内緒
ゆずほと友梨香が初対面。
※後半、キスシーン有り。
天使渉は、友人の新巻巧に頭を下げられていた。
「頼むっ! 友梨香さんに力を貸してやってくれ」
「ちょ、やめろよ。周りに人居るんだから──」
大学の食堂で、渉と巧はお昼をとっていた。
すると巧が、そろそろバレンタインだなと話してきて、渉は何かあるのかと訊いたら、巧は急に頭を下げて言ったのだった。
「何かさ、兄貴に手作りであげたいらしいんだけど、去年失敗して『来年期待しとく』って兄貴に言われたらしくて……」
「それで?」
「で、友梨香さんから電話来て『天使くんって、料理上手いのよね? ちょっと手伝ってもらえないか聞いてくれる?』って言われて……」
「で、まだ俺返事してないのに『大丈夫ですよ』とか言ったわけだ?」
と渉は若干口元をひくつかせて言う。
渉が三田頼之の所に行き、家事を手伝うようになったのも巧の勝手な返事からだった。
巧は両手を合わせて、この通り、と渉を拝む。
「……まあ、友梨香さんとは面識あるし。いいよ」
「ほんとか! ありがとうテンシ!」
「おう。で、場所とか日程は?」
「いや、それは二人で決めてくれ。連絡先教えるから──」
と巧はスマホを取り出して、渉に送る。
「じゃ、よろしくな!」
「はいはい──」
渉もスマホを出し、友梨香のアドレスと番号を登録した。
*
頼之の所に行くと、なんと友梨香がいた。
「あ、天使くん──」
と友梨香がテーブルのイスに座ったまま、ふわりと手を振る。
渉は驚きながら訊いた。
「どうしたんですか? 新巻さんと喧嘩でもしたんですか?」
「違う違う。ちょっと天使くんに用があってね──でも天使くんの家知らなかったから、ここかなぁと思って」
と友梨香は笑う。
渉はなるほど、と頷いて室内を見渡して訊いた。
「あの、三田さんは?」
「なんかね、忘れ物したとか何とかで、会社に戻ったみたい」
「そうなんですか──」
と渉はリュックを下ろしながら、友梨香と向き合うように座った。
「あ、巧から聞きましたよ。バレンタインのこと」
「聞いてくれた? よかったぁ。天使くん料理上手いって聞いたから、ちょっと力を貸してもらおうかと思って」
と友梨香は微笑む。
渉は和むなぁと思いながら、言った。
「いいですよ。出来るだけ力を貸します」
「ありがとう──」
と友梨香がほんわかと笑った時、インターホンが鳴った。
渉はちょっと見てきますね、と席を立ってインターホンを確認する。
そこには、仲原ゆずほが立っていた。
渉は玄関に向かい、急いでドアを開ける。
「あ、天使くん久しぶり〜。中入るね──」
とゆずほは部屋にずかずかと入っていく。
渉はちょっと──とゆずほの後を追った。
「あら? あ、三田の彼女さん?」
「あ、違います。新巻の妻です──」
と友梨香が答える。
ゆずほは、ええっ?!と驚いて友梨香を見た。
「新巻の奥さん?! はじめまして、仲原ゆずほです」
「へえ、仲原さんですか。慎から聞いてます。お世話になっております──」
と友梨香は立ち上がって頭を下げる。
ゆずほも頭を下げて、二人は笑い合った。
女性同士だからなのか、その後なんで頼之の家に居るのかというゆずほの問いに、友梨香はほんわかと受け答えをしていた。
その間、渉は飲み物を三つ用意して、テーブルに運ぶ。
「……で、友梨香さんが天使くんに」
「そうなんです──ゆずほさんは作るんですか?」
もう二人は下の名前で呼び合う仲になっていて、渉は少し驚いた。
とりあえず、話さないと進まないので、渉も会話に加わる。
「あの、お話中悪いんですけど、何作るか決まってるんですか?」
すると友梨香は、そう、それなんだけどね──と手を叩いて言った。
「今回は初心に戻って、クッキーにしようと思うの。普通のとココア」
「クッキーですか。それなら俺も大丈夫です」
「じゃあクッキーに決まり。でも……」
と友梨香が表情を曇らせる。
「慎に練習してるのバレたら嫌なのよねぇ……」
「それはそうよ! わかった。じゃあ、私のウチ使わせてあげる!」
とゆずほが胸を叩く。
すると友梨香は目をうるうるさせて、手を組んでゆずほを見た。
「ありがとうございます! ゆずほさん……!」
「いいのいいの──もちろんシークレットよね?」
「はい! お願いします!」
渉は二人を見て、やっぱり女子だなぁと思う。
すると、二人が渉に顔を向けて言った。
「もちろん、天使くんも三田くんには内緒ね?」
「それで、私のウチに来て、友梨香さんのお手伝いするのよ!」
「わ、わかりました──」
渉は若干ゆずほの気迫に圧されながらも頷いた。
それから、渉はゆずほとアドレスと番号を交換した。
「じゃ、よろしくね」
「はい」
「じゃ、私も行こ──そうそう、三田に連絡ね。篤実さんから。『近い内に話をしよう』って言ってたって」
「わかりました──」
玄関で二人を見送り、渉は部屋に戻った。
それから紙にゆずほに言われたことをメモする。
「よし……これで大丈夫──てか、篤実さんって誰だろ。上司かな? 仲原さん呼び捨てにしてなかったし」
と渉は考える。
少しして、ま、いっか──と渉はコップを片し始めた。
*
「ただいま」
「お帰りなさい──仲原さんから、伝言預かりました」
と渉はスーツを脱いだ頼之にメモを渡す。
頼之は目を通してから、少しムッとした表情になった。
「どうかしました……?」
「いや、ちょっと苦手な上司でな」
「そうなんですか……」
「あぁ──それより、いつ仲原と会ったんだ?」
頼之に訊かれ、渉はドキリとする。
内緒だと言われた以上、ここで失敗する訳にはいかない。
「こ、コンビニに行ったら、ちょうど会いまして……」
「そうなのか。コンビニに行く暇があるなら、今日のノルマをやれってことだ──」
頼之は、はぁ、と息を吐くと、ネクタイを外した。
「はは──お疲れですか?」
と渉が訊くと、頼之は、あぁ、と言って渉を引き寄せる。それからそっと抱きしめた。
「疲れた……」
「お、お風呂沸かしましょうか……?」
抱きしめられて、渉はドキドキしながら訊く。
頼之は、んー、と曖昧な声を出して言った。
「いや……あとちょっとこうしてれば、疲れはとれる」
「そ、うですか……」
渉は恥ずかしく思いながらも、頼之の背中に手を回し、そっと抱きしめる。
「と、取れました?」
「あぁ……。でも、離れたくなくなったな──」
と頼之は苦笑いして渉を見ると、スッと顔に手を添えて唇を重ねた。
「……お、お風呂、沸かします!」
唇が離れてから、渉は早口で言ってお風呂場に向かっていった。
頼之は、少し顔を赤くして離れていった渉を見て、ふっと微笑むのだった──
友梨香「頑張りますよ!」
ゆずほ「頑張ってください!」
渉(さすが女子……)




