掴んだ藁の使い道
「おや、みない顔だね。あなた旅人さん?」
竜に襲われた山からアミスの言っていた村までなんとかおりてきた俺は発見した第1村人の女性にそう話しかけられた。
あれからボロボロになりながらもアミスの行方が気になり落ちた川に降りてみたがそこにはなにも残っていなかった。流れの強い川だから流されていったのかもしれない。
やはりあの高さから落ちたらもう…。
「…」
「なにか疲れた顔をしているね。とりあえず宿屋にでもいってくるといいよ。」
「宿…?」
「ここらへんの治安はあんまりよくないから。そんな格好でこんな時間に出歩いてたら悪い人に皮1枚までおろされちゃうよ?」
確かに竜と追いかけっこをして山から降りてきて身体も心もボロボロだ。一刻も早くどこかで休みたいところではある。
「実は俺、この辺りに来たことがなくて勝手が分からないんだ。」
そう言うと第1村人は少し考えるそぶりを見せると口を開いた。
「ふむ、じゃあ特別に私が案内してあげよう。予算はどれくらいあるんだい?」
予算?どうだったか。財布は一応持ってはいるが本屋に寄った帰りだったからな。
そう思い財布の中身を確認する。すると5千円札が1枚、千円札が2枚、五百円玉が1枚、計7500円きっかり。
端数はポイントカードで払う癖がついているから計算しやすくていい。
「ちょうど7500円程なんだけど一番安いところでどこかないだろうか。」
そういって手持ちの代金を見せる。
「7500エン?んんー、これはどこの通貨だい?」
となけなしの有り金をじっくり観察される。
「ふむぅ、いろんな国の通貨を見たことはあるがそんなのは見たことがないな。」
「そう…なのか…」
てことはここはやっぱり日本じゃないってことか?でもそうならそもそも日本語が通じてる意味がわからない。
しかし確かに白髪のアミスといい、この第1村人のクリーム色の髪色といい日本人にはない色をしている。
外国であることにも合点はいくが。
「まあなんにしろこのお金はここでは使えそうにないね。」
「じゃあ、野宿するしかないか。明日の朝まで待てば警察に事情を説明してすぐ家に帰してもら」
「いや、ちょっと待った。」
第1村人が急に俺の言葉を遮る。
「遠方からくる旅人にはたまに君みたいな人がいるんだ。なにか持ち物をお金に変えてくるといい。良い場所を紹介するよ。」
そういって第1村人はにっこりと笑った。
ーーーーー
入り組んだ裏路地を歩いてたどり着いたのは看板が傾きコケが生えている廃屋かと思うほど寂れた店だった。今日初めて知り合った栗色の髪をした女の人に中へと案内される。
「ここがなんでも換金所ってところかな。生ゴミ以外なら大抵のものをお金に変えてくれるよ。」
「わしをそんな雑極まりない商売として括るでないわ。こんな商売をしてると普通にしてたら手に入らない掘り出し物に足がついて勝手にやってくるからねぇ。」
そう言って奥から出てきたのは180cmはありそうで頭から靴の先まで紫色コーデのムキムキ老婆だった。
「まあそういうことさ。君のお宝でもなんでも売ってお金を作るといいよ。」
「お宝って言っても…申し訳ないけど教科書と本くらいしかこのリュックに入ってないんだ。売れるとしても本くらいのもので。」
「ハハハ、元からあんたみたいな身なり若いのやつからそんな良いものが買えるとは思っとらんよ。とりあえず見せてみな。」
そう言われ背に腹は変えられんと今日買った短編小説やラノベをおばあさんにみせる。
おばあさんはそれを受け取ると中身をペラペラとめくりはじめた。
「………。」
それからしばらく黙り込み本の隅々まで針に糸を通すようにじっくりとみている。
「どうしたんだい。おばさま。この子は今日泊まるところもなくてさ。少しは甘くつけてやってくれると助かるんだけれど。」
「これをどこで手に入れたんじゃ?」
鋭い目つきで睨まれた俺は、そこらで至極普通に売られている本なんか売りにくるんじゃなかったと後悔する。
「どこっていわれたら地元の書店なんですけど。やっぱりダメそうですか…?」
「………5万ルロ。」
「え?」
「5万ルロで買い取るって言ってんだ。」
「ほう、それはすごいね。」
「それっていくらくらいの価値なんだ。結構高いってことだろうか?」
「ああ、まさか半年間ずっと高級宿で寝泊まりしてもおつりがくるほどの大金になるとはね。」
「半年も!?」
「ただ…、おばさま。私は色をつけて欲しいって言ったんだけど。もしかして商売上手なところを見せてくれてるのかな?」
「ちぇっ、バレちまったかい!これだから肥えた目を持ったやつがくるのは嫌なんだがね。アホなやつがタダで掘り出しモン持ってくるための店だってのに。」
「ふふ、それでつまり?」
「150000ルロだ。そのくらいの価値がその書冊にはあるってことじゃ。」
「はは、それだけあれば2年は働かずに食っちゃ寝できるようになるってことだね。よかったじゃないか旅人さん。」
