アルバム
頼之の元彼女の名前が明らかに。
大晦日を明日に控え、天使渉は三田頼之宅で大掃除を行っていた。
「……テンシ、休まないか?」
「ダメです。休んだらもう動く気なくしますよ──」
と水回りを掃除する渉が、頼之に言う。
「テンシは自分の家はやったのか?」
「はい、昨日のうちにやりました──よし」
と水を流して手を洗い、タオルで拭く。
頼之の方を見ると、頼之はソファーに座っていた。
「あ。サンタさん休んでる! ちゃんとやってくださいよ。今日中に終わりませんよ?」
「……はぁ。やっと今年の仕事が終わったと思ったら、大掃除──休ませてくれ」
と頼之はソファーに深く寄りかかる。
頼之は今さっき仕事を終えたばかりなのだ。
それで休もうと仕事部屋から出て来たら、渉が掃除をしていたので驚いた。
「……じゃあ、少しだけですよ? 休み終わったら、ちゃんと寝室掃除してください──」
お風呂場にトイレ、リビング、キッチン、俺がやったんですからね。とぶつぶつ言いながら、渉はリビングを出て行く。
「テンシ?」
少し大きな声で呼びかけると、ドアの向こう側から、玄関の掃除です! と返ってきた。
頼之は、そうか……と呟き、ソファーから立ち上がった。
「……やるか──」
渉と付き合う前は、家政婦を雇ってやってもらっていたので、頼之は久しぶりだなと思いながら、寝室に向かった。
寝室はリビングと直結しているので、横引きの扉を開けるとすぐだ。
「…………やることないだろ」
と頼之は寝室に入って呟く。
ベッドは綺麗で、クローゼットの中は渉がいつも整理しているため、整える必要もない。
「……コーヒーでも淹れて、テンシを待つか──」
頼之は寝室を後にして、キッチンに向かった。
*
玄関掃除を終わらせた渉は、トイレの横にある、ドアを開けていた。
そこには、救急セットや避難袋、箒やちりとり、掃除機が収納されている。
「ここは……いっか。綺麗だし、避難袋の中身はこの前見たしな──ん?」
ふと下に視線を落とすと、縦横四十センチ以上の箱が置いてあった。
蓋には『思い出』とマジックで書かれている。
「…………ちょっとだけ、ね──」
渉はしゃがんで、その箱を取り出すと、床に座り込む。
多分、サンタさんの過去の物が入っているに違いない。と渉は少しドキドキしながら、箱を開けた。
「……ぉ」
「何してるんだ?」
「うおあ?!」
いつの間に背後に来ていた頼之が、訝しげに渉を見下ろしていた。
渉は目を泳がせながら、蓋を閉じる。
「あの、ちょっと『思い出』っていうのが視界に入りまして……その……見たいなぁ、と……」
頼之は箱を見ると、懐かしいな。と言って、渉を見る。
「面白いかはわからないが、見たいなら見ればいい。ただし──」
「……ただし?」
「リビングでな──。冷えるぞ? それに、テンシの分のコーヒーがある」
と微笑む。
渉は笑って、はい! と返事をしてから、箱を持つ。
そして先を歩く頼之の後をついて行った。
リビングに移動して、渉は箱の中を見ていた。
箱の中身は、高校時代の物だった。
成績表やテスト、当時の気に入っていた物など、様々な物が詰まっている。
「中学とか、小学校時代のはないんですか?」
テーブルで向かい合って座りコーヒーを啜る頼之に訊くと、頼之はカップをテーブルに置いて言った。
「ないな。小学校中学校時代のは、実家にある。高校のは、引っ越してくる時に持ってきた──楽しかったからな」
と微笑む。
渉はそうですか、と頷いてから一番下にアルバムがあるのに気づいた。
「アルバム、見てもいいですか?」
「ん? あぁ──」
頼之の承諾を得て、渉はアルバムを広げた。
そこには、入学式の写真があった。
頼之であろう男子が、微笑んで写っていた。
「あは、サンタさん若い」
「若いって……高校生だからな」
と頼之は苦笑いしながら、コーヒーのお代わりを注ぎに席を立った。
渉はページを捲っていく。
最初は授業を受けている写真ばかりだったが、中盤になると新巻慎や、今は慎の妻である友梨香が写り始める。
「…………誰だろ」
捲っていくと、ある一枚に頼之と女子がツーショットで写っている写真があった。
渉はまじまじとその写真を見つめる。
頼之は微笑んでいるような、苦笑いのような顔をしていて、その隣には綺麗な顔立ちをしている女子がピースサインをして笑っていた。
「……ぁ」
彼女か──と渉は前に友梨香から聞いたのを思い出した。
結局は別れてしまったと友梨香から聞いていたが、頼之から理由は聞いていない。
渉も彼女がいたが、その話を頼之にしたこともない。
「……ん、三島か──」
コーヒーを淹れて戻ってきた頼之が、写真を見て言った。
「彼女さん、ですか?」
「そう。三島葵──性格……馬っていうのか? が合わなくてな。別れた」
「……その、詳しく聞いても、いいですか?」
と席に着いた頼之を見て、渉は訊く。
「あの……、俺、全然サンタさんのこと知らないんです。だから、もっと知りたいと思って……」
「それは俺も同じだ──渉の両親が共働きで、新巻の弟と友人で、家事が出来ることくらいしかしらない」
「……はい」
と渉は少し俯く。
頼之はふっと微笑むと、口を開いた。
「そんなの、お互い様だろ? それに、明日は一日中一緒にいるんだ。その時に質疑応答しよう」
と提案する。
渉は頼之を見て、小さく笑って頷いた。
「……それより、渉がそんなこと思ってたなんて、思いもしなかった」
「サンタさん……」
「ありがとう、渉──嬉しい」
と頼之は微笑んだ。
渉は今になってさっき言ったことを思い出し、赤くなる。
「い、いや、何となく思い出しただけですし……」
「そうか──」
それでも、嬉しいんだよ。と頼之はコーヒーを啜りながら思った──
頼之「明日、色々話そう」
渉「はい──」
次回、質疑応答──。




