何にしよう
遅くなりました(_ _)
プレゼント。
大学の講義室で、天使渉は友人の新巻巧に訊こうとした。
「あのさ」
「お前、クリスマス彼女と過ごすとか許さねえからな──クリスマスは彼女いない奴らと飲み明かすからな」
「は……? 無理無理──」
と渉は断ろうとする。
なぜなら渉は、毎日、三田頼之の所に家事をしにいくことになっているからだ。
でも巧は、関係ないというように言う。
「ははは。彼女には謝っておくんだな!」
「いや、三田さんのとこ」
「はあ? 大丈夫だろ、一日くらい。お願いしとけよ」
「ええ……」
渉は苦い顔になり、巧に言う。
「クリスマスじゃなくて、せめてイブに……」
「ならん! なるものかっ! 何のためにクリスマス集まると思ってんだよ」
「知らねえよ」
「クリぼっちを避けるために決まってんだろ!」
と巧が両手をわきわきと動かして続ける。
「カップルたちがキャッキャウフフしてるのを、俺たちは涙しながらやけ酒じゃあ!」
「やけ酒って……」
「お前はいいよな、彼女いるんだもんな! まあ、ラブラブさせねえけど!」
渉はそれを聞いて、これ以上何を言ってもだめだと思い、渋々頷いた。
「……わかったよ、クリスマス付き合うよ」
「よっしゃあ! よろしくな!」
巧はガッツポーズをしたあと、渉の肩をポンと叩いた。
これじゃあ、プレゼント何にしたらいいか訊けないよなぁ……と渉は苦笑いするのだった──
*
「この前はごめんね〜、助かったわ──」
と仲原ゆずほは、頼之が淹れたコーヒーを飲みながら言った。
ゆずほは、頼之に自分の仕事をしてもらったお礼と、治ったという報告をしに来ていた。
「おかげさまで体調治ったし──あ、そうそう、三田風邪引いたんだって? 大丈夫だった?」
「まあ、大丈夫だ。渉が看病しに来てくれたからな」
と頼之もコーヒーを飲んで答える。
「……渉? あ、前に来てすぐ帰っちゃった子?」
「……そうだな。天使渉」
「え? なに? どういう関係? 弟とか?」
とゆずほは身を乗り出して訊く。
頼之は少し引きながら言った。
「……家事をしに来てもらってるんだよ──」
「あ、そうなんだ。だからあの時部屋が綺麗か聞かれたんだ」
なるほどなるほど、とゆずほは席に座り直す。
頼之は、ふぅ、と息を吐いた。
「で、その天使くんって、彼女とかいるの?」
頼之はちらっとゆずほを見てから、カップに視線を戻した。
「……さぁ、どうだろうな」
「なんで。そういう話は聞かないの?」
「プライベートを詮索されたら嫌だろ」
「ええ? そんなの女子にとったら日常会話じゃない」
とゆずほはカップを手の中でころころさせる。
「女子じゃない。男子だ」
「つまんないの──あ、そういえばそろそろクリスマスよね。三田は何か予定とかあるの?」
とゆずほは目をキラキラさせて頼之を見る。
「ない」
頼之のその一言に、ゆずほはあからさまにつまらなそうな顔になる。
「なんだ〜、『彼女とデートがある』とかあるのかと思ったのに──彼女はいるでしょ?」
「……まぁ」
“彼女”ではないが……と頼之は渉を思い出す。
「じゃあじゃあ、プレゼント渡すの?」
「何かしらは渡したいんだが、何がいいと思う?」
と頼之は少し目を逸らしながら、ゆずほを見た。
ゆずほは、そうねぇ……と口元に手をあてがってから、思いついたように言った。
「婚約指輪は?! ステキじゃない?」
「…………」
確かに渡してみたいが……。それを渉にどう思われるかが問題だ……と頼之は思う。
「……他は?」
「他ぁ? 花束とか?」
「……他には」
「うーん……ワイン! バック、アクセサリー」
「それお前が欲しいのだろ──」
バレた? と頭を掻いて、ゆずほは笑った。
「……てか、仲原は相手居るのか?」
「それが、いないんだよねぇ……。やっぱり、仕事一筋だったし……って言わせないでよ! いいの。私は友だちとクリスマス過ごすから──」
とゆずほは、ふてくされたようにカップを口に運んだ。
「……あ、聞いてよ。前に新巻が、私たちに仕事頼んできた時あったじゃない?」
「ん? あぁ──」
と頼之は思い出す。
前に、新巻慎が仕事を頼んできた時があった。
そのお礼に、頼之はカステラを貰ったのだ。
