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五話 正直に


 その言葉に、俺はつい反射的にリーフィさんの顔を見てしまった。


 先ほどの笑顔は消え、酷く悲しげな表情を浮かべて視線は俺ではなくテーブルに向いていた。


 その表情を見ているだけで胸が締め付けられる。ーーーだけど、嘘はつけない。俺の答えはきっと、リーフィさんの望む答えではないだろう。


 それでも、いずれバレる嘘をついてまで喜ばせても意味はないし、今後世話をするであろう子ども達の為にもならない。


「……正直に言えば、化け物だとは思います」

「……ッ!! そ、そうですよね……」


 『化け物』という言葉を聞いて、リーフィさんの肩が跳ねた。そして伏せていた視線をあげ、目元に少しだけ涙を浮かべながら気丈にも俺に微笑みかけてくる。


「でも、気持ち悪いとは思いませんよ」

「……え?」


 ぽかーん。まさにこの言葉通りの呆けた顔をしたリーフィさんを見て、俺は僅かに微笑みながら思いを伝えていく。


「俺から見たらこの人やこの人も化け物ですから」


 ゆっくりと、写真の中にいる大人達(・・・)を指さしていく。一目で人外だとわかる風体だ。


「え? で、でもこの人達は純粋な魔族の方々ですよ?」

「俺にとっては魔族も化け物ですよ」

「ええ!?」


 そう、こちらの世界の人間はどうか知らないが、俺たちの世界の人間からしたら魔族とのハーフだろうが、純粋な魔族だろうが等しく(・・・・)化け物なのである。


「そういった意味で、子ども達も化け物だと俺は思います」

「そ、そうなのですね……」

「はい。こんな考えですが……どうでしょう、子ども達を俺に任せられますか?」


 スッとリーフィさんの表情が真剣なものになる。その目は先ほどの弱々しいものではなく、本当に俺が子ども達に相応しいか見定めようとする『保護者』の目だった。


「……確認をしたいのですが、なぜ気持ち悪いとは思わないのです?」

「ええ、驚きはしましたが特には」

「何故ですか?」

「え?」

「化け物と思うなら、気持ち悪いとも思いそうなのですが」

「いや、そんな乱暴な! まあ、リーフィさんの言いたいことは、なんとなくはわかりますが」


 穴が開くほど見るとはこの事か。決して俺から視線を外さず瞬きもせず見つめてくるリーフィさんに、若干恐怖を覚えながら俺が思った事を素直に伝える。


「うーん……なんて言ったら良いのかな。別に気持ち悪がる理由がないからですね」

「気持ち悪がる理由がない、ですか」

「はい。先ほど言いましたけど俺から見たらみんな魔族みたいなものですから」


 イモムシに人間の顔がついてようが、身体が半分溶けていようが、魔族なら普通にいそうだから『そういうもの』で受け入れられてしまう。たぶんこれが理由だと思う。


「そう、ですか。……わかったのですよ。ですが、もしお世話をしている時そういった感情が出てしまうようでしたら……申し訳ありませんが元の世界に戻っていただくのです」


 俺の答えに納得できなかったのか、難しい顔で何かを考え込んだ後リーフィさんは頭を下げて申し訳なさそうにそう言った。


「もちろん、構いませんよ。子ども達の為にはそれが一番ですし」

「ありがとうございます!……その、色々失礼な事とか態度をとってしまってごめんなさい!」


 そういって再度頭を下げようとするリーフィさんを手で制する。別に謝ってもらう必要はない。子ども達の事を一番に考えての事だろうし。


 笑顔で大丈夫ですよと伝えると、安心したのか安堵の息を吐き出した後嬉しそうに笑ってくれた。


「では、急ですが明日から一緒に働くのですよー!」

「はい、わかりました。明日からよろしくお願いします!」

「あ、敬語もやめるのですよ? 明日からみんな仲間になるのですから!」

「え、ですが……」

「いいから! あ、ちなみに私はフィーお姉さんと呼んでほしいのですよ」

「わ、わかった……ふぃ、フィーさ、フィー姉さん!」


 見た目が自分より年下の少女をお姉さん呼ばわりはなかなかハードルが高いのですよ、フィー姉さん……。


 そんな俺の複雑な心中はさておき、フィー姉さんと呼ばれて嬉しいのかリーフィさんは今日一番の笑顔を浮かべていた。


「じゃあ、今日はもう寝るのですよー。子ども達の相手は体力を使うので夜更かしは厳禁なのです!」

「了解。……ん? そういえば俺って今日からどこで寝泊まりすれば良いんだ?」

「あれ、聞いてないのですか? 施設に宿直室があるので龍君には今日からそこで暮らして貰うのですよー」

「ああ、なるほどな。じゃあ、案内してくれる?」

「ここなのですよ?」

「へ?」

「ほら、早く一緒に寝るのですよ!」


 そういって椅子から立ち上がったリーフィさんが俺の腕を引っ張ってベットへ|誘≪いざな≫おうとしてくる。


「え、ちょ、リーフィさんもここで寝るんですか?」

「む、また敬語に戻ってるのですよ? それに、宿直室は私の部屋でもあるのですよー」


 それがどうしたの? と言わんばかりに首を傾げてらっしゃるリーフィさんの様子を見て、俺は覚悟を決める。ーーーこれは、長い夜になりそうだ、と。


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