ひとまず
お久しぶりです…!
新入社員の教育も落ち着いてきて、三田頼之はそろそろ勤務形態を決めてもらわないとな、とパソコンと真剣に向かい合う井上晴実を見て思う。
「……あ、三田さん、確認お願いします」
「ん、あぁ──」
晴実に言われて、頼之はパソコンに視線を向けた。
特に問題も無く、これといって注意する所も見つからない。
「……うん。大丈夫そうだ。これなら俺が近くで確認する必要もないな。よく出来てる」
そう頼之が微笑むと、晴実はほっとしたように笑って頭を下げた。
「ありがとうございます、三田さんのおかげです……!」
「いやいや、頑張ったのは井上さんだ」
「でも、最初の頃は三田さんに助けられてばっかりでしたし、三田さんのおかげです」
「ほんとにありがとうございます……!」と力強くお礼を口にする晴実に、頼之は続ける。
「はは、井上さんが成長した結果だよ。これからは俺も自分の仕事に戻るから、小さいミスとかしないように、集中してやってくれ」
そう伝えると、晴実は少し不安げな顔になって頼之に訊く。
「これからは三田さんに訊けないんですか……?」
「まぁ……そうだな。でも、新巻は基本的に出勤してるから、次からはあいつに何かあったら訊いてくれ。俺は基本的には自宅で仕事をしてる。井上さんもそろそろ決めていい頃だ」
頼之がそう言うと、晴実は少し考えてから「じゃあ……」と口を開いた。
「私は出勤にします──。三田さんが出勤した時に会えるように」
「……いや、そんなに俺は出勤しないし、井上さんのやりやすい方でいいんだぞ?」
「大丈夫です! 私、三田さんに会えるなら、いつまでも待ってるので!」
質問の答えになってないような……と思いつつも、晴実があまりにもキラキラとした瞳を向けてくるので、頼之は苦笑いしつつ頷く。
「……わかったわかった、井上さんがそれで良いならいいんだ」
「はい! ……ぁ、これからもわからないこととかあったら、連絡してもいいですか……?」
「あぁ、もちろん。わかる範囲で答えるよ」
「ほんとですか?! ありがとうございます! これからもご指導よろしくお願いします!」
そう嬉しそうに言うと、晴実は「ふふ」と小さく笑った。
頼之は「あぁ──」と答えながら、これでひとまず安心だなと、内心ほっと溜め息を吐くのだった。
*
頼之が帰宅すると、天使渉はテーブルに何やら課題のようなプリントを広げて、勉強をしていた。
「ただいま──課題か?」
「あ、お帰りなさい──そうなんです、明日の朝が期限なの忘れてて……、申し訳ないんですが、あとちょっとだけ時間ください。すぐ終わらせますんで!」
と渉はせっせとプリントを埋めていく。
頼之は鞄をソファーに置いて、ネクタイを緩めながら渉の前の椅子に座った。
かれこれ長い期間家事の手伝いをしに来てもらっているが、こうして渉が学生をやっている姿は見たことがなかったので、頼之は改めて渉が学生なのだと実感する。
「……何ですか? 何か付いてます? そんなに見られてると落ち着かないんですけど……」
見つめすぎていたのか、渉は少し戸惑った顔をして言った。
頼之は「悪い」と謝って続ける。
「いや、こうやってテンシが本業をやっているのを見たことがなかったから、ついな」
「ええ? ……まぁ、確かに言われてみればここで課題とかやったことなかったですね。あ、もちろん家でちゃんとやってますよ」
「ご心配なく!」と渉は胸を叩いて見せた。
それからまたせっせとプリントを埋めていく渉を見ながら、頼之は微笑む。
「いいな、こういうの」
「……何がですか?」
「いつもは家事ばっかりだから、こういう、渉が自分の事をやってるのを見るの。普段のテンシが見られる」
「そうですか……?」
「あぁ──。やっぱりバイトをするテンシも見たいな。営業スマイルっていうのか? それも見てみたい」
楽しげに言う頼之に、渉は「やめてください」と焦る。
「いや、ほんとやめてくださいね、営業スマイルとか引き攣ってるし、見せられたもんじゃない!」
と渉は顔を両手で覆う。
頼之は「はは」と笑って続けた。
「そこを含めて、普段のテンシが見たいんだよ」
「ええ……」
すでに引き攣り笑いをする渉を見ながら、ほんとにそんな顔をしているのか余計気になる頼之だった。
「……ん、そうだ。明日からはまた自宅で仕事をするようになった」
「そうなんですか」
「あぁ。研修も落ち着いたからな」
と頼之は安心するように笑う。
「肩の荷がおりたよ」
「お疲れ様です──ということは、サンタさんは明日から家に居るってことですよね?」
と渉は記入が終わったプリントを片しながら訊いた。
「そうだな。でも仕事部屋に入りっぱなしだから、居ても居なくても変わらないだろ」
頼之が苦笑いして言うと、変わりますよと渉は力説する。
「仕事部屋から出て来たら、サンタさん俺がやったことに気付いて褒めてくれるし、居てくれた方が俺は嬉しいです。だから、ここ何日かはサンタさん居なくてちょっと寂しいなとか思っ……たり──」
勢いよく言ってから、頼之がニヤけを堪えながら見ていたことに気付いて、渉はハッとしてから徐々に赤くなった。
「いや……その、何て言うか、こう……頑張った結果を見てくれる人が居るか居ないかで、気持ちが違うというか……!」
あわあわと両手を動かしながら言う渉が可笑しくて、頼之は「わかったわかった」と渉の頭に手を伸ばす。
「よくやってるよ、ありがとう」
そう言って頼之が頭を撫でてくるので、渉はぐっと言葉に詰まって少し俯いた。
「ど……どういたしまして……」
「これからも頼むよ──じゃ、着替えてくる」
と頼之は席を立って寝室に向かっていった。
渉は少しドキドキしつつ、いい加減慣れろ俺……!とテーブルに突っ伏すのだった──
渉「明日からはサンタさん居るのか…(そわそわ)」




