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壱 『生きていた意味を残すために』

時は、西暦2020年の夏。


2016年頃から、謎の異常事態で地球温暖化は猛烈に悪化し、地球はありえないほどのスピードで『人の住めない星』に近づいていった。


世界各国は排気ガスの出るものの廃止などを訴えた。しかし、残念ながらもとよりあるものを人は簡単に手放すことができなかった。


その結果、人は急速に破滅へと向かっていっている。


既に世界人口は大幅に減っており、仮に今すぐ全ての国が排気ガスの抽出をやめたとしてもどうしようもないほどのところまで来ていた。


……そして、俺の存在も同じくらいどうしようもない。


突如食糧難となったこの国で、俺はニートと呼ばれる、高校を中退してしまった一九歳だ。


頼れる両親は二人して俺を置き失踪。

今俺は絶賛死への道を歩いている。


いったい、どれほどの人間が思ったことがあるだろう?

いや、寧ろ思ったことのない人間がどれほどいるだろう?


――やり直せたらな、と。


過去に遡って、全てをリセットした状態から最善に向かって歩けたらな、と。


だが、この世界は残酷かつ薄情だ。


どこぞの小説なら、きっと時間逆行などもできたのだろう。

そして、良い道を歩み、エリートまっしぐらな道を歩み直せたのだろう。


――エリートになりたいとは言わない。けど、凡人になれるだけのチャンスが欲しかった。


飢餓状態で痩せ細り、もう指先を動かすのさえ難しくなった俺はそう思いながら……、永遠の眠りについた。


鷲龍十无(わしたつ とおむ)は、ここで終わった。



◇◆  ◇◆  ◇◆  ◇◆  



辺り一面、真っ白、いや、真っ黒、いや、真っ青か………色が識別できない世界。白色に見えるのに黒色に青色に見える。不思議な場所だ。

それでいて、なぜか落ち着く。

まさに、不可思議極まりない。


しかし、ここで一番俺が不可解に思っていることを、敢えて口にしたい。


「……ここは、どこだ?」


『天界さ』


「うおっっ!?」


問いとは確かに答えられるために存在するものだが、この場合俺は返事が来ると思っていなかったため驚愕した。


辺りを見回すも、人はいない。


『無駄だよ。ここ事態が僕で、僕とは全てで、一つとは全てであり僕なんだから』


「……意味が分かりません」


本当に、意味が分からない。


『それは人間の預かり知れないところだよ。簡単に言えば僕は神だ。……まあそんなことはともかく、君、挑戦してみないか?』


「え?」


その質問には、え?のあとに挑戦とはなにかやら、その報酬はなにかとか、拒否権はあるのかやらの数々の質問が混じっていた。

それの中には勿論、唐突な質問への驚嘆も含まれていたが。


相手もその言葉の意を汲んでいたようで、俺の聞きたい答えを出してくれた。


『君が今からチャレンジできるのは、名づけて、地球復活ゲーム!』


「は、はあ」


とりあえず適当に返しておく。


『クリア報酬は地球という星の地球温暖化が二〇一四年レベルに戻る。また、君達の間で原因不明と呼ばれていた突然の温度上昇も未然に防いであげる。あと、ゲームの内容については詳しいことは内緒だけど、激ムズってことだけは保証してあげる』


なるほど。ただ、その挑戦というのには大事なものが一つ欠落している。


「えと、俺自体への利益は……?」


『ないよ』


「え?じゃあ俺が受ける意味ないじゃないか」


いやはや酷い。だって、こんなシーンで一度でも創作物を読んだ人なら思うだろう。やり直せるんじゃないかとかそういうことを。


『君はこう予想したかもしれない。生き返れるんじゃないかとか、生まれ変われるんじゃないかとかね』


「そうだけど……」


よくわかるな。神だからか。


『まあ転生できることは事実だ』


「マジ!?」


これは素直に嬉しい。


『だけど、君が人に転生するか、それとも蟻や雑草に転生するかは分からない。雑草とかにいたっては君の魂を入れるだけで自我すらないしね。それに、記憶等もなくなる』


記憶が、なくなる?


