十話 覚悟?
「ほら、お前のエプロンと守護珠だ。子ども達が来る前につけとけ」
「あ、はい!」
キースさんの後を追って部屋を出ると、手に持っていたエプロンと蒼い宝石を中心にあしらったペンダントのようなものを受け取る。
エプロンはまあわかるけど、このペンダントは一体何なんだ?
「そいつには城壁と増幅、自動化の魔法が込められてる。ここにいる間は肌身離さずに持っていろ。死にたくねえならな」
……ごくりと生唾を飲み込む。え、死ぬの? そんなの聞いてないけど。
ちらりとキースさんを見てもそこには冗談を言ってる雰囲気はない。至って真面目だ。
「相手は子どもだからな、中にはまだ力加減がわかってねぇ奴もいるし不慮の事故ってもんもある。お前はただの人間だろ? 見た感じウィルみたいに化け物って感じがしないしな」
「はい。魔法とか使ったことないです」
「やっぱりな。まあそれさえ付けてれば死ぬことはねえよ」
俺は慌ててエプロンを着てペンダントを付ける。うん、絶対似合ってない。
「よし、付けたな。じゃあここで子ども達が来るのを待つぞ」
「ここは玄関……ですか?」
キースさんが開けてくれたドアにお礼を言いながら入ると、そこは窓一つ無いせいか薄暗かった。真っ暗ではないのは床に描かれている魔方陣が優しい光を放っているからである。
「ああ、揺り籠は特殊な立地かつ超強力な結界が張られている。転移石を持たない奴はこれねえんだよ。んで、ここがその転移石に刻まれた場所だ」
なるほど、だからドアもさっき入ってきたものしかないわけか。
俺がキョロキョロと落ち着きなく部屋を見ていると、備え付けられていた椅子にキースさんがどっかりと腰掛け俺にしゃべりかけてきた。
「しっかし本当にただの人間だな……なあ、お前はなんでここに来たんだ?」
「……えっと、お願いされたからです」
「お願い? 誰にだ?」
ぐっ、この人なかなか細かいな。しかしだからといって正直に女神様ですとは言えない。俺だったら間違いなく頭がおかしい人認定する。ここは無難にリーフィさんにしておこう。
「リーフィさんにです」
「……なるほど、言いたくねえってわけか」
あれ!? ごまかしたのがバレてる!?
「え、えっと、ほんとにリーフィさんにですね」
「別に言いたかねえなら聞かねえよ。ただ一つ言っとくけどな」
椅子から立ち上がって俺の目の前に立つキースさん。俺が今まで会ったどの人よりも迫力があって、威圧感があってーーー怖い。
「生半可な気持ちでやるってんなら俺が殺す。だが俺も鬼じゃねえ。今ここで止めるっつーなら見逃してやるしリーフィにも口利きしてやるよ」
ーーー生まれて初めて、恐怖で震えた。自分の身体が自分のものでなくなったようで身体の震えが止まらないし力が入らない。
汗が噴き出すし呼吸も浅くなってしまう。それどころか立つことすらままならず尻餅をついてしまった。そんな俺を見下しているキースさんに俺は恐怖とは別の感情が沸いてきた。
「ーーーるよ」
「あ?」
「や、やるっつってんだろ!? んだよ、も、文句あんのか、おっさん!!」
それは『怒り』だ。
目の前のキースさんは確かに怖い。未だ足は震えてるし力なんて入らない。けど、それでもこの理不尽な扱いに俺は確かに苛ついた。
「な、生半可な気持ち、な、なんて誰が決めたんだよ!! お、おおおお俺は子ども達の世話しに来たんだ!!」
「それがハーフの子どもでもか?」
「か、かんけぇ、ありゅか!!」
「……くっ、くくく、かんけぇありゅか」
舌すら上手く動かせなくなって呂律がかなり怪しくなったがそんなこと俺には関係ない。
俺を必要としてくれた女神様やハイルさん、たぶんリーフィさんの為にも脅されたからといっておめおめと引き下がる訳にはいかないんだ!!
「……試すような真似をして悪かったな」
先ほどまであった迫力や威圧感はどこへやら、ほんの少しだけ口角を上げたキースさんが俺に手を差し伸べてくる。
あまりに急に変わるものだから、沸騰した頭にいきなり冷水をかけられたような気分になった。どうやら俺はキースさんに子ども達のお世話に相応しい人間か試されたらしい。
「……良い性格してるな、おっさん」
「おう、いきなりおっさん呼ばわりか」
「うっせえ、いきなりトラウマ級の事件起こされりゃ誰だってこうなるわ」
「くっくっくっ。漏らしたか?」
「漏らしてねーよばーかばーか!!」
……あぶなかったとは言わない。言ったところで目の前のおっさんを喜ばせるだけだろうからだ。
「んじゃ、お前の覚悟が口だけじゃないとこを見せて貰おうじゃねーか」
「え?」
次はなにする気だこのおっさん? なんて事を考えていると、床に描かれた魔方陣の光が先ほどよりもかなり強くなっていた。
転移が始まるのかとドキドキしながら見つめていると、俺の視界は強烈な閃光により真っ白に染められた。




