三話 ようこそアタラシアへ!
「とうちゃーく! ようこそ、アタラシアへ! ……ってあれ、どうしたの龍君? 大丈夫?」
「……うう、酷い目にあった」
ぬぽん、というなんとも微妙な音を出しながら、俺はハイルさんに手を引かれてあの気持ち悪い空間を抜けてきた。
闇が渦巻いてるところがあると思えば、今度は視界が真っ白に染まるほど眩しいところがあったり、身体を左右に大きく揺さぶられたかと思ったら今度は小刻みに振動したりして……早い話が酔ったのだ。
これが噂の召喚酔いか? などと膝をつきながら馬鹿な事を考えていると、ハイルさんが心配そうに顔をのぞき込んでいる。
「すいません、ちょっと酔っちゃったみたいで……」
「そうなの? じゃあリーフィを呼んでくるよ。丁度紹介したかったし!」
そう言うやいなや、ハイルさんは部屋の奥に走っていってしまった。
……しかしここは何の部屋なんだろうか、召喚儀式用の部屋? にしては……。
未だこみ上げてくる吐き気を堪えながら、俺はざっと辺りを見渡してみた。
部屋全体は白を基調としたおり、清潔感が溢れていた。テーブルの上に何故か乗っている小石や葉っぱ、よくわからない物を除けばあとにあるのはベットとクローゼットのみである。
あまり生活感が感じられないけど……ああ、もしかしたらハイルさんの部屋かな? 神様の分霊体みたいだし、人間みたいな生活なんてしないんだろうなぁ。
そう一人納得していると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「早く早く! 龍君が来てくれたんだよ? 挨拶しなきゃ!」
「ええ!? ちょ、ちょっと待つのですよ! 今は……ああっだめぇ!!」
なんだか騒がしいなぁと思っていると、笑顔のハイルさんが身体にタオルだけを巻き付けた女の子を連れてきた。
年の頃はハイルと同じくらいだろうか、ハイルさんとは正反対で庇護欲を刺激するような幼さを残す可愛らしい顔立ちをしている。肩甲骨辺りまで伸ばされている淡い桃色の髪は濡れており、頬や背中に張り付いている。
しかしそれを押しのけて自己主張をするものがある。そうーーー胸だ。
これが母性だと言わんばかりの大きさである。タオル一枚というほぼ無防備な姿であるため、涙目になってハイルさんに抗議のぽかぽかパンチをするたびにそれはゆっさゆっさと揺れている。もう一度言おう、ゆっさゆっさと揺れている!!
「せめて服を着せてほしいのですよ! こんな格好じゃ恥ずかしくて恥ずかしくて挨拶なんて出来ないのですよぉ!」
「うるさいなぁ。裸くらいいいじゃん減るもんじゃないしー。ほら、せっかく龍君が来てくれたんだからさっさと挨拶する!」
うーん、なんという眼福。実に素晴らしすぎる光景。これが異世界か。なんて考えていると、リーフィさんの抗議を面倒くさそうに聞いていたハイルさんは、あろうことかリーフィさんの肩を掴んでこちら向かせると、思いっきり背中を押したのである。
「ちょ、ハイル!? わ、あ! きゃう!」
ーーー諸君はタオルを腰に巻いて歩いた事があると思う。その時、大股で歩いただろうか? いいや、歩かない。なぜなら大事なところが見えてしまうし、巻いたタオルが緩んで外れてしまうからだ。では、もし背中を押されたらどうなるか。
答えはバランスを崩して転倒する。そう、今まさに目の前にはこちらに向かって倒れてくるリーフィさんの姿が! しかも何故かタオルがはだけていて……おお、神よ!!
「へー、裸を見られるの嫌なのに、裸で抱きつくのいいんだ?」
「ひっ!? りゅ、龍さんごめんなさい! 今離れたらその、色々見えちゃうのでこのまま……ハイル! 早くタオルを返すのですよ!!」
「やだよー。そのまま自己紹介したらどうかな?」
「ハーイールー!!」
……俺は紳士だから絶対に動きません。紳士だから、なんだこの物体柔らかすぎんだろとかも考えていません。リーフィさんが身じろぎするたび、顔にものすっごい柔らかい物体がむにゅむにゅ当たって最高だとか思う訳ないじゃないですか。……ホントダヨ?