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黒影ヴェルト  作者: ポリエステル25%
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血となり肉となるもの

「ここで合ってるのか?ちょっと雰囲気がやばそうなんだけど。」


そう言って連れてこられたのは見るからにならず者たちが集まってるような酒場だ。

入ってきた途端に視線が集まってきたのが分かった。


「大丈夫大丈夫、なにも心配はいらないよ。私も案内した報酬を貰いたいからね。ここはお酒もご飯も美味しいんだ。」


確かに色々あって昼から何も食べてないからお腹は空いたけど、ドレスコードが異次元で違いすぎるのでは…。


「そういえば報酬の話なんだけどこのお金を折半するってことでいいか?」


「君、それ本気で言ってるのか?」


第一村人は驚いたように先程までメニューに釘付けだった顔をこちらに向ける


「あっ、すまない。少なかったか?こういうときにどれだけ払えばいいか分からなくて。」


「…いや、そうじゃない。こういう時はあって1、2割だよ。まあ、私も気に入らないヤツにはふっかけるけど。払わないやつもいる中、半分くれるって言ってるのかい?」


「ここに来てなにも分からないところを助けてもらったことは本当に感謝してる。だから半分もらってくれないか?」


「はは。あのおばさまが言ってた通り君は相当不思議な子のようだね。けど最初に言ったはずだよ。ここの店は料理もお酒も美味しいって。」


「つまりどういうことでしょう??」


「マスター!店の料理と酒、端から端までもってきてくれ!!…っとつまりこういうわけさ。」


マスターに大声で注文する声が響き渡る。その声色には嬉しそうな感情が混じっているような気がした。


「本当にいいのか?」


「どうせこれも報酬の2割は行くんだから。それより少年も食べな?絶品だよ。はむはぐ。」


次々と出てきた料理の端からほうばっていく第一村人からは最初に感じた謎のお姉さんのイメージがまるで感じられ無くなってしまった。


「それで少し聞きたいことがあるのだけどいいかな?」


「聞きたいこと?」


なんの話だろうか。恋人がいるのかどうか、なんて話なら全然ナッシングだから猛烈にアタックしてもらってもいいんだけど。


「君がいた国の話。他の国から来た人間から話を聞く機会はめったにないからね。」


「さっきの話か。俺もあんまり詳しく話せるわけじゃないけどそれでもいいなら。」


「なに言ってるのさ。美味しいお酒があってそこに酒の肴になる話があるんだから、んぐっ。聞くしかないだろう。」


口の中にあるものを嚥下しながらそう俺に語りかけた。


「俺は酒飲めないんだけど…。まあいいか。

この世界は魔法でなにもかもが成り立ってるっていってだけどこっちの世界では科学…」


って言っても上手く説明できないか…。


「えっと、主に電気と機械で動いてるって感じ…かな。」


我ながらアホみたいな答えだが。


「ふむ。機械っていうのは分からないけれど電気って所謂、雷の属性魔法で精製するものだろう?それらを使ってなにをしたりできるんだい?」


「それで明かりを灯したり、洗濯したり、物を温めたり冷やしたり、遠くにいる人と話ができたりする。」


「ほほう!たったそれだけのもので様々なことができるんだね。」


お酒に酔っ払っているのか村人Aは異様にノリノリで話を聞いてくる。


「俺もあんまりは詳しくないんだけど。燃料なんかも使えば、空を飛んだり海を渡ったり月に行ったりできる。それも、なんの力もない一般人がね。」


「月へ行く!?空を飛んだり海を渡ったりは飛竜を使えばなんとでもなるけれどまさか空の向こうまでいけるなんてね。」


「それも最近のことだけど。しかし魔法なんて大層なものがあれば月になんかすぐ行けそうなもんだが」


「まあ、最高位の魔術師が複数人揃うことと、魔法力リソースがあれば可能だろうけれど。そんな発想をする余裕が今のこの国にはないからね。」


「ふむ………。なんかよく分からないけどめちゃくちゃ頑張らないとできないことは分かったぜ!!」


正直魔法関係の話はぜひ聞きたいところだが言葉で聞いても全く分からないな。

理解して俺もいつか使えるようになりたい!是非にも!!

元の世界戻ったらモテモテになるかもしれんし!?


「そうか、君は魔法を知らないんだったね。じゃあその説明を」


「おい、小僧。美人なネーチャン伴れてんじゃねえか。俺にも少し貸してみろよ。

 …おお、ここの飯も美味えな。」


テーブルにある食事を勝手に貪りながら

話に急に割り込んできたはぐれ者が話しかけてきた。


「ネーチャンもこんなちんちくりんと一緒にいても楽しくないだろ?俺と飲もうぜ!

まあ、嫌って言っても無理やり連れて行くがな!ガハハハハ!」


いや、これ本当に現実世界ってあるんだって思うぐらいテンプレートすぎないか!?