「それって、ようするに……」


『君が君であった証はなにも残らないし、今の後悔の気持ちや次があったら頑張ろうと思う気持ちは失われる』


じゃあ、次俺が生まれ変わっても同じってことか?


「ダメじゃん………」


『ここで大事なことを告げよう』


「それよりも大事なことってなんだよ」


『それでも、君は生き返れるというのは素晴らしいと思うだろう』


「ああ」


それは思う。生まれ変わっても俺の意識は変わらないかもしらないが、周囲がもっと自分に厳しかったりすれば、こんな俺でも、もっと頑張るかもしれないからだ。


来世の俺はもう少し良い環境にいれて、良い人生を歩めるかもしれない。


『だけど、先程言ったゲームに挑戦すれば、転生できなくなる』


「……は?」


は?まてよ、そんじゃあもし俺にこのゲームとやらを降りる拒否権がなければ俺は、俺は……


『大丈夫だ。拒否権はある』


よし、ならば、ならば当然俺は。


「じゃあ当然俺は降りる!」


『本当にそれでいいのかい?』


「は?なんで?」


良いに決まっているだろう。

そうしなければ俺は本当の意味で終わってしまうんだから。未来永劫に渡って。


『君は今、何億の人の命を握っているんだよ。もし君が成功すれば、地球という星は復活する。なぜ、地球が突如猛スピードで温暖化したか。それはね、君達が言うところの邪神とやらが地球という世界に介入したからだ』


だから、どうした。


『一度この温暖化を治せば、一時はここまで危機に陥った星だ。きっと住民達は今度こそは生き延びてみせるとCO2の噴出を阻止するだろう。なぜ、今の人々が止めようと努力しないか。それは、もう手遅れだからだよ』


それが、どうしたっていうんだ。


『誰しも、どん底でチャンスを与えらればそこにしがみつくだろう。つまり、君が成功すれば地球の人々はみな、生き残れる。君は地球の人々全員の命を救える。君は今、自分一人の命と地球全員の命を天秤にかけているんだ。そして、その天秤を好きなほうに傾けられるのは君だけだ』


なら、ならどうして。


「どうして俺にそんな大役を押しつけたんだ!」


『……たまたまだよ。僕がチャンスを与えられのは一人だけで、その一人はランダムなんだ。さあ、今度こそ最終選択だ。選べ。君の命か、地球全員の命かを』


そんなもの、どうすればいい?


「そうだ、皆生まれ変わるなら死んでも……」


『じゃあ君は、その人達がその先に成すはずだった未来を踏みにじるのかい?』


自分の命と、地球にいる人全員の未来を天秤にかける。

その天秤に俺が触れられないならば、きっとその天秤は『全員の未来』へと傾くだろう。

ただし、今回は俺が決められる。


惜しむらくは、俺の命か。それとも俺以外の命か。


地球に守りたい人などいなかった。

家族は皆俺を軽蔑の目で見ていたし、友達も好きな人もいない。


いや、俺は俺が知っている人のなかで嫌いな人がほぼ全員だ。


ならば、俺はその人達を助けたいと思わない。自分のこの先の、転生したあとの未来全てをかけてまで助けたいとは思わない。


……だけど。


確かに、俺に優しくしてくれた人がいたのも事実だ。


励まして、努力しろよと言ってくれた人がいたのも事実だ。


それになにより、俺のこの人生が最後まで空っぽだったと思いたくない。


そりゃあこの先俺は転生したあと成功できるかもしれない。

だけど、それは俺であって俺じゃない。


俺の魂を受け継いでいても、それは今の俺ではないんだ。この人生を歩んできた俺ではないんだ。


だから。


俺の存在意義を残すために。


「遊んでやるよ。そのゲーム」


俺は、挑もう。


『ははっ、遊ぶ、か……』


一泊を置き。


『いいだろう。君の意地、しかと垣間見たよ。君以外の、他者全員の命を懸けたこのゲーム、存分に遊んできなよ!』


神はそう言い、そして、俺の視界は暗転した。


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