楽しみ
明けましておめでとうございます。
お久しぶりです、遅くなりました……。
「何か、良いことでもあんの?」
「え?」
講義終了後、隣で次の講義の準備を始めた天使渉に、新巻巧は声を掛けた。
渉は少しどきっとして首を傾げる。
「なんで……?」
「いや、何かこれから良いことが起こりそうな顔してるから」
「あー……はは、バレた?」
渉はぽりぽりと頬を人差し指で掻いてから、嬉しそうな顔で言った。
「明日さ、三田さんとちょっと買い物行くんだ」
「あ〜。なるほどね〜、だから顔が緩んでんのかぁ──」
と巧はニヤついて、渉の腕をツンツンとつつく。
つい先日、渉は家事の手伝いに行っている三田 頼之と、一緒にバレンタインのお返しを買うのと、買い物をするという約束をした。その日が明日なのだ。
「いいだろ、べつに……。てかそんな緩んでるわけないだろ」
と渉は顔を引き締めるように、両手で頬を上に押し上げる。
「どうだかー?」
と探るように巧は言って、ま、楽しめよ、と渉の肩を叩いた。
*
「……ふぅ、あと少しだ──」
頼之は久しぶりに出社して、作業をしていた。
普段は家で仕事をしているのだが、今回は明日の分まできっちり終わらせるために来ていた。
「頼之じゃん、珍しい」
「ん、あぁ──明日渉と買い物でな。明日の分も終わらせようと思って」
「ならべつに家でもよくね?」
と巧の兄であり、頼之の友人の新巻 慎が横に来て言う。
頼之は、それじゃだめなんだ、と首を振った。
「全部家でやってたら、気使わせるだろ。『仕事、忙しいですよね……? なんなら明日、無理に行かなくていいですよ、俺なら大丈夫なんで』とか言いそうだ──」
と掛けていた紺のフレーム眼鏡を取り、頼之は目を擦る。
普段頼之は眼鏡を掛けないが、細かい作業をする時などに着用する。
「あー……ありえる」
と慎も腕を組んで頷いた。
「だから、ここでやってるんだ。あと少しで終わる」
「ヒュー! 頼之カッコいい! で、明日はどこまで?」
外した眼鏡を掛け直してから、頼之は少し楽しげに言った。
「新しく出来た店──『Pea』だ」
「へぇ……。ん? 確か、仲原も明日行くって言ってたな。誰か誘って」
「そうなのか?」
「あぁ──。ま……、関係に気づかれないよう、気をつけるこった」
ニシシと歯を見せて笑う慎に、そんなへまするわけないだろ、と自信満々に返す頼之だった。
頼之たちが話していた頃、仲原 ゆずほは自分の席で、一人ショックを受けていた。
仲の良い友人たちに、明日新しく出来たお店に行こうと誘ったら、スケジュールが合わずに断られたからだ。
普段なら一人くらい必ず空いているのだが、明日に限って誰も空いていなかった。
「あぁ……、明日が開店セール最終日なのに……、可愛い洋服とか化粧品とか色々買う予定だったのに……!」
一人うなだれていると、上司の篤実行博が通りかかった。
「仲原さん? どうかしましたか」
「ぇ? あ、篤実さん、すいません……ちょっと個人的にブルーな事がありまして……」
ゆずほが少し悲しげに見えたので、行博は優しく微笑んで言った。
「話ぐらいなら、聞こうか」
「……じゃあ──」
おずおずと行博を見て、頷いたのを確認してから、ゆずほは話し出した。
行博は静かに相槌を打って、話を聞いていた。
そして話を聞き終えてから、行博は言う。
「……で、仲原さんは明日一緒に行ってくれる人が見つからなくて、落ち込んでいるわけだ」
「そうなんです、誰も空いてないんです……!」
うるうると潤んだ瞳で言うので、行博は「じゃあ……」と提案する。
「私でよければ付き合おう。妻にも、バレンタインのお返しを買わなきゃいけないんだ──どうかな」
「いいんですか?! てか奥さんいたんですね!」
「ああ──じゃあ明日、プレゼント選び手伝ってくれよ?」
「はい! 絶対喜ぶの選びますからね!」
と嬉しそうに言うゆずほに、機嫌が良くなったようだ、と思いながら行博は頷いた。
*
「……ただいま」
夕方。頼之は完璧に明日の分の仕事を終わらせて、帰ってきた。
「お帰りなさい」
部屋に入ると、渉がちょうどキッチンで夕飯を作っていた。
「お、いい匂いがするな」
「でしょう。今日は完璧ですよ──コートはハンガー!」
フライパンを器用に扱いながら、コートをソファーに置こうとしていた頼之に注意する。
頼之は、はいはい、と言ってハンガーに掛けてしまいにいった。
「何回言わせるんだよっ……と。よし、完成──」
「テンシ、今日の夕飯は?」
コートを片してきた頼之が、腕捲りをしながら渉に訊く。
「野菜炒めです。それに湯豆腐と味噌汁。もう食べますか?」
「いや、まだいい──それより、明日のことについて確認しておこう」
と頼之は言って、テーブルのイスに座って、渉にも座るよう言った。
向かい合って座り、頼之が口を開く。
「明日は朝九時に、俺の車の前に集合。前に乗ったからわかるよな?」
「はい。大丈夫です」
「明日、講義とかないか?」
「はい。ないです」
「何か約束とか、大事なこととか」
「ないですよ、サンタさんと約束してるんですから」
そう言われて、そうか、と頼之は苦笑いした。
「途中で用事を思い出したとか言われたら、困るからな」
「大丈夫ですって、明日楽しみにしてるんですから」
と笑った渉を見て、頼之もふっと笑って言う。
「俺も、楽しみだよ」
そう言われて、今度は照れたように渉は笑うのだった──
頼之「寝坊するなよ?」
渉「しませんよ!」
これから不定期更新です(^^;)




