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肆 『呪え、自らの運命を』

……同じことが繰り返される。


四つあった森は三つに減り、二つに減った。


あと、森は二つだ。


それが、俺、鷲龍十无に課された、自らの存在意義を証明するために、地球に住む全人類の『今』と『未来』を救うためにクリアしなければいけない試練だ。


後ろと前はクリアした。

あとは、右と左だ。


「……左でいいか」


やはり、入った瞬間目の前は真っ暗になった。



◇◆  ◇◆  ◇◆  ◇◆



ここは、どこだ?

不思議なまでに心地よく、そして抗いようのない浮遊感が俺の体を包んでいる。


そして、俺の目の前には、昔の頃の俺がいた。


……俺は夢を見ている。

これは、夢だ。

なぜ、夢を見ているのだろう。

思い出せない。先程までのことが。


たしか、俺は死んだんだっけか?

なら、ここは死後の世界?


死んでからの記憶がない。


だけど、俺の目の前に写っているのは……過去だ。


もう取り返しようがない、今となってはとてつもなく遠く感じる昔のことだ。


この頃は、まだ良かったんだ。


天才だったか?


否、違った。


では、何か他人と比べて秀でていたか?


否、そうでもない。


言うなれば、中の中。

平凡を地でいくような凡人だった。


この時、俺は小学生だった。


俺の視界が眩んだ。


場面は、中学校だ。


「なあ十无、お前期末テスト何位だったよ?」


「やべえよ、俺後ろに一クラスしかいねぇ」


この学校での一クラスとは四十人で、この学年の生徒は二百一人だったはず。


「やっべーじゃんそれ」


「ああ、やっべーよ」


そう言って笑い合う昔の俺が、友人達に見えないように握っているテストには、178/201位と記されていた。


――ギリィと、思わず俺の歯から音が鳴る。


そうだ、俺は友人に嫌われないために、馬鹿にされないために、嘘をついた。


一クラスということは、四十人。

しかし、この答案では後ろにいる人数は二十三人。


俺は、瀬戸際というものを知っていた。

友人の中にも、150位くらいならいたため、この順位なら馬鹿にされないというギリギリの順位を、そして、本当にそんな順位なのかという疑問も抱かれないような順位を、口走っていたのだ。


思わず、俺は俺に詰め寄る。


「今から本気で努力すれば……」


瞬間、またしても場面が変わり、俺ではない俺がいる場所は背後に変わった。


そこは家の自分の部屋で、俺が引きこもりになった頃の時代と言うことがわかった。


「……くそっ」


これは、俺が高校生の時。

取り繕ってた嘘が全部バレて、しかも成績はさらに悪くなっていた。


そして、周りからは非難され、今さら勉強してもと俺は諦めて、現実から逃げた。


本当は一日休んで戻るつもりだった。


しかし、やっぱり明日、明日、その明日……というふうになり、時を追うごとに戻り辛くなり、そして、学校をやめた。


一度の、なんとなくの妥協が俺を落とし込み、堕落させ、腐敗させた。

  

夢の中の俺は、自分の部屋の机に頭を押しつけて呟く。

             

