知ってた
慎に見られた渉は──
※後半、キスシーンあり。
コンビニの袋を持った新巻慎は、三田頼之と抱きしめられている天使渉を見て、なんだ。と口を開いた。
「お前治ってたのか──それも……、お楽しみの最中だったか〜、ごめんな。邪魔して」
と慎が手を顔の前に持ってきて、ちょいちょいと謝るしぐさをする。
それを見て渉は、頼之から逃れようとしながら言った。
「ちっ違いますからっ! 三田さんとはべつに──!」
と焦る渉に、しっかりと抱きしめたまま頼之が言う。
「新巻は知ってるから、そんな焦らなくて大丈夫だぞ?」
「へ……?」
と渉は動くのをやめて、慎を見る。
慎は、ウンウン。と頷いて言った。
「頼之が両性愛者なのと、頼之が天使くんと付き合ってるのは、知ってるぞ」
「……ぁ、そうなん、ですか……」
と渉は若干赤くなる。
まさか頼之が言っているとは思ってなかったので、渉は驚いた。
「で、なんだ? 勝手に入ってきて──」
と頼之は渉を離して訊く。
慎は、そうそう。と思い出したようにコンビニの袋をテーブルに置いて言った。
「いやさ。お前復活してなかったら、看病してやろうかと思って。色々買ってきたんだよ──鍵も開いてたし、もしかしたら戸締まり出来ないほど弱ってんのかと思ったから、勝手に入ったんだ。悪かったな」
と慎は袋からエナジードリンクを取り出して飲み始める。
「それ、俺にじゃないのか?」
「ん……? いや、お前元気そうだし、いらないかな、みたいな──」
と飲み干してゴミ箱に捨てる。
渉は黙って二人のやりとりを見ていた。
「お前な……」
「まあまあ、プリンは二つあるから、二人で食べろよ」
と笑って渉にコンビニの袋を差し出す。
渉は、はい……。とコンビニの袋を受け取り、冷蔵庫に向かった。
「あれ? お昼まだなのか」
「はい──。よかったら食べますか?」
「いいの?」
と慎は、食べる食べる! とテーブルのイスに座る。
頼之はそれが気に入らないのか、少しむすっとして慎を見た。
「帰らないのか?」
「食べたらな──」
と慎はにかっと頼之を見てから、渉が持ってきたチャーハンを見て、うまそー! いただきます──と食べ始める。
「…………」
「三田さんもどうぞ」
とまだむすっとしている頼之に、渉はチャーハンを持ってくる。
「……ん。天使くんは、頼之のこと三田さんって呼んでるのか?」
慎がスプーンを咥えながら、渉を見る。
すると頼之が、チャーハンを食べながら渉の代わりに答えた。
「……いや、『サンタさん』と呼んでくる」
「あっ、なんで言っちゃうんですか!」
と渉が自分の分のチャーハンを持ってきながら言う。
「ほんとのことなんだから、隠すことないだろ」
「そうですけど──」
むっとしながら渉は席に着いて、チャーハンを口に運ぶ。
すると慎が、わかった。というように言った。
「あれだ。天使くんは、他の人に頼之が『サンタさん』って呼ばれるのが嫌なんだろ? だから、『三田さん』って呼んだ」
「……そうなのか?」
と二人に見られ、渉は肩を縮める。
「……そうですよ、それがなんですか……」
大体、そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないか──と渉は慎を軽く睨む。
慎は気にしてないのか、にこにこ笑っている。
「……俺も、呼ばれたくない」
「へ?」
「あたりまえだろ。俺だって、渉以外に『サンタさん』とは呼ばれたくない。渉だけだ」
と頼之はチャーハンを黙々と食べる。
渉は頼之を見てから、チャーハンに視線を落として頷いた。
「……はい──」
「サ〜ンタ、さん♪」
「お前が呼ぶな」
とからかって呼んだ慎を、頼之は睨みつけた。
慎は、はいはい。と笑って、渉に訊いた。
「じゃあ天使くんは、巧の兄の俺を、何て呼ぶよ」
と慎が自分を指差す。
慎は、渉の友だち、巧の兄なのだ。
渉は、そうですね……と少し考えてから言った。
「じゃあ、新巻さんで」
「うわ、シンプルだなぁ。もっと捻りが欲しかったかも?」
「え、じゃあ……」
「冗談だよ──ごちそうさまでした。おいしかったよ」
と慎は立ち上がり、またな。と手を振って玄関に向かっていく。
渉は、あ。と思い立って、玄関に向かった。
「新巻さん──」
「お。お見送り? どうもどうも」
「あの、巧には……」
「……あぁ、言わないよ。てか言いにくいだろ? 俺だって、あいつに言われた時びびったし──」
と慎は苦笑いして渉を見る。
「……でも大丈夫だ。巧は口が堅いし、人の気持ちはちゃんとわかってやれる奴だから」
「……はは」
そうですね。と渉は笑う。
「……俺から、ちゃんと言います。まだ言えないけど……、でも、心の整理がついたら、必ず」
「そう。ま、きっと巧は単純だから、『テンシの彼女、男だったんだけど!?!!』って電話かメールしてくるだろうよ」
「ですね──」
と渉は笑った。
それから慎が、思い出したように言った。
「あと、頼之意外とモテるから、気をつけた方が──」
「おい、余計なこと言ってんな」
と頼之が玄関に来て言った。
「俺はもう、渉一筋だからな」
「なっ……?!」
「はいはい、イチャイチャするなら俺が帰ってからにしてくれ──」
じゃ、またな。と慎は出ていった。
渉は、後ろを見ることが出来なかった。
「……テンシ」
「はい……?」
「戻らないのか?」
「戻りますよ……! 先に戻ってください──」
俺はちょっと玄関片しますんで。と渉はしゃがもうとする。
「テンシ、まだチャーハン途中だったろ」
「ぁ……」
しまった……。と渉はしゃがんで固まる。
「……どうした? 具合悪いのか? なんなら俺が抱き上げて」
「大丈夫です……! 戻れます! チャーハン食べま──っ!?」
ばっと立ち上がって振り返ると、頼之とぶつかるぐらい近かった。
「っ──!?」
渉がドキドキしてる間に、頼之は頭にキスをして笑った。
「じゃ、先戻る──」
「っ……ああもう! 食器は浸けといてくださいよ?!」
はいはい。と部屋から微かに返事が聞こえて、渉は熱くなった顔を冷ましながら、部屋に向かった──
頼之「完治」
これで、頼之の風邪話は終わりです。
次からまた、日常的になります。




