接触
お久しぶりです。
渉、行博と初対面。
三田頼之と天使渉が一緒に買い物に行く当日。
渉は頼之のマンションの駐輪場に自転車を置いて、駐車場の頼之の車に近づいていくと、頼之はもう車に乗っていた。
「今五分前なんですけど、サンタさんいつからいたんですか?」
と渉が少し焦りながら訊くと、頼之は助手席に座れと合図しながら答える。
「十分前だな──社会人になったら当たり前だ」
「すいません……。待ちましたよね、寒くなかったですか?」
謝りながら助手席に座ると、頼之は気にするなと微笑んだ。
「寒くないよ。それより、テンシの方が自転車で寒かっただろ? 車内は寒くないか?」
「あ、はい、ちょうどいいです」
と渉はシートベルトをしながら答える。
「そうか、なら良かった。じゃ、行くぞ」
「はい──」
頼之の優しさに嬉しく思いながら、渉は頷いた。
*
車で走ること約四十分。
二人は目的地である『pea』に着いた。四階建てで、周りには【開店セール最終日!!】という旗が等間隔に立てられている。
「……結構人がいますね」
「あぁ。今日は開店セール最終日らしいからな」
駐車場に車を停めて頼之が言い、二人は車から降りる。
「あぁ……」
人がいっぱい……、と渉は店に入っていく人を見ながら、あの中に入って行くのか……と少し億劫に感じる。
「ん? あ──」
仲原さんだ、と渉は人と人との間に、仲原ゆずほを見つけた。
その後を、ゆずほよりも年上であろう男性がゆずほに手招かれ、笑ってついていく。
「三田さん、あそこ」
「ん?」
頼之が視線を向けた時には、もう二人は店の中に消えてしまっていた。
「仲原さんがいました」
「あ。そういえば新巻が言ってたな。友達と行くらしいって」
「へぇ……」
彼氏さんか……と渉は納得する。
彼氏はいないと前に言っていたが、今までの間に出来たのだろう。
「渉、行こう」
「ぁ、はい──」
車に鍵を掛けて歩き出した頼之に呼ばれ、渉は少し急ぎ足で頼之の隣に向かった。
*
お店は四階建てで、一階が特産品やお土産を買う所になっており、二階はアクセサリーや洋服、ファッション関係で、三階は家具やおもちゃ、雑貨、四階がレストランやお食事所となっている。
頼之と渉は、一階でそれぞれバレンタインのお返しを選んでいた。
「渉、これなんかどうだ?」
「あ、良いですね。女の子が喜びそうです──」
頼之が見せたのは、片手サイズの箱で、中に色々な味の飴が詰め込まれている物だった。
シンプルだが、白の紙で舗装されており、青いリボンが可愛らしく結ばれている。
「じゃあ、俺これにしようかな──三田さんは決まりましたか?」
「んー、もうちょっと見てから決める」
「そうですか、じゃあ先会計してきますね」
「あぁ──」
頼之が頷いたのを確認し、渉は会計をしにレジに向かった。
頼之は渉が行ったのを確認してから、渉へのお返しを選び始める。
バレンタインに貰ったので、そのお返しだ。
「……ふむ。どういうのが好みなのか聞いておけばよかったな」
そう呟いて、頼之はとりあえず近くの店員に声を掛けるのだった。
*
その頃、ゆずほは篤実行博を連れて、化粧品コーナーに来ていた。
「篤実さん! これなんかどうですか?」
「うん……、ちょっと派手じゃないか?」
ゆずほが差し出したのは、真っ赤な口紅だった。
「そうですか? 全然まだいけると思いますけど……。あ、じゃあこっちはどうです?」
と今度は桜色の淡い口紅を差し出す。
行博はそれを受け取って笑った。
「うん、これならいい。綺麗だ──妻も喜ぶよ」
「やった! じゃあ、今度は私の買い物に付き合ってくださいね」
「はは、わかったよ──」
と目をキラキラさせてどれを買おうかときょろきょろ辺りを見回すゆずほを見て、長くなりそうだと行博は苦笑いになる。
もちろんそんなことに気づいていないゆずほは、楽しげに笑って化粧品を手にして見るのだった。
*
渉が会計を済ませて、頼之も女性社員へのお返しを買い、渉へのお返しも気づかれずに会計を終えた後、二人は店内を歩いていた。
「渉、昼食べていくか?」
「あー、そうですね。でもその前に、雑貨見てもいいですか? 赤いボールペンのインクが切れちゃったんで、ちょっと買いたいんですよね」
「そしたら、それを買ったらお昼にしよう」
「はい──」
二人はちょうど開いたエレベーターに乗り込み、三階のボタンを押した。
ガタンと音がして、エレベーターが上がり始める。すると二階で止まって、扉が開いた。
「あら」
「お」
頼之にとっては聞き覚えのある声とともに、見覚えのある顔が二つ、開いたドアの向こうに現れた。
「なんだ、三田もいたの? それに天使くんも!」
とゆずほが大きな紙袋を、両手でしっかり持って入ってくる。
反射的に渉は頼之の後ろに行き、横にスペースを作った。
「こんにちは、三田くん。偶然だね──」
と行博も微笑んで入ってくる。
必然的にゆずほの前、頼之の横になり、二人並ぶ形になった。
チラリと渉見て、ほう、と行博が呟く。
「……どうも」
と頼之は少し渉を庇うように挨拶をする。
渉は頼之の横顔が一瞬曇ったのを見て、少し首を傾げたが、とりあえず何階かをゆずほに訊いた。
「仲原さん、何階ですか?」
「あ、もう押されてるっぽいから大丈夫──すいません篤実さん、紙袋当たっちゃって……」
「ん、大丈夫だ」
謝るゆずほの言葉の中に、何か聞いたことある名前だな……と渉は少し考えながら、閉じるボタンを押す。
それから前に、頼之が苦手な上司だと言っていたのを思い出し、渉は頼之の後ろからそっと行博を見た。
すると行博はそれに気づいて、にこりと微笑む。
ちょうど行博が微笑むのと同時に、エレベーターは三階に着いた。
「……天使くんたちは、何しに来てたの?」
エレベーターを降りてから、ゆずほが渉に訊く。
渉は笑って、バレンタインのお返しを買いに来てました、と答えた。
「そうだったのね、私も篤実さんと来てたんだ」
「これから文房具を買う予定なんだよ」
と行博も会話に加わる。
すると頼之の目つきが若干悪くなり、ムッとした顔に変わった。
そんな頼之に気づかず、じゃあ一緒だ、と渉が言う。
「俺たちもこれから行くんですよ」
「え、そうなの? 奇遇じゃない! 一緒に行かない? ……三田の会社での噂とか、聞かせてあげるわよ」
とゆずほがこそっと渉に耳打ちする。
渉は興味があったので、大きく頷いて笑った。
「はい、聞きたいです!」
「ふふ。でしょ? 篤実さんも、いいですか?」
ゆずほが行博に確認すると、行博はもちろんと笑って頷く。
そして不機嫌そうな……、というか不機嫌な頼之を見て、行博は訊く。
「でも……、三田くんはどうかな?」
行博に訊かれ、本当はすぐにでも離れたいが、渉がなにやらゆずほと楽しげにしているので、渋々頷いて口を開いた。
「……はい、大丈夫です」
そう答えた頼之を見て、悪いけど、試させてもらうよ、と行博は小さく微笑むのだった──
頼之「……(嫌な予感がする)」




