序章3:旅立ち
今回序章が終わり、物語が本格的にスタートします
序章3:ケイコ
「…ところで、まだ自己紹介をしていなかったね。私の名前はケイコっていうの。よろしくね。」
僕らもそれぞれの名を名乗り、さらに僕が質問を続けた。
「よろしくケイコさん。でも、ケイコさんは、なぜこの禁じられた森に住んでいるの?。アルニカ領側だって、森は立入禁止区域なんでしょう?」
「うん。基本的に一般人がはいることは許されていないね。実は、私は国境を警備する仕事をしているの。アルニカとグランルーシのね。」
「国境警備…」
「うん。と言っても、ここら一帯は、密入国者はまず出ないから、そう言うのを取り締まる普通の警備員みたいな仕事はあまりなくて、まあ早い話グランルーシ国が妙なことをしてこないかを監視しているの。ゼロ点での様子も含めてね。」
「でも、ゼロ点はグランルーシ側だぞ?」
「一応、禁じられた森内は、向こうの領にも入っていいってことになっているの。ゼロ点の研究の権利をグランルーシに渡すかわりにね。
…でも、ゼロ点への侵入者は、あなた方が始めてだよ。」
「…あれ、ってことはオレたち、このまま拘束…?」
そうか、この人が警備員なら、僕らは捕まってしまった…ってことになるのか…。
「そう。しかも、第一種制限区域への侵入は重罪って言うのは、知ってるよね。」
やばい。途端にやばい空気になった。
重罪って、何年拘束されるんだ。10年?20年?
「…そう、規則上はね。そこで、少し相談があるのだけれど。」
「と、いいますと?」
俄かに畏まらなければならないような気分になってきた。
「実は、治安上問題なのは、侵入されたことが法に触れるとかいうことなんかより、『あなた方その石ころを手にしてしまったこと。』なんだよね。それを売られたりして、悪い人の手に渡ると困るから。
まあ、石を取り上げちゃえばそれでも良いんだけど、せっかく話を聞いたんだし、少し相談があるの。」
「相談?」
「実は、最近グランルーシ国の様子がひどく不穏で、レイディアストーンを使って何かをしようとしているんじゃないかって言う噂が流れているの。
どうも、どこかに戦争をしかけようとしているって。
その話が本当なら、アルニカとしても防備を固めるとか、グランルーシを止めるとか…まあ、それは私のすることじゃないけれど、とにかくアルニカも、何らかの行動をとる必要が出る。
それで、そのことについての情報が欲しいの。」
「えーと、それで?」
「あなた方に、そのことについて、調べて来て欲しいの。私たちアルニカの人が行ったりして、下手なことになると、両国の友好関係が崩れる恐れがあるから…。」
「オ、オレたちが?オレら、そんなスパイみたいなこと、したことないぞ?」
「あ、いや何も、機密事項を盗め、とかそう言うことではなくて。とりあえず、帝都に行って、法を冒さない程度に話を聞くとかでいいから…。グランルーシは広いから、辺境のチェルノーブルまでまだ伝わってない話が帝都では聞けたりするって言うし…。」
それは確かにそうだった。13もの標準時があるグランルーシでは、文化も情報も何もかも、帝都とこのあたりでは相当のタイムラグがある。
「本当、ちょっと帝都の様子とかを調べてくる程度でいいから…。」
「そう言うことなら、まあ重罪をチャラにしてくれるわけだし、やってみてもいいよな?」
クラダハイムの問いかけに僕はうなづいた。
もちろんケイコへの恩返しもあったけど、僕自身、グランルーシ国のことも、レイディアストーンのことも気になり出していたんだ。
「それで、この石はどうするんだい?」
「ああ、それは持ってていいよ。テレポートを使うと移動が楽だし、非常用に、ね。」 「でも、エネルギーが暴発したりしないかな。」
「実は、それを攻撃に使うには、対象一点に対するかなりの憎悪心なんかが必要なの。だから、それで攻撃するには、精神的訓練とか集中力が必要なんだよ。
…だから、普通にしている分に、暴発することはまずないね。
さっきのグランルーシの研究者は、そのことをあまり知らなかったみたいだけど。」
「武器にするつもりはないんだろうか。」 武器の代わりにするつもりなら、当然知っていそうなことだが…。
「その点もちょっと気になっているんだよね。まあ、たまたま何か機械とかに応用する研究をしていた人だったのかも知れないけれど…。」
「まあ、そこら辺も含めて、一つ帝都で調べてくるよ。」
「ありがとう。あ、今日はこの小屋の客間に泊まってってよ。明日お金とか、必要なもの渡すから。二人は帝都に行ったことはない?」
僕らはそろって首を振った。
チェルノーブルから帝都へは、汽車でも一週間かかる距離だから、僕らの知り合いでも、行ったことのある人はあまりいない。
隣国にはよく行くのに自国の帝都にはなかなか行けないっても、ちょっと変な話だけど。
「…そっか。じゃあ行きは汽車でいくしかないね。その運賃も含め、ある程度まとまった金額を渡すね。二人は学生?」
「ああ。でも、研修ってことで休めると思う。帝都に行くんなら。」
さっきも言うとおり、帝都は全てにおける先頭に位置するところ。だから、学術的にも見る価値がある…。大学はそう思っているところがあって、帝都への研修は、例え旅行のようなものでも、奨励されている。
…さっきも言ったとおり、実際行く人はなかなかいないけれど…。
「そう。そう言うことなら話は早いね。一つ、よろしく頼むよ。」
その後、アルニカには計三日通った。仕事の命を正式に受けたり、諸所必要な金や物をもらう手続きをしたりしたからだ。
その移動は今や全く苦ではない。僕らはアルニカには行ったことがあったから、テレポート可能だったからだ。
そして、出発を翌日に控えた夕方、僕らは二人、馴染みの店で外食をした。
授業が夕方まである日は、たいていここで夕食をとる。
学生向けの安いメニューがそろっていて、しかもおいしいので、僕ら以外にも、ここの常連は多い。
僕らは『月夜定食』を頼むと、二人がけの席に座った。
「ここも、しばらくはこられなくなるな。」
「結局、金は何日分くらいもらったんだ?」
「そうだな…交通費を片道のみで計算すると、向こうでの滞在だけで三週間分くらいかな。食費にもよるけど。」
三週間…。行くのに一週間かかるから、約一か月の旅…。
「ま、毎日ここに戻ってきてもいいんだけどな。テレポートもあるわけだし。でもま、せっかく宿代をくれてるんなら、しばらく宿暮らしするか。」
「そうだな。」
「帝都フェルガナ=ツェントルムか、まさかこんな早くに行く機会が訪れるとはな。」
グランルーシ最先端の都市、帝都フェルガナ=ツェントルムは、僕らの憧れであった。
「友達に自慢できるぜ。」
「そうだな。」
それ程不安はなかった。別に危ない橋を渡るわけではないし。法を冒さない範囲でいいと行っていたからな。むしろ、ちょっとした旅行気分で、わくわくするくらいだ。 旅行か…。テレポートがあれば、一回行ったところへは旅行し放題ってわけか。
便利だけど、なんか味気無いな…。
僕らは翌日に備え、早めに帰宅した。