九話 仲間
「……それでは、私とルナは準備をしてから|揺り籠≪クーナ≫に向かいますので」
「……またね、フィーお姉ちゃん」
「はいなのですよーまたあとで!」
二人はリーフィさんに頭を下げて食堂を出て行った。あれ、俺は?
「さ、朝のミーティングに行くのですよー!」
「了解」
「……あの、ノノちゃんなんですけど……決して悪い子じゃないのですよ! ただ、その……」
「ああ、別に気にしてないよ。色々あるだろうし」
「本当です?」
不安そうに俺を見つめてくるリーフィに笑顔で頷く。まあ、あのくらいで機嫌を損ねるほど子どもじゃないし。
「なら良かったのです! さ、職員室はこちらなのですよ」
そういって今にもスキップしそうなほど元気になったリーフィさんの後ろ姿を眺めながらついて行った。
◇◇◇
「おはようなのですよー!」
食堂から少し歩いたところに職員室があった。広さは食堂の半分くらいだろうか、机が部屋の真ん中に置かれており廊下と中庭からの出入り口以外の場所はすべて本棚で埋まっていた。
これだけではなかなかに陰湿な雰囲気漂う部屋だが、大きめの天窓から日光を取り入れているため、どちらかと言えば新婦的な雰囲気で満ちていた。
ーーーだが、部屋は神秘的でも中にいる人間まで神秘的とは限らない。
「はい、おはようございますリーフィさん」
「おう、おはようさん。そいつが例の新人か?」
「はい、西京 龍君なのですよ。昨日到着したのです」
部屋には先客が二人いて、その二人にリーフィさんは元気に挨拶をしてたが俺はそれどころではない。
やばい、めっちゃこええ!! なにあの人! 完全にヤの付く人じゃないのか!?
歳は俺より二回りほど上だろうか、白髪のオールバックだし何より眼光と顔に三本の大きな傷跡がただ者でないと俺の直感が告げていた。そしてそんな人がじっと俺を見ている。
「ハイルが連れてくるっつうからどんな化け物かと思ったが……なんだ、ただの人間か? 大丈夫かよおい」
「大丈夫ですよ、僕だって人間ですし」
「てめえをただの人間だなんて俺は認めねえぞ」
「あはは、酷いなキースさんは」
そしてそんな人と普通に話しているのはどこの王子かと思う位華奢で笑顔が眩しいイケメン。胸元のペンダントと部屋の雰囲気がかなりマッチしている。
「あ、あの! 今日からここの仲間になる西京 龍です! 育児などしたことありませんが精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
二人に圧倒されたがなんとか挨拶をすることが出来た。どこの世界でも挨拶は大事なはずだ。
「おう、威勢がいいな。俺はキース・H・ウィザードだ。よろしくな」
「僕はウィル・マクス。同じ人間同士頑張ろうね」
ウィルさんと名乗ったイケメンさんは椅子から立ち上がり手を差し出してきたので、握手を交わす。……キースさんは椅子に座ったままお茶を啜っていた。
「自己紹介も終わったので朝のミーティングを始めましょー!」
「あいよ。……何突っ立てんだよ龍。そこの空いてる席に座れや」
「あ、はい!」
「キースさん威圧したらだめですよ、顔怖いんだから」
「なにぃ!?」
俺は慌ててキースさんに指さされた席に座ると、ウィルさんがキースさんに注意……いや、じゃれついていた。この二人、仲良いんだなぁ。
「ミーティングを! 始めるのですよ!!」
リーフィさんが机をバンバン叩いて二人に注意して静かにさせる。おお、リーフィさん凄い。
「まず、施設長は今日も公務でいないのですよ。だからいつも通りウィルさんに講師の方々の対応をお願いするのです。その後は私達と合流してもらうのです」
「はーい。講義を受けるメンバーに変更は?」
「今のところないのですよー」
「おい、そろそろアメネとモノもいいんじゃねえか?」
「あの二人にはまだ早いのですよ、それにご両親に報告もまだですし」
二人の質問を淀みなく答えていく姿は、昨晩子ども達についてどう思っているか聞いてきたときのような保護者としての威厳があった。
やっぱり子どもの事となると人が変わるんだな。そんな事を三人のやり取りを聞きながら考えているとリーフィさんと目が合った。
「じゃあキー君は龍君について子ども達のお世話をお願いするのですよ」
「んだよ、俺が新人の教育係かよ」
「明日はウィル君について貰うのでしっかりお願いするのですよ?」
「くれぐれも殴らないようにね? せっかく増えた貴重な人員なんだから」
「殴らねえよ!!」
え、俺今日キースさんと二人っきり!?
慌ててリーフィさんを見るとにっこり微笑んで頷くだけだし、ウィルさんに至ってはどうなるか楽しみだと言わんばかりの意味深な笑みを浮かべている。
「よし、じゃあ俺は龍に説明しがてら先に玄関に行くから、お前らは準備してからこいや」
「わかったのですよー。龍君の事、よろしくなのです」
「あ、キースさんこれこれ。大事なの忘れてますよ」
「お、悪いなウィル。んじゃいくぞ」
椅子から立ち上がり、エプロンを手慣れた様子で身につけると、ウィルさんからエプロンと何かを受け取ったキースさんは俺の元にやってきて肩を叩いた。
想像通り、服の上からでもわかるくらいごつごつとした手にびくりと背筋を震わせ、俺は大きな声で返事をして立ち上がるのだった。
……少しだけ声が上擦ってしまい、キースさんに変な顔をされてしまった。恥ずかしい。