第1章
―――起きてくださーい。
―――いつまで寝てるんですかぁ?
―――いい加減起きないと魂を消滅させますよぉ?
恐ろしい言葉にバッと飛び起きる。
・・・飛び起きる?
なにか違和感を感じる。
―――やっと起きましたかぁ、ねぼすけさんですねぇ。
声の主を探すと翼の生えた、いかにも「天使です」な女性が浮かんでいた。
―――天使ですよぉ。よくわかりましたねぇ。
どうやら本当に天使らしい。そのうえ心が読めるようだ。
―――心を読んでいるわけではないのですがぁ。その辺は難しいので後にしましょうかぁ。
・・・どうやらそんなに重要なことではないらしい。
いやいや、天使って!そんなの漫画とかアニメでしか見たことないぞ!
―――そうなんですかぁ?まあ私の姿かたちはあなたの記憶をもとに作られるらしいのでぇ。
・・・どういうこと?
―――あなたが天使だと思う形に私が見えている。ということですよぉ。
な、なるほど。だから天使っぽいと感じるんですね。
―――そうだよぉ。・・・うん、呑み込みが早いし落ち着いてるし問題なさそうだね。
普通はここどこ!とかあなただれ!とかうるさいくらいなんだけどねぇ。
・・・そういえばここはどこだ?僕は確か、会社を出て、それで・・・車に、突っ込まれて・・・
―――あ、あんまり思い出さない方がいいよぉ?あんまり思い出しすぎると痛みとかも思い出すからぁ。
その言葉を聞いて脳が思い出すことを拒否する。
よほど痛かったのだろう。
―――じゃあ本題に入るねぇ?・・・ぱんぱかぱーん!おめでとうございまぁす!
え?
―――二宮カイトさん!あなたはこの度別の世界で次の人生を歩む権利を手に入れましたぁ!
・・・え?
―――あなたたちの言葉でいうところの「異世界転生」ってやつですよぉ!
え?・・・え?
―――二宮カイトさん!あなたは一度目の人生を無残にも奪われてしまいましたぁ!なのでぇ!
―――出血!大!サービス!としてぇ!二度目の人生をプレゼントしますぅ!!ぱちぱちぱちぃ!
(自称)天使は拍手しながら自分でもぱちぱちと言っている。
そんなことより、死んだ?・・・僕が?
―――厳密にはまだ生きてますよぉ?
生きてんのかい!
―――まだってレベルですけどねぇ。もちろん二度目の人生を拒否して元の体に戻すこともできるけどぉ
できるけど?
―――けどぉ、戻すときはそのまま戻すからねぇ。体までは直せないよぉ。
・・・二度目の人生はできるのに?
―――実は二度目の人生って言っても結構難しいんだよぉ?簡単じゃないんだよぉ?
思考がまとまらない。死んだ?僕が?いや、どうやら死んではないらしい。死ぬ?誰が?・・・僕が?
なんで?・・・車に突っ込まれて?・・・二度目の人生?死んだら全員に二度目が?
―――なかなか鋭いねぇ。もちろん全員がってわけじゃないよぉ。そこまで暇じゃないしぃ。
じゃあなんで僕が?
―――君を轢いた車の運転手がかなり徳を積んだ人でねぇ。かなり世界に尽くしてみたいですぅ。
それがどうして?
―――どうやら車に細工されたらしくてねぇ。それで突っ込んじゃったらしいんだよねぇ。
それでその人に二度目の人生をって言いに行ったら、君に権利を上げてほしいってさぁ。
まぁ、自分のせいじゃなかったとしても気に病んじゃうよねぇ。
・・・暗殺に巻き込まれたってこと?
―――平たく言えばそうだねぇ。
なんてこった。