…まぁなんか楽器でも弾きますかっ]久しぶりにやる気が出た私は、重いカバンを机の上に置いた。
すると、どこからかそよ風が吹いて、私の髪の毛にじゃれて遊んできた。私の黒髪はふわりと舞い上がり光を反射した。
音楽室の窓が開いていて、白く光るカーテンが風に揺られていた。
(窓を閉めないとエアコンの風が逃げちゃう…)
そう思いながらかなり閉めにくくなっていて、動かすとなったら力が多いに必要になる窓を覚悟を決めて何とか一人で閉めた。
日頃体育の授業以外で運動をしていない私の体は、息を切らし、汗をかいた。腕が痺れてその場に尻もちをついて床に座った。
(先生…窓閉めといてよ…)日頃はとても好きな音楽の先生だが、今日だけは流石に先生を憎んだ。
やっと息切れが治り何とか立てるようになった頃、私は音楽室の端っこで寝ている人物を見つけた。机に顔をうずめて寝ていたが、顔を横に向けた。
(あの人確か一緒の二年生の人だよね…?)一緒のクラスになったことがない人だったのでよくわからなかった。ただ分かったのは、寝ているのが男子ということだけだった…
おそるおそる近づいてみる…寝ている男子はとても髪の毛が茶髪だった。目にかかる程の前髪を横に流していて、肌が色白で、まつ毛がとてつもなく長かった。
女子の私でも羨ましく思うほどに…
私は勝手にその男子はハーフだと思った。一言で言うと美形そのものだった。
(この人はヨーロッパのハーフなのかな?)勝手に思っていた。
「ゔゔぅ〜」と美形男子、ハーフ?男子がうめいた。
私はハッとした。(このままここにいたらこの男子に変な人だと思われてしまう!)正直とても焦った。
考えているうちに目の前の美形男子が体を起こした。
「ゔゔゔーんっっ!あっ〜よく寝たぁ」と言い、大きなあくびをした。
私たちはぱっちりと目を合わせた。私はその時死んだかと思った。
「………ええっと…誰?」と美形男子がぱっちり二重で茶色い瞳の目で見つめてきた。
「ええ〜と音楽部の部員のものです…」名前を言っても分からないであろう相手に私は、音楽部の部員と名乗った。
「ああ!!音楽部の人!?」
「そっそうです…」
「なーんだ音楽室来たのに誰一人いないから今日部活ないかと思ったじゃんかぁ」と顔をクシャッとして美形男子は笑った。
「あのつかぬ事をお伺いしますが、どういうご用件ですか?」固い言葉で私は質問をした。
「俺の名前は、響奏汰!二年四組で、昨日音楽部に入部届けを出したので部活をするために音楽室に来ました!」響君は律儀に話してくれた。
「こんにちは響君。私は雫川澪依、二年一組で、音楽部の部員です。」と私は響君の真似をして答えた。
「えっ二年!?大人びてるから三年かと思った!」響君は大きな目を見開いてビックリしていた。
「よく言われるけど、二年生だよ。響君」響君は椅子から立ち上がったあと、机を両手で叩いてから
「奏汰!」と言った。
「えっ?」咄嗟に私の口から出た
「次から俺のことは奏汰って呼んで!」そう自信に満ちた顔で言った。
「かっ奏汰君?」
「君をとって!」勢いをつけて私に顔を近づけた。
「かっ奏汰?」
「よろしい!」また奏汰は顔をクシャッとして笑った。
「じゃあ…多分これは部長が言うことだと思うけど…奏汰!ようこそ音楽部へ!」
「おう!よろしくな澪依!」急に奏汰は私の名前を呼び捨てにした。
「えっえっ呼び捨て!?」ビックリした私は咄嗟に奏汰に言葉をかけた。
「えっダメだった?」と奏汰は首を傾げた。
「いやっ別にダメじゃないけど…」
「よっしゃあ!」喜ぶ奏汰を横目に私は男子に名前呼び捨てにされたことがなかったので顔が熱くなった。なんとも言えないこの気持ちに名前をつけるなら何が合うのだろう。女子の間ではときめきというのだろうか…?それとも…嬉しい?なんと呼ぶのだろう…気持ちについて考えていると奏汰は、
「なぁ澪依音楽部って普段何してんの?」と軽く質問してきた。
「えぇーと普段は演奏とかしてるよ。」
「どんな楽器使ってるの?」奏汰は興味津々だった。「エレキギターとかエレキベース、ドラム、キーボード、木琴、鉄琴とヴォーカルを入れて有名な曲をカバーしてることが多いかな?」私は簡単に音楽部について語ると
