買い物
頼之、運転する。
※後半キスシーン有り。
ある晴れた休日。天使渉は、いつものように三田頼之のマンションに来て、掃除に洗濯、食器洗いを終わらせたところだった──。
そして冷蔵庫を開けて、渉はあちゃー……と眉間にシワを寄せた。
冷蔵庫の中には、卵二つに豆腐一丁、作り置きの麦茶、牛乳しか入っていない。あとは要冷蔵の調味料。
いくら渉が料理が出来ると言っても、これではさすがに限界がある。
「……買い物行かないとか──」
いつもは頼之が補充しているので、渉はそれを調理するだけだった。
パタンと冷蔵庫を閉め、渉は頼之のもとに向かう。
仕事部屋の前に行き、ノックしてから失礼します、と中に入った。
「ん……、どうした?」
「あの、冷蔵庫の中、空に近いですよ。あれじゃあお昼に夜、明日の朝ご飯作れません」
「あぁ……、最近買い物してなかったからな──」
と頼之は仕事の時にする紺のフレーム眼鏡を外して、目をこする。
「買い出し、行ってきましょうか」
「……いや、それは悪い」
「でも、サンタさん仕事が」
「今終わった──そうだ、一緒に行くか」
と頼之がポンッと手を叩く。
「テンシとどこかに行くことなんて、今までになかったしな」
「あぁ、そうですね」
言われてみれば……と渉は頷く。
頼之は、じゃあ決まりだな──と微笑んだ。
*
頼之の運転で、スーパーにやってきた──。
渉がカゴを持ち、野菜や肉、魚を入れていく。
「渉──」
「何ですか?」
呼ばれて頼之を見ると、頼之は唇に人差し指を当てて、シーッと渉を見ていた。
渉は首を傾げて、手招きをする頼之の所に向かう。
渉が来ると、頼之はあそこと指差した。
指差した方向には、新巻慎と、その妻の友梨香がいた。
揚げ物のコーナーで、どれにする? というようなやり取りをしている。
「俺、初めて二人一緒なの見ました。仲良いんですね」
と渉が言うと、あぁ──と頼之は微笑んで頷いた。
*
「いっぱい買いましたね」
「そうだな──」
駐車場に着いて、頼之は後部座席に買った物を置いていく。
渉も袋を渡し終えてから、どうしよう、と思う。
行きは荷物がなかったので後部座席に座っていたのだが、今は荷物があるので座れない。
頼之は運転席に座って、シートベルトをしていた。
それからなかなか渉が乗ろうとしないので、頼之は助手席の窓を開け、運転席から訊く。
「……そんなに、俺の隣は嫌か?」
「え……?」
「行き、隣空いてるのに後ろに座ったから……。嫌なら、荷物前に移動させて座れ」
と頼之は苦笑いする。
渉はハッとしてから、両手を振って否定した。
「違います違います。その、いまだにサンタさんの隣はドキドキするというか……顔赤くなったりするし、それを知られるのも恥ずかしいっていうか──」
と段々声が小さくなっていく。
頼之はそうか、と微笑んだ。
「それなら、俺は嬉しいよ」
「っ……だからそれが……っもういいです──!」
と渉は助手席に座ってシートベルトをする。
頼之は少し赤くなった渉を見て笑った。
「渉」
「なんですか」
チュッと顔を向けた渉の額に口づけて、頼之は言った。
「好きだ」
「っ……、外ですよ……!」
「誰もいない。それに車内だ」
と頼之は鍵を差し込んでエンジンをかける。
そういうのが嫌なんですよ……! 嫌じゃないけど……と渉は顔を覆って俯く。
「次は、買い物じゃなくてどっか行きたいな」
「…………」
「テンシ?」
「……そう、ですね──」
渉はドキドキしなくなるまで顔を覆っていた。
そんな渉を見て、可愛いな……と思いながら頼之は微笑んだ──
頼之のマンションに向かう途中。
頼之「まだ顔上げられないのか?」
渉「……サンタさんのせいですよ!(顔を覆ったまま)」




