伝える
やっぱり、言った方がいいよね──。
※後半、軽いキスシーンあり。
「何か、良いことでもあったのか?」
「ちょっとな──」
新巻慎は、この前のお土産を届けに、三田頼之のマンションに来ていた。
そして、頼之がいつもより嬉しそうな顔をしていたので、慎は訊いたのだった。
「あれか? 彼のことか?」
「……まあ、そうだな」
と頼之はコーヒーを二つ準備して答える。
慎が持ってきたお土産はカステラだった。
そして、頼之コーヒー。一緒に食べようぜ──と言った慎のわがままにより、頼之はコーヒーを淹れていた。
「どうぞ……」
「サンキュー」
向かいあって座り、カステラを口に運ぶ。
「ん──。うまい」
「だろ? 片っ端から試食したからな」
「何やってんだよ、お前──」
頼之はカステラを口に含み、久々に食べたな。と思いつつコーヒーを飲む。
「友梨香にも言われたよ──でも、やっぱり試食しないと味わかんないし……。そうやってお前がほっぺた落としながら食べてるのも、試食した甲斐があるってもんよ」
と慎は腕を組んでウンウンと頷く。
「べつに落としてないけどな」
「可愛くねえな」
「お前に可愛いとか言われたくもないがな」
「なに? せっかくお土産持ってきたっていうのに、そんなつれないこと言うわけ? 友梨香にも選んでもらって、それでいいんじゃない? って二人で決めたのに?」
「それはお前が──悪かった……」
頼之は言い掛けてから、これ以上言ったら面倒なことになると思ったので、渋々謝り片付け始める。
「一切れだけ? もう食わねえのか?」
「後でテンシと食べる──」
と頼之は微笑んでキッチンにカステラを置きに行く。
「へえ。続いてんのか」
「ああ」
「……そっか。ま、よかったな──」
と慎は笑って、頼之を見る。
頼之も慎を見ると、そうだな。と返した──
*
「やっぱり、自分の気持ちは伝えた方がいいよな……」
「そうだな──」
天使渉は、大学の講義室で、いつものように新巻巧に相談していた。
「てかちょっと待て。なに? 渉いつの間に彼女ゲットしようとしてんの?」
許せん。と巧が顔をしかめる。
「あはは……」
“彼女”ではないんだけど……と渉は頬を掻きながら苦笑いする。
「まあ、テンシは友だちだから? べつに失恋しろ! なんて? これっっっっぽっちも思ってないけどな!」
「ごめん。それ、そうにしか聞こえないわ……」
悔しそうな顔をして言った巧を見て、渉はまた苦笑いする。
「まあそれは置いといて──で、どんな子なわけ?」
「え? あー……そうだな──優しくて、包容力があって、温かい。あと、細かいことしたりする時に眼鏡かける」
「マジ? 眼鏡っ娘? 性格良くね?」
「そう、だな……」
“眼鏡っ娘”じゃないけど……と内心思いつつ、渉は頷く。
「で、そんな彼女に告白させといて、お前は気持ちを伝えてないわけだ?」
「あー……うん」
「バカじゃね?」
すかさず巧は言った。
「両想いになったのに、好きの一言も無しかよ──絶対彼女言ってもらえるの待ってんぞ」
「……やっぱり?」
「てか、彼女に告白させるって……お前男だろ? 好きの一言二言ぐらい言えよ」
「だって……最近好きなんだって気づいたんだから、仕方ないだろ──」
と渉はリュックをさぐりながら言う。
「で、今日会ったりとかは?」
「……する」
「じゃあ言えば。やっぱ一回くらいはちゃんと言っといた方がいいんじゃね? 渉だって伝えた方がいいと思ってんだろ?」
と巧はノートをリュックから取り出しながら、渉を見る。
「まぁ……出来れば言いたい──」
サンタさんが言ってくれたのに、自分だけ言わないのは何か違うもんな。と渉は思う。
「言っちゃえ言っちゃえ。お互い想い合ってても、口に出さなきゃ伝わらないこともある──って誰かが言ってたしな。気持ちを伝えるのも、大切なことだろ?」
「……そうだよな──じゃあ、今日伝えてみるわ」
「お、渉さんファイト〜」
と巧は笑って言った。