「俺ギターがしたいんだよねぇ」と言いながらギターケースを持ってきた。
「ギターをしたいんだね。私はベース弾いてるよ。」
「マジで!?」そう言いながら奏汰はかなり喜んでいた。
「思ったけど奏汰って名前音楽ができそうな感じの名前だよね」軽く言ってみる。
「あぁー多分親がバンドしてるからかなぁ…俺も小さい時からギター教えて貰ってたしなぁ」
「えっそうなの!?お父さんとお母さんすごいね!」
「だろ〜」ドヤッと意地悪く奏汰は笑う。
「ねぇねぇ奏汰ってもしかしてハーフ?」寝顔を見た時からの疑問を奏汰に聞いてみる。
「俺純日本人だけど、いつもハーフと間違えられるんだよなぁ」
「へぇそうなんだ。パッと見ハーフだもん。」
「えぇー純日本人なんだけどなぁ」と、特に中身のない話をしながら気長に他の音楽部員を待った。
《ガチャ》
音楽室の扉が開く。私と奏汰は一緒に扉の方へ振り向いた。
「あれぇ今日は来るのが早いねぇ私達が遅いだけかなぁ」
「部長!」見た目はクールビューティでカッコイイ頼りがいのある部長の喜多先輩だが、喋ってみると結構面倒くさがりでおっちょこちょいな部分もあるが、結構真面目でテキパキと仕事をこなす凄い人なのである。
「ちょっと早く中入ってよ。邪魔!」
「あっ仁井先輩も!」仁井先輩はとても優しく明るい性格、おふざけが多い人でいつも喜多先輩と一緒にいる人である。
ぱっちりとした二重に綺麗な黒髪ロングで前髪をセンター分けしている。
「紅里ちゃんごめんねぇ」と喜多先輩は仁井先輩に向けて謝っていた。仁井先輩は(分かればいいんだ)と笑っていた。
「ところで、君が響奏汰くんだね。ようこそ音楽部へ!私が部長の喜多です!よろしくねぇ〜」のほほんとした挨拶をする部長は
「澪依ちゃんから部活内容は聞いた?」と奏汰に聞いた。
「あっはい!聞きました!これからよろしくお願いします!」奏汰は椅子から立ち上がって答えた。
「ん?響君ギターにするの?」仁井先輩は奏汰のギターケースを見つめていた。
「一応ギター志望なんですけど出来ますか?」少し奏汰は心配そうだった。
「全然大丈夫!今弦楽器したい人が減ってて人手不足だったから助かるよぉ」仁井先輩は嬉しそうな顔でにこやかに答えた。
「こっちの仁井先輩はギターちょ〜上手いからなんかあったら言うんだよぉ。まぁマイギター持ってるってことは結構弾ける人なのかもしれないけどっ」そう言いながら部長は奏汰に興味津々だった。
「奏汰っちなみに言っておくけど、部長ベースとてつもなく上手いから!ああ言う感じの人だけど、ベース持つと人が変わるから!」そう奏汰に私は呟いた。
「えっそうなの!?めっちゃ部活楽しみ!」奏汰はとても喜多先輩や仁井先輩、音楽部についてとても興味津々でその日だけは無邪気な子供でいることが許される日だった…
部活は終わりの時間を告げ、七瀬と一緒に下校し
「今日の夕日はよく見えるねぇピンク色の空が綺麗で可愛い!」七瀬はいつものように面白い話や、風景の話を帰り道にしてくれた。そして別れの時間が迫ってくると、何十年と一緒にいるような愛犬との別れのように切なく、別れを惜しんだ。
「ただいまー」いつものように母に向けて私が帰ってきたのを知らせる言葉をこぼす。
「あらおかえり〜」パタパタとスリッパを鳴らし、お母さんがリビングから玄関に私を出迎えにやってくる。
「澪依〜聞いてよぉ。またお兄ちゃんがテレビ番組の録画でアニメばっかり録画するから録画残量があと少ししかないのよぉ困ったわぁ。」お母さんはどうやら「アニメは録画していいけど、残量を増やして欲しい」らしい…多分また韓国ドラマでも観るつもりなのだろう。
「お母さん…そういうことはお兄ちゃんに伝えなきゃ意味無いじゃん…」
「あらそうね!やだぁ歳をとるっていやねぇ」お母さんは明るく笑う。
「お母さん。今日もお弁当美味しかったよ。」そう言って空になったお弁当箱をカバンから出してお母さんに渡す。
「はーいありがとう。お母さん作りがいがあるわぁ」とお母さんは録画残量のことも忘れ、のほほんと鼻歌を歌いながらキッチンに向かっていった。
