本番
バレンタイン。
※後半キスシーンあり。
大学の講義室で、天使渉は新巻巧に訊かれていた。
「テンシ、チョコ貰ったか?」
「……誰に」
「女子とか三田さん?」
「……女子からは貰った」
あまり元気のない渉を見て、巧は不思議そうな顔をして訊く。
「何かあったのか?」
「うーん、そうっぽい……」
三田頼之に、この前、仲原ゆずほと歩いていたのを見られていて、勘違いされたようなのだ。
実際は、クッキー作りの後に友梨香を送った後で、二人で居たわけではない──。
「うーん……」
「ま、今日会うんだろ? お前のことだろうから、何か渡すんだろうし。その時はっきり言えばいいんじゃないのか」
「だよなぁ、それしかないよな……」
「それで、最後は本当ですっていう証拠に、愛のキスを……」
と巧が目をつむって手を組み、唇を尖らせるので、渉はプッと噴き出して笑った。
*
「頼之ぃ、聞いてくれよ」
「……何だ」
新巻 慎は頼之のマンションに来て、テーブルのイスに座って向かい合っていた。
頼之はあまり機嫌がよくなく、軽く眉間にシワが寄っている。
「……なんか、お前の方が深刻っぽいから、話聞いてやる」
「は……?」
「シワ、寄ってる」
と慎が自分の眉間を指差し、頼之に伝える。
頼之は眉間に手をやり、それから、はぁ……、と息を吐いた。
「天使くんか?」
「あぁ……。こないだ、仲原と二人で楽しそうに話してたのを見かけた」
「仲原と?」
「そうだ──もしかしたら渉は……」
仲原が好きなんじゃないか──という言葉は、呑み込んだ。
それを口にしたら、本当になってしまう気がしたのだ。
「お前は、天使くんのこと好きなんじゃないのか」
「…………」
「好きで付き合ったんだろ」
「渉は……、理由を話してくれなかった。もう少し後になったらとか何とか、はぐらかそうと……」
「お前さ」
いつになく否定的な頼之に、慎は言う。
「信じてないの?」
「そういうわけじゃ──」
「なら、待っててやればいいだろ。何不安定になってんだよ。俺と友梨香なんて、些細なことなら言葉ぶつけ合って解決するぞ? お前は不安なこととかあると、すぐ逃げようとするのな」
慎の言葉に、頼之は反論しようとして出来なかった。本当のことだった。
不安になると、追及しようとしなくなる。諦めてしまうのだ。
自分に非があったのだと。なら、それ以上踏み込むことはないと──。
そして今回も、渉に踏み込むことはせず、頼之は諦めた。
「…………」
「しっかり聞いてやれよ。天使くんにだって、理由はあるだろ? 大丈夫だ──もし天使くんが実は仲原が好きなんだとか言ったら、俺が慰めてやるから」
「……それは嫌だな」
と頼之は苦笑いして言った。
「もしそうだとしたら……、奪い返す」
「ひゅー、頼之男前!」
「バカか──。……コーヒー飲むか?」
「おお。飲む──」
頼之は少し心が軽くなった気がした。
「ありがとな……」
「ん? おお──」
頼之は苦笑いして、コーヒーを淹れにキッチンに向かった。
*
講義終了後。渉は一旦家に帰り、作っておいた生チョコを丁寧にラッピングしてリュックにしまう。
それからよし、と言って家を出た。
渉は自転車に乗り、ふと胸が高鳴っていることに気づき、一人呟く。
「なんか……俺女子化してきてる?」
そして深呼吸してから、気を引き締めた。
*
「……あ、どうも」
「あぁ──」
渉が頼之の部屋に入ると、ちょうどテーブルのイスに座っていた。
渉はリュックを下ろし、そっと向かい合うようにイスに座る。
「あの、ですね……」
それから、渉はこの間言えなかった話をしようと口を開いた。
「仲原さんと一緒に居たのは、友梨香さんを送った後で……って、これじゃわからないですよね──」
と渉は苦笑いして、頭を掻く。
「……えっと、友梨香さんに頼まれて、仲原さんと俺の三人で、今日に向けてクッキー作りの手伝いをしてて……。それで、あの時は一緒に居ました」
「三日ともか……?」
「はい……。友梨香さんが新巻さんに内緒にしときたくて、サンタさんにも内緒って言われて、言えませんでした。すいません──」
と渉は頭を下げる。
頼之は勘違いしていたことが恥ずかしくて、俯いた。
「……それでですね、ちょっとやりすぎかなぁ、と思うんですけど──」
と渉はリュックからラッピングした箱を取り出し、そっとテーブルに置いて差し出す。
「……ハッピー、バレンタイン」
頼之はそっと顔を上げて、渉に訊いた。
「今日って……、バレンタインか?」
「そうですよ──」
改めて言わせないでくださいよ、恥ずかしい──と渉は少し顔を赤くした。
頼之は丁寧にラッピングされた箱を受け取り、今日か……と呟く。
あまり意識していなかったのもあるが、渉のことで頭がいっぱいで忘れていた。
「……あ、サンタさん──友梨香さん成功したみたいです」
とスマホの画面を見せて、渉は笑う。
『件名:成功!
本文:ありがとう。成功しました!(*´▽`*)』
それから渉はスマホを置いて、良かった、と呟いた。
「渉……」
「はい」
「ありがとう」
と頼之は微笑む。
渉は嬉しそうに笑って、はい!と頷いた。
「……こっち──」
頼之は立ち上がり、渉を呼ぶ。
若干両手を開いて、渉を待っているように見えなくもない。
渉は少しぎくしゃくしながら、頼之の前に立った。
それから頼之は、ぎゅっと渉を抱き込んだ。
「……久しぶりだ」
最近抱きしめたりしていなかった。
渉も久しぶりに抱きしめられ、安心する。
「温かい……」
「渉、顔上げろ」
言われるままに、渉は顔を上げた。
そのまま、唇を触れ合わせる。久しぶりのキスは、いつも以上に優しく、柔らかく、何となく甘い気がした──。
「……一日一回は、抱きしめ合うことにするか」
離れてから、頼之が思いついたように言う。
渉は驚いた顔をして、反対した。
「いや、いいですよ……」
「何でだ?」
「それは……」
恥ずかしいじゃないか、と渉は口ごもる。
「……それじゃあ、一日一回キスを──」
「それこそいいですよ!」
と渉は赤くなって否定した。
じゃあ、何ならいいんだ?と頼之は思いながら、首を傾げるのだった──
チョコを食べながら。
頼之「……ん、手作りか」
渉「はい……。どうですか?」
頼之「うまいよ、幸せだ(微笑)」
渉「そう……ですか──(照)」
諸事情により、更新をお休みします。
今年の秋か冬辺りからまた更新始めるので、その時にまたお付き合いくださると嬉しいです(^^)
それでは、その時までお元気で──




