休日
異世界に来てはや一週間。
そんなこんなでパレスの店員もだいぶ板についてきましたキリです。
相変わらずパレスは暇だ。常連客はよく来るんだけどさ。マシューさんとか。彼の他にも結構常連さんがいるようで。曜日ごとに色んな方々がいらっしゃるのである。
あ、そうそう曜日は俺のいた世界と同じだった。あと一ヶ月とか一年の日にちもどうやら同じらしい。よかった一年が二十ヶ月あるとかだったらややこしい。
基本的には異世界といえども同じみたいだな。ただ魔物とかなんかいるけど。あと魔法とか、あるらしい。常連さんの一人が魔術師だとか言っていた。魔法とかちょっとにわかには信じられねえんだけど、俺がいるここは異世界なわけで。
…はあ、すごいなあ。
それにしても元の世界に帰れそうな気配は全くない。あっちの世界はどうなってるのかねえ。ドラマの撮影……ああ考えたくもない。俺は失踪者ってことになっているんだろうか。マネージャーの吉田さんごめんなさい。帰りたいけど帰った時のあっちの状況を考えるとげに恐ろしや……。俺は好きで失踪したわけじゃあないんですよ!ううう。
とまあぐだぐだ考えても仕方がないな。
気持ちを切り替えて。はい、今日はジロウさんに休みをいただきました。丸一日オフ!
この機会にアロンの街を散策してみよう、というわけでございます。この世界に来てしまったあの日も散策したけど心持ちが全然違うね。心の余裕がね。今日はのんびり楽しもう、俺。
* * *
で、やってきました。アロンの街の中心部。
でかい建物、ギルドというものらしい。あれだな、ゲームとかに出てくるやつ。ここで冒険者の登録して冒険に繰り出すんだろう?それで仲間を集めて魔王とか倒すんだぜ。
よくあるよな、俺みたいなどっかからきた人間が何の因果か運命のいたずらか、魔王討伐の勇者になるんだぜ。……笑えない。まあ俺は幸運なことに王様とか偉い人に召喚された勇者じゃないみたいだからよかった。ひっそりとカフェの店員やっていこう。
ひとまずベンチにでも座ってギルドの様子を観察する。
人の出入りが多いな。やっぱり皆どことなくファンタジーな感じがする。…というかもろファンタジーだな。あんな大剣よく担げるよなあ、俺は無理だ絶対。
あ、あの人見るからにボロボロだ。狩りの帰りかねえ。狩り……、狩りってやっぱりあれかな?魔物と戦う感じ?ひと狩りいこうぜ的なアレですか?
俺の知っている魔物といえばシュークロウとかウッシーとかブータとか、まんま動物のわけで。つまり食べ物的な。…やっぱりゲームみたいにいかにもな魔物もいるのだろうか。こええな。丸腰の俺は瞬殺に違いない。迂闊に街を出られないというわけですね。
うお、あの集団すごいでかい犬連れている。あれも魔物か。でかいなあ…。
…ってもうこんな時間。お昼の時間じゃんかよ。職業柄人間観察がライフワークみたいなものでして。こうして観察しているとあっというまに時間が過ぎる。とりあえずわかったことは、この世界はなかなかファンタジーだってことだな、パレスにずっといたらそうでもない感じだったんだけど。
とにかく昼食昼食。じっとしていたとは言えそれなりに頭使ったし、腹減ったー。なんか食いてえ。
どっかレストランとかないかな。初日の俺は無一文だったが今の俺にはパレスで働いた給料がある。ジロウさんに一週間分の給料をもらってきたのだ。よしよし、ランチだ。
とりあえずランチするとこ探しがてらうろうろしてみよう。なんだかんだでずっとギルド出入りする人たちの観察してたわけでして、実はそう散策していないんだなこれが。はい。
ってことでうろうろ中。
おしゃれな感じの店が並んでいる。建物といい街並みといい、結構おしゃれだよな、この街。なんかの映画のロケ地になるよ。
いろんな店が立ち並ぶ通りを歩いていると、小さな料理店を発見した。あの店こじんまりしていていい感じ。隠れ家みたいな?あそこ入ってみよう。
小さな料理店。看板には「ビストロ・バンビ」。バンビ?あの小鹿ちゃんですかね?可愛い名前。
まあいいや入ろう入ろう。「ビストロ」と掲げているからには何かしら食べられるに違いない。
ドアをゆっくり開ける。
カランカラン。
ドアベルが鳴った。