コント「成金男」
場所……喫茶店
役………成金=ボケ、友人=ツッコミ
友人が喫茶店でコーヒーを飲んでいるところに成金がやってくる
友人「おお! こっちこっち!」
成金「おう! 遅れてごめん!」
友人に手招きされて成金が相席へ座る。成金の顔はひどくニヤニヤしている。
友人「やけに笑顔だな。なんかいいことあった?」
成金「やー実はさ! 宝くじ当たっちゃって。一億円」
友人「えっ? マジで? お前一億円の宝くじが当たったの?」
成金「いや、一万円の宝くじが一万回当たったんだ」
友人「逆に凄えよ! なんだよ一万回って!」
成金「や~人生の幸運を全てこれで使い果たしちまったかな。これ見る? 通帳」
友人「ああ、見せて」
友人は成金から通帳を見せてもらう
友人「うお! ホントだ。見たこともねえ数字」
成金「だろ~? めでたいんだからここの会計はお前が奢ってくれよな」
友人「ケチだなおい。お前が払ってくれよその一億円で。まあいいけどさ。で、その金は何に使うかもう決めてるの?」
成金「ああ決めてる。これまでいろんな人の世話になったし、迷惑かけたからその恩返しに使おうと思ってな」
友人「へえ偉いじゃん。具体的に何に使うの? 親に何か買ってあげるとか? 友達とパーっと旅行に行くとか?」
成金「いや競馬につぎ込む」
友人「どのへんが恩返し? ただ己の欲望に突っ走ってるだけだよね!」
成金「まあ聞いてくれ。競馬は競馬でも馬主になろうと思ってさ。強い馬のオーナーになればさらにお金が入ってくるだろ。それで得たお金で周りの人に牛丼を奢ろうって考えてるわけ」
友人「筋金入りのドケチだな。まあ未来への投資ってわけね」
成金「そうそう、一億円でサラブレッドの子馬を買うんだ。今日お前に来てもらったのはさ、馬の名前の候補をいくつか考えたからどれがいいか決めてもらおうと思って」
友人「馬の名前? ああオーナーになれば命名権とか貰えるのね。で、何考えてきたの?」
成金「一億円で買った馬」
友人「まんまじゃねーか。もしその名前にして馬がレースに負けたらどうすんだよ。 “最下位は一億円で買った馬です”って実況されんだぞ。惨め過ぎんだろ」
成金「駄目? じゃあこれは。フェラーリ」
友人「馬に車の名前付けんなよ! もし騎手が落馬したら “走行中のフェラーリから落ちました”になるぞ。ややこしくなんだろ」
成金「駄目? じゃあこれならいいでしょ。チーター」
友人「アウト過ぎる! 見てる方はいいとしてもラジオで実況聞いている人は“チーターが追い上げてきました”って言われて頭抱えるぞ」
成金「駄目? じゃあ、負けたら馬刺し」
友人「可哀そうすぎるだろ! 良心の欠片もないのかよ! 観客がレースそっちのけで馬の命運に注目しちまうよ」
成金「いいと思う思うんだけどなあ。ちょっとお前さ、今言った名前の馬たちでレースの実況しくれない? 俺、馬の役やるから」
友人「ああいいよ」
成金「パーン、パーン、パカパーン。ガチャ」
友人「各馬一斉にスタートしました。まず飛び出したのは一番“負けたら馬刺し”。命を懸けているような物凄い形相。次いで二番手に“一億円で買った馬”、三番手“チーター”、大きく出遅れて“フェラーリ”。“フェラーリ”はやや体調が優れない様子。慣れない芝生に足を取られているのか」
成金「パカラッ、パカラッ、パカラッ」
以降、成金は馬の役をやる
友人「さあ大ケヤキを越えて最終コーナーへと流れ込んでいきます。先頭は依然“負けたり馬刺し”。尻尾に火がついているかのような走りっぷり。内から“一億円で買った馬”も上がってきているが、そのすぐ後ろについた“チーター”も 肉食獣のごとく目を光らせて虎視眈々と前を狙っている」
友人「さあ最終コーナーを回ってゴールまであと四百。逃げ切りたい“負けたら馬刺し”の後を追う“一億円で買った馬”。勝負はこの二頭の一騎打ちとなるのか、いや大外から“フェラーリ”があがってくる!」
友人「序盤から打って変わった速さの“フェラーリ”! 新しいエンジンに新調したかのようだ! 先頭を走る二頭との差を四馬身、三馬身と徐々に縮めていく! ああっと! ここでさらに内側から“チーター”が追い上げてきた! サバンナを駆ける風のごとく走るチーター! 逃げる“負けたら馬刺し”、追いかける“チーター”! 捕食者との戦いを目の当たりするここは弱肉強食の世界か! 四頭が横の並び、今、ゴールイン!」
成金「フシュー」
友人「確定しました。一着“チーター”、二着“フェラーリ”、三着“一億円で買った馬”、最下位は“負けたら馬刺し”です」
成金「いけるよな?」
友人「いけねえよ」
おわり