「俺が、俺がいったいなにしたってんだよ……」


こうなるに値することはしただろう。

努力を怠り、友人に本当の成績を偽った。


「どうせ、もうどうしようもない………」


「そんなことない!」


思わず、俺は叫んだ。

だってそうだ。まだ、この時期は俺が学校を休んでから一ヶ月も経っていない。


本気で努力すれば、やり直せる時期だ。


だが、この俺は知らない。


その堕落した人生がどうなっていくのかを。


「だ、誰だ…?」


「……俺の声が聞こえているのか?」


ラッキーなことに、こいつには俺の声が聞こえているらしい。

死んだ俺の声が聞こえているとは、これはただの死んだあとの俺の回想なわけではなさそうだ。

ただ、俺の姿は見えないようで、四方八方に首を振り回している。


声が聞こえてよかった。

きっとこいつを説得すれば……


「ど、どうせお前も俺を馬鹿にするんだろう?避けずんて、馬鹿にして、殴って、それで、それで………」


「ちょっ、落ち着けよ」


そうだ、この頃の俺は全てが憎くて、信じられなかった。

自分が悪いのは明白なのに、それを認めれるのが怖くて、逃げて、人に責任を押しつけた。


「幻聴までが俺を馬鹿にするのか!なんなんだ!いったいどうしたいっていうんだよ!」


そして、まだ甘えて。

時が経って、後悔したんだ。

だからこそ、こいつには真っ当な道を進んでほしい。


「十无、よーく聞け」


自分で自分に話しかけるのはやはりむず痒いものがあるが、言葉を紡ぐ。


「お前が今、ここで逃げたら将来どうなると思う?」


それは、俺が薄々答えに気付いてた問題への問い。


答えはわかりきっていた。

高校生の時の俺、つまりはこいつがこのまま突き進んだなら、行き着く先は俺だ。


俺の将来は俺が一番知っている。


「しょう、らい?」


昔の俺は、その言葉を一文字一文字噛み締めるように呟く。


きっと、心の中ではこいつも考えていたんだろう。先のことを、未来のことを。

だけど、周りにそれを問う者がいなかったから、頭からそれを振り払って、『最悪』へと走り続けた。


だから、俺がそれを問う者となろう。

道を、正すために。


「そうだ、将来お前はどうなる?その学力で、その人脈で、そのコミュニケーション能力で、生きていけるのか?」


それは、俺が実際に生きていこうとして悩んだ問題。


「う、うるさい!お前に俺の何が」


「わかるさ!周りに誰も味方はいない。友人も家族もみんなが俺を白い目で見てくる!こんな状況でどうすればいいんだ!……そう思っているんだろう?」


「……そ、そうだよ。だってどうしようもないじゃないか」


やはり、俺と同じだ。

そして……


「違う。お前は気付いていないだけだ!皆お前が戻ることを信じてる。父さんも、母さんも、兄さんだって!」


「か、仮にそうだとしても、学校に行けばみんな俺を罵倒するだろう!」


そうだ。それは事実だ。

そして、当たり前でもある。


逆に、成績も悪く、人当たりもそこまでよくない人間が嘘をつけば、それは当然だ。自業自得でもある。


「それはしかたないだろっ!お前はそれだけのことをしたんだ!」


「だからもう、僕にやり直せるわけなんてないじゃないか!」


確かに、友に嘘を吐き続けという事実はもうなくならない。

しかし、やり直せないわけではない。

だって、なぜなら。


「そんなわけがないだろう!生きているならやり直せる。死んでなければやり直せる!お前のその失敗は、時が経てば経つほどに取り返しようがなくなるけど、今はまだその時じゃない!まだ、お前は終わってない!ほんとはわかってるんだろ?ただ逃げてるだけなんだろ?逃げるな!立ち向かえ!」


「……」


俺の怒鳴り声に、高校時代の俺は絶句していた。


そして、問うた。


「俺がここで動けなかったら……?」


俺は断言する。


「それで行き着く場所は『失敗』で、もうやり直せない場所まで行き着いて、そこで見るのは『後悔』だ」


俺じゃない俺は、その言葉の一つ一つを冷静に聞き、再度問う。


「俺がここで動いたなら……?」


だからこそ、俺は俺の思う真実を言う。

嘘まやかしのない、真実を。


「行き着く場所は最善とは限らない。ただ、『最悪』ではない。その努力は報われないかもしれないけど、そこで得るのは確かな『達成感』には違いないだろう」


俺の言葉を聞いた俺は顔を伏せている。考えているのだろう。


選ぶべき道を。自分の将来像を。


俺は言葉を紡ぐ。


「『やらないで後悔するよりも、やって後悔した方がいい』世の誰かさんはそう言った。この言葉は、何時如何なる時にも当てはまる言葉ではない。例えば、無理な延命措置をするよりも、痛みを与えず自然に任せて死に体を任せるべき時もある。……だけど、今はそうじゃない。今のこの瞬間は少なくとも、やって後悔した方がいい、そういう時なんだ」


そして、俺は、いや、彼は伏せた顔を上げた。


「そう、だね。挑むことは怖いけど、挑まない未来で俺は後悔したくない」


そして、その瞳には確かに決意が宿っていた。



◇◆  ◇◆  ◇◆  ◇◆



目の前に広がるのは荒れ地。


「あれ?」


そして、自分の記憶に残っているのは三つ目の森に入ったところまでだった。


そして、三つ目の森は崩れ去った。


この森で何があったのかを俺は知らない。記憶がない。


だが、一つだけ確かなことがある。


森が崩れたということは、俺はその試練をクリアしていて、残る試練はあと一つだということだ。



◇◆  ◇◆  ◇◆  ◇◆



神は、十无を見ている。


「十无くん、あと、一つだ」


その言葉の通り、残された森はあと一つ。


「頑張れよ、十无くん」


この神にしては珍しく、その言葉は、心の底から捻り出された、嘘も虚飾もまやかしも一切ない言葉だった。


参 『強くなるべきは何か』

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