「よかったと言われてもまだなんの実感もわいてないというか。新手の詐欺とかじゃなくて…?」
「ちなみに理由を聞かせてもらっても?」
第1村人が俺の聞きたかったことを代わりに聞いてくれる。
「まあ、これに関してはわしの方からも聞きたいことがある。まず理由じゃな。1つ目、綺麗な用紙と文字じゃ。異国の文字で今読むことはできんがここまで精巧にそして均一に記されたものはなかなか見られない。そして二つ目、その本に差し込まれている絵じゃ。見たことのない技法で描かれ、神々しくも感じる絵。その場面の情景を表しているものじゃろう。ただ、これだけならそこまでの値を張るものではない。国を渡れば似たようなものもあるじゃろう。この値段に設定した理由は3つ目。」
「この本が魔法で編まれていないこと、じゃ。」
「おばさま、それってまさか。」
あまり表情を出さない第1村人が少し驚いたような顔をした。
「ああ、これはこの国の技術で作られたものではないということ。いや、もしかしたら。」
「確かにそれはすごいことだね」
「待ってくれ、魔法って一体なんのことだ?そんなもの存在するのか?」
「この世界は魔法技術が根幹をなして動き、支えられている世界だ。たとえ料理するにも建築するにも運搬するにもさまざまな属性の魔法をなしてことが造られている。書冊も例に漏れず複製する場合、原本にも謄本にも魔術の痕跡が残る。」
なにを言っているのか全く理解できないが。
こいつらが俺を馬鹿にしているので無ければこんなのまるで小説やゲームの中じゃないか。確かにここにいる人間たちの髪色や名前も日本人じゃない。なのに言葉は通じてる。
しかも竜にも追いかけられてだ。
おかしいことも全て魔法がある別世界っていうんだったら納得せざる負えない。
こういうのはよく本で読んだ展開なんだが、自分でその世界に迷い込むなんて…。
「もう一度聞こう。これをどこで手に入れたんだい?」
「それはさっき言ったように地元の本屋で。俺が住んでたところには魔法なんてものは全くなかったんです。全部は科学技術の発達のおかげ…なんだけど。」
なにか情報を得られるかもしれないと思い素直に自分が知ってることを話す。
「ほう!それはなかなか興味深い話じゃな!続きを話してみてはくれんか!!」
「それが…あま」
「おっと少年。ここからは情報料をふんだくってもいいくらいだよ。疲れただろうし今日はお金だけもらって早く休もう。」
そう、言葉が遮られると老婆は不満そうに女の人を睨んだ。
「たぁく、年寄りの楽しみの邪魔をしおって。ボウズ後で言っといてくれ、あんたの連れに次なんか持って来たら丁寧に足元見てやるってな。」
「それは怖いね。…本は2冊あるんだろう?どっちも売るかい?」
「いや、 売るのはラノベの方にするよ。こっちは重版だけど、短編小説は初版だから。…っていってもわからないか。」
片方の本を仕舞おうとする手が当たりリュックが倒れると、中から教科書がなだれ落ちた。
「ん?なんだいこりゃ、また新しい書冊じゃな。ちょっと見ていいかね?」
「いいですけど売る気はないですよ。無くしたら元からそんなに受けたくないにしても、授業受けられなくなるし。」
老婆は教科書を開くとすごいスピードでページをめくりだす。
「これは…この書冊だけは絶対に手放すでないぞ。国が買い取りたいほどのものじゃろう。文字は読めんが自国とは異なる発達を遂げている技術や文化を一旦とはいえ書いているなぞ…。本当はわしにチョー売って欲しいんじゃが。」
「それはダメです!もし無くして帰ったら留年という無限牢獄に閉じ込められるので!!」
「そんなのわしが脱獄さしてやるわい」
隆々な筋肉を見せつけながらかっこいいポージングを決める老婆。確かにこれならそんじょそこらの牢屋なら千切って投げそうだ…。
「いや、入ったら絶対抜け出せない絶対牢獄なので…。」
「残念じゃのう」
流石に高校でもう一年遊べるドンにしても俺の青春メロディは演奏失敗だろうしな…。
「今日はありがとうございました。なんとか野宿せずにすみました。」
「いいもん持ってきてくれたんじゃ。対価を払うのは当然のことよ。ただ…。」
「?」
「ただ、今ここにある持ち合わせが50000ルロしかなくてな。明日には手配が付くんじゃが。明日きてもらえんかの。」
「ああ、それならその金額で大丈夫です。この本俺の地元にはいくらでもありますし、そんな大金貰っても怖いですから。」
「ほう。入ってきた時から思ってたがなかなか面白いガキじゃないか。欲がないことがいいことだとは思わんが。気に入った!!またなにか売るもんでもあったら力になっちゃろう。」
「はい、その時が来たらお願いします。」
そう言ってお金がパンパンに入っている袋を受け取る。
「重っ!?」
その袋はこれで人を殴ったら死ぬんじゃないかと思うほどに重たい。
「かなりの大金が入っとるからの。盗まれんように気い付けて帰るんじゃぞ。」
「はい、ありがとうございます!」
「…じゃあいこうか。」
第1村人にそう促され僕たちは店から出ていった。