二話 いざ、異世界へ
ハイルさんの説明を要約するとこうだった。
ハイルさんがいる世界には人間と魔族がいて争っていたが、二千年程前に終戦し今は仲良くなった。その後、紆余曲折を経て両者の距離が少しずつ近づいていった今、とある問題が発生した。
「人間と魔族のハーフ、ですか」
『そう、メイレー様はとっても喜んだんだけど、人間と魔族は……その、ね?』
「えっと、今は大分仲良くなったんですよね? なら受け入れられそうですが……」
ファンタジー世界的に、ハーフの存在はよくある話なのだが、やはり現実だと受け入れられない問題なのだろうか?
『うーん、当たり前の話だけど種族が違うからね。こっちの世界で例えるなら、チンパンジーと人間の間に子どもが出来たらどう思う?』
「あ、あー……」
……考えが浅はかだった。それは確かにきついし実際に戸惑うだろう。
『ね、わかるよね?』
「はい……なかなかに重たい問題ですね」
『とりあえずそっちの問題は今なんとかしてるんだけど、もう一つの問題がどうにもならなくて……』
「もう一つの問題?」
『うん。まだハーフが世間に受け入れられてないからこちらで保護してるんだけど、その人手が足りないんだ』
「人手が足りない?」
こっちの世界でも昨今保育士が少ないとニュースでやっていたけど、異世界でもそうなんだろうか?
「うん、そりゃお金を積めばそれ目当てでやってくれるけど、そんなのメイレー様が認めないからね。ハーフとか関係なしで純粋に、子ども達の事を考えて働ける人を探しているんだ。でもそうするとなかなかいなくて……だから、こっちの世界に来たんだよ」
そういって、ハイルさんはキラキラしている目で俺を見つめてきた。
「それってつまり……俺ならそこで働ける、と?」
「うん! いやあ、まさか異世界でこんな逸材を見つけられるとは思ってなかったよ! メイレー様が推しただけはあるね!」
「ちょ、ちょっと待ってください! あの、知ってるとは思いますけど俺って独身だし子どもとなんて接したことないしで世話なんて出来る訳が『大丈夫だよ』……え?」
このままでは育児経験なんてしたことないのに異世界でさせられてしまう。そう思って慌てて無理だと訴えようとすると、ハイルさんに遮られてしまった。
『だって君は君が思っている以上に優しくて、人の為に何かが出来る人間だよ。それに、僕も、僕を通して君を視たメイレー様も是非働いてほしいと思ってる。ほんとだよ?』
もしかしたら、生まれて初めてこんなに求められたかもしれない。すごく嬉しい。すごく嬉しいけど、もし期待に応えられなかったら……!
「で、でも……俺は、仕事の手を抜いたり……友達だってそんな多くないし……子どもの世話なんて大事なこと……」
『龍君。こっち見て』
「……え、あ」
『こほん……西京 龍様。子ども達の、ひいては世界の未来の為……どうか、どうかお力添えを。私達には貴方のような方が必要なのです』
……そんな真剣に、お願いされた勘違いしちゃうだろ。俺なんかがみんなの役に立てる、なんて夢を見ちゃうだろ。
「……子どもの世話なんて、ほんとにしたことないんだけど」
『うん、知ってるよ』
「俺に期待してるみたいだけど、期待を裏切るかもしれない」
『ううん、龍君なら大丈夫。だって僕とメイレー様のお墨付きなんだから!』
「ははは、神様のお墨付きなんて俺も凄くなったなぁ」
「そうだよ、君はすごい! だから、ね」
そういって微笑みながらテレビの中から手を伸ばしてくるハイルさん。
いくらハイルさんやメイレー様とやらが期待してくれていても、俺に育児はまだ無理だと思う。……だけど、もし本当に俺なんかの力が役に立って、誰かを幸せに出来るならーーー。
俺は、力強くハイルさんの手を取った。
「自信ないし迷惑かけると思いますが、よろしくお願いします!」
「うん、君ならきっとそういってくれると思ったよ! 行こう、龍君! 私達の世界、『アタラシア』へ!!』
ハイルさんに手を引かれ、俺はテレビの中に飛び込んでいった。不安と期待をその胸に抱きながら。