渉はリュックからノートと筆箱を出しながら、何の応援だよ。と笑いながらツッコんだ──
*
渉はいつものように家事を終わらせ、テーブルのイスに座って考えていた。
「……いつ言おう──」
頼之はまだ、仕事部屋で仕事をしている。
いつもなら、頼之の方が先にソファーに座っていたり、イスに座っていたりするので、終わると渉は自然に話をする。
だが、今日はまだ頼之が来ていないので、渉は困っていた。
「言いに、行くか──?」
でも仕事邪魔したらあれだし……。
どうしようか……善は急げ? 告白って善に含まれるのか? あ、急がば回れっていうのもあるし──と渉は悶々と考えた挙げ句、結局言いに行くことにした──。
「……ふう。よし──」
ドアの前で呼吸を整えてから、渉はドアノブに手をかけた。
「失礼しま……す?」
「おお。ちょうど今終わったんだ──」
渉がドアを開けると、頼之が目の前に立っていた。
「お、お疲れ様です……あの」
「テンシは、カステラ食べられるか?」
「へ……? あ、はい。食べられますけど……」
「じゃあ一緒に食べよう。新巻からもらってな──」
お土産だそうだ。と頼之はリビングに向かっていく。
後をついていきながら、そうなんですか……と言って、渉はどうしようかと悩む。
「座っててくれ。今出す──」
「はい……」
頼之がキッチンで色々準備をしている間、渉はテーブルのイスに座ってまた考える。
今言うか? それとも食べた後? いや、持ってきてくれて、サンタさんが席に着いたら──
「どうぞ──」
「あ、ありがとうございます」
そんなことを考えている間に、頼之がカステラとコーヒーを渉の前に置いた。
「じゃ、食べよう」
と頼之も渉の前に座る。
「…………」
「どうした? 食べないのか?」
渉がカステラをじっと見つめていたので、頼之は不思議そうな顔して訊いた。
「……あ、いただきます──」
渉は何でもないですと手を振ってから、カステラを口に運んだ。
「うん──おいしいですね!」
「だろ?」
「はい!」
おいしそうに食べる渉を見ながら、頼之は微笑んでコーヒーを飲んだ。
渉はカステラのおいしさに、すっかり伝えることを忘れて、そのまま談笑するのだった──。
*
「カステラ、ありがとうございました。おいしかったです」
「そうか。ならよかった──」
と頼之は微笑む。
玄関で靴を履いてから、あ……。と渉は思い出した。
まだ伝えていないことに──。
「じゃ、気をつけてな」
「あの、サンタさん──!」
渉は頼之を見上げて、口を開いた。
が、たった二文字の言葉を口にできない。
頼之は少し首を傾げて渉を見る。
「あ、の〜……、ですね──」
「うん?」
頼之は渉が言うのを待っている。
渉は顔が少しずつ熱くなっていくのを感じながら、口を開いた。
「その……、前に、サンタさん言わなくていいって言ったけど、やっぱりちゃんと言っといた方がいいかと思って──」
恥ずかしさで頼之を直視できないが、視線はちゃんと頼之に向けて言った。
「俺、サンタさんのこと、好きですから──っ?」
くいっと渉の手首を引っ張り、頼之は近くに来させてから言った。
「俺もだ」
そしてチュッと額に軽くキスをした。
「……し、知ってますよ?! だってサンタさんが先に──」
そう言ってから、渉は顔が熱くなって俯いた。
「渉……?」
「……心臓に、悪いじゃないですか──」
顔を手で覆って、渉は呟く。
頼之は一瞬ぽかんとしたあとふっと笑って、
「そうか、心臓に悪いか──。気をつける」
と渉を見た。
渉も頼之を見て、
「気をつけてくださいよ……」
と言った。
そう言いつつも、ちょっと渉は嬉しく感じたのだった──
プリンの行方。
慎「おい巧。お前、俺がこの前(実家に)帰って来たら食べようと思って買っておいたプリン食ったろ」
巧「え?食ってない食ってない!神に誓う」
慎「じゃあ誰が食ったんだよ」
母「あー、それ食べたのあたし。賞味期間切れそうだったから」
慎「……。巧、ごめんな」
巧「まぁ、うん……そういう時もあるよね……」