まあここが現実かは怪しいところではあるが…。

ならず者の教科書持って学校に通ってるんじゃないかと疑うレベルだ…。


「ちょうどいいものが見つかったようだ。」


そういうと彼女はにやりと笑い、手に持っていた水入りのコップをその男の顔に投げつけた。


「うおっ、なにしやがる!!」


「少年に教える『犬でも分かる簡単魔法講座』に協力してくれてありがとう。まあ、君は犬の餌にもならないが。」


次の瞬間、飛び散った水がまた、一つの塊となってならず者の口の中に吸い込まれて行く


「なにいって…ゴッ、ゴポォ!?」


最初はコップ1杯ほどしかなかった水は顔を覆うほどまで膨れ上がっており完全に頭がすっぽり包み込まれている。


「ゴボッゴゴガゴボガッ、たすけガボッおぼれッるポガボッガガボッ!!」


「今のは水属性の魔法だ。元からある水という媒介に魔力を使い、水を増やし操る基礎的な魔法だね。」


「なるほど…それはとても分かりやすくて助かったんだけど。その人大丈夫なのか?」


村人Aは「ああ、忘れてた」といいながら魔法を解除する。そこには水浸しになり気絶している大男の姿があった。


「まあ大丈夫だよ。大事な器官には入れてないから、せいぜい酸欠になってるくらいさ。」


「そっか、ならいいんだけど。」


「ただ。」



「ただ。私の、楽しみにしていた、極上の料理を、邪魔するどころか手をつけるなんてことをしたら、少しばかり痛い目を見てもらわらないとね。」


そう言った彼女の顔はとてもにこやかな顔をしていたが、目の奥底に眠る鬼を見てしまった気がした。





ーーー





「いやー、ちょっとやりすぎてしまったかな?まさか有無を言わさず追い出されるとは思わなかったよ。」


そう言っている彼女は店で喧嘩騒ぎを起こした村人A。まさに言葉通り速攻で店をつまみ出され、そのまま宿屋へ向かうこととなった。


「俺が驚いているのはそこじゃなくて、店つまみ出されるあの短時間で料理を全部平らげたことなんだけど…。」


「もちろん、そこは抜かりないさ。食べ物を粗末には出来ないからね。その為なら音速だって超えて見せるよ。」


もはや、ただの食いしん坊キャラじゃないか…。まあ報酬として食事っていってたから全部食べてもらってこっちも安心なんだけど。 


「そんなことよりさっきの続きでも話そうか。『狐でも分かる魔法講座』属性編だね。」


「属性?」


「ああ。魔法にはいくつかの属性が存在する。それが、『火』『水』『氷』『雷』『風』『土』『光』『闇』『無』…だいたいこんなものだったかな。主にこの9属性がある」


魔法の話はよく分からないものだけだと思っていたけど。

なるほど、こう聞くとだいたいゲームで聞いたことがあるような名前の属性が多いな。


「それならなんとなくわかる気がする。無属性はその属性ごとに当てはまらないその他ってことか?」


「へえ、正解だよ。その通りだ。魔法の知識もないのによく分かったね。」


「俺がいたところで似たようなお伽話みたいなものがあって。…そういえば毒っていう属性なんかはないのか?」


「毒に属性はないよ。毒を使う魔法は闇属性に位置する。基本的に人に害を為したり、取り扱い自体が危険な魔法は闇属性に分類される。使ったところを見つかったら牢屋にぶち込まれるから注意だね。」


「確かに、闇ってついてるものにいいイメージは沸かないな。…えっと、それとは別に少しお願いしたいことがあるんですが…。」


「なんだい?急にかしこまって。」


「俺に魔法の出し方を教えて欲しいんですが!!是非にも!!」


それさえ教えてもらえれば元の世界でモテモテになれる。いや、なってみせる!!!


「ふ、ふふふ。全く、少年は意外とちゃんと男の子なんだな。」


「…?どういうことでしょう?」


「魔法に触れていない人間は身体の魔力が通る道。つまり魔脈が開いていないんだ。この国の人間は生まれた時に家族の肌に触れ、魔力を送ってもらい魔脈を開く。」


「えっと、つまりは…?」


「君は私と全身の肌と肌を触れ合わせたいと、私の魔力を君の身体の隅々にまで流してくれと、そう欲しているのだろう?」


そう言って少し頬を赤らめた村人Aがこちらを上目遣いで見つめてくる。


「いやいやいやいや!?!!?そういうことだとは全然知らなくて!!べ、べべべつに嫌ってわけじゃないんだけどむしろウェルカムくらいの気持ちなんだけど!ただそういう肌だとか流すとかは好きな人同士がこう…なんかアレがいいんじゃとかいうアレががが!」


「ははは、冗談だよ。冗談。別に全裸になってくっつかないと行けないわけじゃないさ。手のひらから流し込むくらいでも充分できるからね。」 


「なんだよぉ…。この胸のドキドキと俺の純情を返してくれよぉ!!」


というか顔を赤らめてるってよく考えてみたらこの村人は酒を飲んでで最初からこうだったじゃないか!この酔っ払いがっ…!!


