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戯曲裁判  作者: 花南
1/4

01

「それでは今から来年度予算案について話し合いたいと思います」

 生徒会のメンバーがだいたい揃ったところで鈴木はそう言った。

 去年の予算案や、今年の大きな行事、来年期待できること、経済部の株の流れなどについて話し合いながら、西園寺がふと、鈴木に聞いた。

「あの煩い奴はどうしたんだ?」

「煩い奴?」

「加藤のことよ」

 冬姫が隣から注釈をいれる。

「ああ、最近どうしたんだろうな」

「鈴木も知らないの?」

「加藤って秘密の多い奴だから」

 鈴木は肩を竦めて笑った。

 加藤は最近学校に来ていないようだった。鈴木も薄々気になりはしていたが、加藤が学校をサボるのは今に始まったことではないし、鈴木も生徒会の仕事が忙しかったために加藤の様子を見に行っていなかったのだ。


「じゃあ今日のところの予算会議はこれくらいで」

気づくともう外が暗い時間になっていた。冬になると日の出ている時間が短い。

冬姫は今から部活に顔を出すと言っていたので、鈴木はひとりだけで下校することになった。

 駅まで歩いていると、街灯の下に自分と同い年くらいの少年が立っていた。ちらりと見ただけで、その前を通り過ぎようとしたときだった。

「鈴木北斗くんだよね?」

 少年が藪から棒にそう言ったので、鈴木は足を止める。

「君に話があるんだ」

 鈴木は相手の顔をまじまじと見た。ゆるくワックスで癖のつけてある髪、高そうな私服、モデルのような顔。どこかで見たことがあるような気はするのだが、東雲高校の生徒でないのは確かだった。

「俺に用だって?」

「そうだよ。君も俺に用があるはずだ」

「何のことだ?」

「加藤竜弥が最近顔を見せないこと、気になっているんだろう?」

 鈴木は怪訝に眉をひそめた。

「何か知っているのか?」

「あいつは今自宅謹慎中だよ。俺を殴った傷害罪でね」

 少年の言葉に、鈴木は首をひねる。

「あいつが何もしていない奴を殴るわけがない」

「だとしても、殴って怪我させたら悪いのはそっちだろう?」

「そうだけど……」

 鈴木は言いよどむ。少年はにっこり笑ってこう言った。

「でもまあ、穏便に片付けない手はないと思っているよ。君が俺に"誠意"を見せてくれるならば、俺だって考えない手はない」

 それが狙いか。少年を睨みつけると、彼はにっこりと笑って、「怖い顔するなよ」と言った。

「あいつが学校辞めることにならなければ君だって嬉しいだろう?」

 それが撫原尚輝と鈴木のファーストコンタクトだった。



「カットですわカットですわ。鉄道研究部にこんなに部費を払えるわけありませんわ」

 生徒会会計担当の伊藤水緒いとうみおが提出された予算の紙を見てそう言った。

「でも鉄道部にいる人たち、けっこうお金を投資してくれてるんですよ。こうなってくると予算のほうも少し多めに考えないとつりあいがとれないんじゃあないかと……」

 生徒会メンバーのひとり、月崎剛つきざきつよしが消え入りそうな声でそう意見を言った。

「そうですわね。この不景気の最中、金を持っている奴から搾取しなくては生徒会はやっていけませんわね」

「いまいちありがたみの感じられない言葉やな」

 似非大阪弁の川島李樹かわしまりきが水緒の言動に口を挟む。

「そもそも劣の管弦楽部があまりにも予算かかりすぎなんですわ!」

「なにをう!? きさん、管弦楽部がどれだけコンクールに参加して賞をとっているのか知らないのか!?」

「賞はお金になりませんもの。悔しかったらお金持って来なさいまし!」

「そのよくわからない口調で『来なさいまし!』と言われてもなあ」

 李樹がまたぼそっと突っ込んだ。

 生徒会室の扉が開き、鈴木が入ってきた。

「みんな、もう会議始めてたの?」

「まさか。この女がただひとり『カットですわカットですわ』と騒いどったんや」

「あなたもいっしょに騒いでいたでしょう! 李樹」

 鈴木は鞄の中からクリアファイルを取り出した。

「実は昨日、来年の予算案を徹夜で考えてみたんだけど」

「さすが生徒会長!」

 ファイルの中身に目を通しながら、水緒はふとひとつのものに目を止めた。

「外交費特別予算……?」

「なんやそれ?」

「他校との交流を深めてみようかなって。東雲高校は来年から私立になるし、そのとき外部の学校のいいところを取り入れたほうがいいと思わないか?」

「まあ会長がそう言うなら……」

 その金額がけっこう大きなことが気になりながらも、水緒は頷いた。

「他に何か不自然な点ある?」

「いえ。とてもよく考えられた予算案だと思います」

 剛もそう言った。

「じゃあこれで来年度の予算は決定でいいかな?」

「待て待て待て!」

 隣から予算案の紙を見ていた西園寺が怒鳴った。

「この特別予算、僕は気に入らないぞ!」

「どうしてだ? 劣」

「そもそも使われる用途が不明確でどこに金が流れるのかわからないし、金額が金額だ。他校との交流に東雲高校の金を使うくらいならば、他の部活に回すべきだ!」

「お前の部活にか? 西園寺」

 隣から李樹がそう言ったので、西園寺は憤怒した。

「僕のためじゃあない! この馬鹿生徒会長こそ自分のために予算組んでるじゃあないか!」

 鈴木を指差してそう言ったが、鈴木の顔色が冴えないことに気づいた。

「劣……今回だけでいいんだ。頼むよ」

 その顔があまりに追い詰められた顔なので、西園寺は一瞬迷ったが、首を振る。

「お前がどんなに金に困ってるか知らないが、生徒会長が自分のために金を使うなんて聞いたことがないぞ」

「そんなんじゃあない」

「じゃあこの予算案は白紙だ」

「それじゃあいけないんだ! 劣!」

 鈴木が大声で怒鳴るものだから、西園寺はびくりとした。

「……ごめん」

 西園寺は謝る鈴木を睨みつけて、そのまま生徒会室をあとにした。

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