「それで、お礼何貰った?」
「カステラ貰った」
テンシと食べたしな、と頼之は思い出す。
すると、ゆずほはテーブルを軽く叩いて言い始めた。
「カステラ?! いいわね! カステラ! 私なんて、靴下よ? なに、靴下って! 『最近夜冷えるから、履いて寝ろよ』だって……! 真っ黒の! せめて柄入りがよかった! 食べ物がよかったのにぃ〜っ」
とゆずほはテーブルに伏せる。
頼之はそんなゆずほを見ながら、慰めの言葉を口にする。
「まあまあ、お土産貰えただけでもいいと思えば……」
「カステラのくせに──」
「…………」
ぐすんとテーブルに伏せたままのゆずほに、子どもか……! とツッコみたくなったが、そこでツッコんでも悪化するだけだと頼之は思ったので、愚痴に付き合ってやるか──と、コーヒーを追加しに席を立つのだった……
*
頼之の所に行くと、ゆずほが目を輝かせて渉を見た。
「天使くんは、彼女いるの?!」
「え──」
リュックを背負ったまま、渉は固まる。
それから頼之に視線をやってから、口を開いた。
「こ、恋人なら……」
「なんだ、居るんじゃない! 三田聞いた?」
「あぁ──」
と頼之は渉を見やってから、カップを口に運んだ。
「で、で、天使くんの彼女ってどんな人なの?!」
渉はリュックを下ろして、マフラーを外しているところだった。
「ど、どんな……?」
と渉は頼之をちらっと見て、ゆずほに視線を戻す。
「そうそう! 三田も聞きたいでしょ?」
頼之は、いつもと変わらない口調で言った。
「そうだな──」
「ほらね、聞かせて聞かせて」
とゆずほはキラキラした目で渉を見つめる。
渉は細々と言い始める。
「えっと……、優しくて、温かい人です……細かい事やる時、眼鏡かけたりして……はい……」
「へえ! いいねいいね〜」
とゆずほは顔を両手で挟んでうっとりする。
渉は恥ずかしくて、頼之の方を見れない。
「あ。じゃあ、今度は三田に訊くわ! 彼女どんな人?」
ゆずほの言葉に反応して、渉は頼之を窺う。
頼之はふっと笑うと言った。
「家事が出来て、気遣いも出来て、俺の大切な人──」
「キャー、愛されてる〜! ごちそうさま!」
とゆずほは手を合わせて言った。
渉は恥ずかしくて、顔をぱたぱたと手で扇いでいる。
「……あれ? じゃあ、天使くんいらなくない?」
彼女家事出来るなら、天使くんに来てもらうことないよね? とゆずほは頼之を見る。
「……共働きで、お互い余裕がないんだよ」
と頼之は答える。
ゆずほは、そっか。と納得して笑った。
「仲原さんは……?」
とふいに渉が言った。
ゆずほは渉を見て手を振る。
「あはは、いないのよ。仕事が恋人、みたいな?」
「そうなんですか、キレイなのに」
「も〜、そんなこと言っても何も出ないわよ?」
とゆずほは、満更でもないというように笑った。
「……じゃ、そろそろお邪魔するわ。ステキな話、ありがとね──」
とゆずほは席を立つと、頼之と渉に手を振って出ていった。
「……じゃ、さっそくカップ片しますね──」
「テンシ、俺に彼女はいないからな」
頼之が、カップを持ってキッチンに入った渉に言った。
「はい……?」
「渉だけだ。付き合ってるのは」
「……。あぁ、気遣ってくれたんですよね──俺だって、付き合ってるのは」
サンタさんだけですよ、と言おうとしたが、頼之が微笑んで見ていたので渉は言うのをやめた。
「付き合ってるのは?」
「……今テーブルにいる人です……!」
「渉が付き合ってるのは?」
「っ…………サンタさん──」
と渉はカップを洗いながら、頼之に聞こえるか聞こえないかの声で言った。
恐る恐る頼之を見ると、頼之はソファーに移動していた。
「……なんだ」
「そうじゃないと困る」
と頼之は渉を見て微笑んだ。
「聞こえてる?!」
「ばっちり」
「じゃあ、さっきリアクションしてくださいよ──!」
と渉は顔が赤くなる。
頼之は、ははは、と声を出して笑った。
それから渉が、頼之にクリスマスのことを言うのを忘れたのに気づいたのは、家に帰ってからだった──
全員『明けましておめでとうございます。これからもよろしくお願いします』
次回、渉がクリスマスについて切り出すが──