「ふふ、すまないね。まあ全身でくっついた方が早く済むのは本当なんだけどね。

お詫びに、こんな私で良ければ宿屋まで手でも繋がせてもらいたいがいいかな?」


「ぜ、全然構いませんよ?俺はそういうの気にしにゃいんで?」


めちゃくちゃな噛み方をしてしまった。だが後悔はない。


「そうか、では失礼して。」


そう言うと村人Aは俺の左の手を取り自らの手に重ねる。その温かく柔らかい感触はまるでふわふわの綿菓子のようでゆで卵のようにすべすべしていた。

例え方が下手くそだとか知らない。彼女いない歴の者に求めるのは酷だと知れ。


「どうかな?魔力が流れてくるのを感じるだろうか?」


幸せな感触に触れている。動悸とめまいに振り回される中で、そう言われて見れば熱く細い針金のようなものが身体の全体に広がるような感覚がする。


「なんとなくだけど熱い線みたいなものが広がってるのを感じる。」


「そうしたら少し魔法を使ってみようか。空いている右手があるだろう?そちらの手で、さっき言った9つの属性のどれかを思い浮かべるんだ。」


9つの中の属性…?闇は…使ったらすぐ牢屋行きだっていうしなぁ。なら火か!かっこいいしな。けどイメージが湧かない魔法としての火のイメージが…


「イメージは決まったかい?

これは基礎の魔法だから決まったイメージから魔法を起こしていくことになる。

決まったイメージを右手に集中させて、そして右手にたまった魔力をイメージとして放出させるんだ。」


決まったイメージを右手に集中……


「右手にたまった魔力を放出…!!」


プシャーーーーー


次の瞬間、影一の手から水飛沫が舞った。そしてその水は、一瞬で人の頭一つ分ほどの水の塊になっていき空中に留まっている。


「…これは!私がさっき見せた水の魔法じゃないか!」


「他の属性のイメージがあんまり湧かなくて、今日初めてみた魔法で印象に残ってたからやってみたんだ。」


村人Aは少し驚いた表情を見せたがまたすぐにもとの顔に戻る。だが少し顔が明るくなっているようだった。


「ふふ、可愛い少年だ。私の水魔法を選ぶのはなかなかセンスがいい。

しかも水の媒介なしで私と同じものを作れるなんてかなり見所があるよ。」


「はっはっは!勘違いされては困る!!媒介はもう用意してたのさ!」


俺は猛々しくそのよくできた魔法に種があることを宣言する。


「ふむ?水の媒介になるものなんかどこにも」


「これ…です…」


村人Aの言葉を遮って影一が見せてきた右手には、びっしょりとかかれた手汗がついていた。


「そりゃそうだよ。ただでさえ繋いだことないのに、こんなに長い間女の子と手を繋いでいたら情けないくらい手がびしょびしょにもなるよぉ…!!」


「ふふ、ふははははは!本当に面白いな君は。なんだか気に入ってしまいそうだよ。

今度からは私も手汗を使うことにしよう。」


「きっと不名誉だからそれは勘弁して欲しい…。それにしても俺にも魔法が使えるなんて感動したな。」


「魔法を使える才は確かにあるようだね。たださっきの魔力は私が流し込んだもので君のものじゃないから。本当の魔力量がどれくらいのものかは魔脈が開ききってからしか分からない。」


「そっか。じゃあ楽しみにしておくよ。本当に色々ありがとう。感謝しても仕切れない。」


「気にすることはないさ。この報酬はまたいつかの時に返してくれたらいい。

あ、宿に着いたみたいだね。」


着いた宿屋はあまり大きくはないが外観はかなり綺麗に手入れされているようだ。


「分かった。ありがとう。えーっと、あなたはどうするんだ?」


「…ああ!まだ名前を教えてなかったね。

私はクラウン・キルヒアイス。この街の優しいお姉さんって覚えて欲しい。」


優しいお姉さんは大男を地上で溺れさせないと思うんだけど…まあいいか。


「よろしく、クラウン。

俺は陽月影一だ。どっちでも好きな方で呼ん でくれ!」


「じゃあ手汗マイスター


「それだけは絶対やめろ。」


「それじゃあ、影一くん。私は君が気に入ってしまったよ。君は私とよく似ている。

とりあえず私も今日はここで泊まるよ。同じ部屋でも取るかい?」


「似てるか?…いや、遠慮しとくよ。一緒の部屋とか心臓がいくつあっても足りないから。」


「そうか。残念だな。じゃあ隣の部屋で我慢しよう。」


クラウンは本当に残念そうな面持ちで宿屋のドアをノックする。


「はーい」


そう聞こえてきてしばらく経たないうちにドアが空いた。


ドアの前にはそこにいるはずのない人間が。


助けられなかったはずの人間が立っていた。


名前…名前は…


「アミス…?」


そう呟いたと同時に空中で維持し続けていた水の塊がアミスの頭上で弾けた。

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