四話 子ども達
「うう……初対面なのに失礼しました……」
「いったいなあ。殴らなくたっていいじゃないか」
「あ、あはは、気にしてませんから……」
あれからリーフィさんは、なんとかタオルを取り戻して俺の目を塞ぐようハイルさんに|お願い≪めいれい≫すると、素早く着替えてしまった。
そうして身支度を調えたリーフィさんはやっと落ち着いたのか、いまだ床に座っていた俺に椅子を勧めてくれた。ちなみにハイルさんは床で正座である。
「で、では改めて自己紹介をするのですよ。……こほん。ーーー初めまして、私はそこにいるハイルと同じ、メイレー様の分霊体です。名前はリーフィと申します。メイレー様からこの施設にいる子ども達の保護とお世話を命じられております」
そういってゆっくりと俺に頭を下げてくる。もちろん、俺もそれに合わせて頭を下げる。
……やっぱり、この人も分霊体なのか。結構ハイルさんと仲が良いみたいだしそうじゃないかと思ってはいたけど。
「初めまして、西京 龍って言います。その、子どもの世話とかしたことないので力になれるかわかりませんが、精一杯頑張ります」
「まだそんな事言ってるー。僕とメイレー様の事信じてないのー?」
下から上目遣いで文句を言ってくるハイルさんに俺は苦笑いで答えると、その様子を見てリーフィさんは微笑んでいた。
「龍さんの不安はよくわかるのですよ。私も何十年と子ども達のお世話をしていますがまだまだ皆様にご迷惑をかけていて……」
「まー、リーフィはおっちょこちょいな上、ドジだからねぇ」
ハイルさん、そんな事言うとまた拳骨されるぞ? なんて思っていたがリーフィさんはしょんぼりした顔で俯いていた。……ああ、本当なのね。
「さて、と。じゃあ顔合わせも終わったし僕はそろそろ次の仕事に行かなきゃ。じゃね、龍君。また遊びに来るから」
「え、ちょ、ええ!?」
いくら自己紹介が終わったからっていきなり二人きりにするのは待ってほしいっ!!
なんて俺の願いは叶うはずもなく、ハイルさんは笑顔で手を振って姿を消してしまった。
「……」
「……」
そうして流れる気まずい雰囲気。こういう時は何か話題を振らなきゃいけないとは思う。思うけど、その話題が全く思い浮かばない。
ちらりとリーフィさんの様子を伺うと、背後のある物に視線が奪われた。
「あ、あの!」
「はい! どうしたのですか龍さん?」
「その、あれって……写真ですか?」
「あれ? ……ああ、これですか! 厳密に言えばそちらの世界の写真とは違いますが、似たような物なのですよー」
俺が指さした物を振り返って確認すると、立ち上がって持ってきてくれた。
「良かったら見ますか?」
「はい!」
気まずい雰囲気を吹き飛ばすためにも、ぜひこれで盛り上げねば! そう思って手渡された写真を見て俺は固まった。
「この施設にいるみんなで撮ったのものでして、私の宝物です」
ーーー笑顔のリーフィさんが写っていた。そしてその周りにはたくさんの子ども達と、数人の大人の姿があった。
「……え、えっと、この子は?」
「ああ、ルナちゃんですね! ルアル・ボムビークスと森人とのハーフで、甘えん坊で寂しがり屋な子なのですよぉ」
俺が指を指したのは、リーフィさんに抱かれているイモムシだ。だがどうみても普通のイモムシとは身体の大きさが違う。何よりも、顔が人間だったりする。
「ルナちゃん……ですか。で、ではこの子は?」
「その子はナスカ君ですね。寝る事が大好きでこの日もみんなで引っ張ってきたのですよ」
当時を思い出したのか、リーフィさんはくすくす笑っていたが俺はそれどころではない。なにせナスカ君と呼ばれた顎はでかすぎるのだ。写真には顔の三分の一くらいしか入ってない。
そう、俺はこの子達の世話をするためにこっちの世界に来たのだ、それはつまりこのよくわからないルナちゃんや大きすぎるナスカ君を相手にするということ。
正直、出来る気がしない。いや、ルナちゃんならまだなんとかなるかもしれないが、ナスカ君の世話なんてしたら何かの拍子でぷちっといかれてしまいそうだ。
十分にあり得そうな未来を幻視して冷や汗を垂らしていると、そんな俺を見たリーフィさんがぼそりと呟いた。
「……やはり、この子達は気持ち悪いと……化け物だと思いますか……?」