私は手を洗い、家の階段を上り自分の部屋へ入り重いカバンを置いた。
「はぁ今日は色々あったなぁ…」ベッドの上で寝転がりながら今日の出来事を一つ一つ思い返す。
今日は放課後に担任の先生から呼び出され、七瀬と一緒に残暑が残る中頑張ってプリント類を運んだ。
そして、音楽部の新入部員である響奏汰と少し仲良くなった。
疲れが溜まる学校生活だが、結構頑張れるところもあるものだと私は思った。
《コンコン》
私の部屋の扉を誰かがノックする。
「はーい」
《ガチャッ》
扉を開けた人は黒髪の爽やかな青年だった。
「澪依今日もお願いできる?」彼は私に頼んだ。
「お兄ちゃん…私をあと何回描けば満足するの?」そう、お願いをした彼は私の兄で現在は美術の大学に通う大学生なのである。
「澪依!一生のお願いだよ!」いい歳の大学生が必死になっていた。
「お兄ちゃん…あと何回一生のお願いを使うの?もう…いいよ別に、私はじっとしてればいいだけだし…」
「やったぁ〜じゃあお兄ちゃんの部屋においでぇ」多分世間で言うとヲタクであるお兄ちゃんの部屋に招かれる。
《ガチャッ》
お兄ちゃんの部屋はアニメのグッズでいっぱいだった。
可愛いアニメキャラのポスターが貼ってあったり、フィギュアが棚に規則正しく並べられている。そして大量の漫画を本棚に並べている。結構綺麗好きなお兄ちゃんは私でも尊敬するほどの収納上手だった。
「澪依〜この座ってぇ」お兄ちゃんは椅子を置いて私を招いた。私は普通に座り、お兄ちゃんは大きめの紙と鉛筆を用意して、私を見ながら絵を描き出した。
数分経った時、お兄ちゃんは鉛筆を紙に滑らせながら黙々と私を描いている。何回も絵のモデルになったことがあるが、何も喋らなくなるとなんとも言えないむず痒い感じがするのが少し嫌いである。
「ねぇお兄ちゃん…彼女いるの?」私は唐突に聞いてみる。
「はぁ?そんなの悲しいことにいるわけないじゃん…」お兄ちゃんは悲しげに言った。
「そういう澪依はどうなんだよ」お兄ちゃんは少しふくれて言った。
「私は彼氏いた事もないし、好きな人もできたことないよ。」あっさりと答える私を見て、お兄ちゃんは口をあんぐりと開けた。
「はぁ?えっ告白されたことあるのか!?」お兄ちゃんは少し慌てて言った。
「うーん二、三回ぐらい?」
「うわぁ〜澪依の同級生損してるなぁ…こんな美人がいるのに告白しないなんて人生損してるよ…性格良し、顔よし、成績よし、この三つ満点だぞ!?告白しないやつがどこにいるんだよ!」お兄ちゃんは荒く必死だった。
「お兄ちゃん言い過ぎ、それはないから。本当にないから。どう考えてもないから。」完全否定する妹に目もくれず、
「澪依が高嶺の花なんだ…きっとそうなんだ…」とブツブツと言いながらまた、紙に鉛筆を滑らせた。
「じゃぁさ。お兄ちゃん好きな人いる?」
「いないな。」お兄ちゃんは即答した。
「でも二次元には沢山いるぞっ☆」とヲタクを出した。
「お兄ちゃんカッコイイし、イケメンなんだから好きな人ぐらい作りなよ。雫川家存続の危機だよ?」突然雫川家の心配をしだす妹を横目にお兄ちゃんは、
「いやぁお兄ちゃんは人を好きになるってことは奇跡に近いことなんだと思うんだよ。」久しぶりに真面目にお兄ちゃんは語った。
「簡単に俺は人を好きになれないから…でももし、そういうご縁があったのなら全力を尽くしたいと思うよ…ほら…恋愛が全てじゃないだろ?」お兄ちゃんは真剣な顔をして私を見つめた。
「うん…」確かにその通りだ。
「確かに誰かを想うってとても大切な事だと思うけどお兄ちゃんはまだそういう感じのご縁がないからよく分かんないよ。」そう言ったあとお兄ちゃんは頬を軽く掻きながらにこやかに笑った。
また鉛筆を紙に滑らせるお兄ちゃんを見て私は、不思議な気持ちになった。いつもはヘラヘラしていて頼りないお兄ちゃんだが、今日だけは違った。
「お兄ちゃんやっぱりカッコイイね。」
「えぇーそう〜?えへへっ」お兄ちゃんは照れた。そして私は、日々感じるありがたさを今一度実感した。
良ければご評価お願いします!
初めての投稿なので、あまり良く分からない部分も多いですが、頑張ります!