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常連客

 パレスでのお仕事一日目、客が来ないまま早くも終わろうとしています。

 本当に大丈夫だろうかこの店。楽でいいけどさ。




 ジロウさんはウッシーやらシュークロウやらの絵を描いてくれたあと厨房に引っ込んでしまった。というわけで暇だ…暇すぎる。

 あっちの世界ではドラマやら映画やらとずっと忙しくて暇に慣れていない。さっきからずっとテーブル拭いたりインテリアの位置を調整したり花に水やったり、できることはすべてやりましたよ。もう何もありませんよ。暇です。

 ちなみに昼食も早めにしっかり食べました。この調子じゃ早めに食べる必要はなかったみたいだけれども。それはそれとして、ジロウさんのまかない!簡単なパスタだけどすごい美味かった。ジロウさん大好き。今度作り方を教えてもらおうと心に決めた。

 


 メニューももう覚えた。完璧だ。台本覚えるのは得意なんです、俺。

 メニューといえば、そのメニューがなかなか興味深かった。シュークロウの他にも聞いたことのない名前がちらほら。中にはウッシーみたいになんとなくあーあれだな、っていうのもあるけどさ。料理名は普通かな、シュークリームとかパンケーキとか俺の知っている名前ばっかり。

 ちなみにコーヒー、紅茶はそのままコーヒーと紅茶だった。アールグレイとかもあるし。どういうあれなんだろうね。…いや、もしかしたら俺の知っているコーヒーと紅茶ではないかもしれないけれど。飲んでみて炭酸だったりしたらウケる。

 一回この店のメニュー全制覇したい。俺甘いもの結構好きなんだ。シュークリームすごい美味かったし。ほら、やっぱ店員としては店の味知っとかないといけねえじゃん?











 カラン


 そんなかんじでとりとめのないことを色々とぐだぐだ考えたり、ジロウさんの手伝いしたりその他諸々していたらドアのベルが鳴った。客だ!午後四時にして今日初めてのお客さんですよ!やっと初仕事って感じですかい?ジロウさん。


 入ってきたのは初老の男性。シルバーブロンドが素敵な上品なおじさまだ。



 「いらっしゃいませ」


 マニュアル…なんか無いけど、マニュアル通りの台詞を発する。するとおじさまが俺の顔を見て首をかしげた。


 「おや、新しい店員さんかね?」


 「はい。今日から働いております」


 そうかそうかとにこにこするおじさま。なるほど常連さんだな。俺が案内するまでもなく慣れた様子で窓際の一番端の席を陣取った。定位置ですね。はい。

 彼の元へメニューを持っていきかけたら、厨房からジロウさんが出てきた。



 「ようこそマシューさん、いらっしゃいませ」


 「おお、今日も邪魔させてもらうよ」


 「はい、いつものですね?」


 「ああ、頼む」


 本当に常連客だこのおじさま。マシューさん?ジロウさんと仲良さげ。


 「少々お待ちくださいね。…ああ彼、今日から新しく働いてもらうことになったキリくんです」


 おお、紹介ありがとうございますジロウさん。俺の番ですね。


 「キリ・ハナブサと申します」


 「ほう、わたしはマシュー・バークだ。この店の常連だよ。これからどうぞよろしくお願いします、キリくん」


 そういうとおじさま、もといマシューさんは握手を求めてきた。予想以上に大きい手だ。あたたかい。


 「キリくんすごく格好良いでしょう?今日から看板娘ならぬ看板息子です」


 ジロウさんの言葉に俺はマシューさんへ完璧な笑顔を提供する。どうも。…看板息子ってなんだ。



 「キリくん、マシューさんはね、家具職人さんなんですよ。とっても素晴らしい名工です。このテーブルと椅子もマシューさんの作品なのです」


 「いやいや、名工なんて勿体無い言葉だ」


 照れているマシューさん。なるほど彼の大きな手は家具職人の手か。…このテーブルと椅子は彼が作ったのか。すごい。お洒落じゃん、マシューさん。




 「本当に素晴らしいですよ、彼は。……おっとすみません私は喋ってないで作ってきますね」


 思い出したようにジロウさんは厨房に引っ込んだ。いってらっしゃい。マシューさんのいつものってなんだろうな。










 ジロウさんが厨房に引っ込んで、マシューさんは読書のようだ。なにやらお洒落なブックカバーのかかった本を開いている。

 この店、客が来なくてやばいんじゃなかろうかと思ったがたぶんマシューさんのような常連客で成り立ってんだろうなあ。やっぱ美味いもん。俺だってリピーターになるなる。



 カウンターの前で隙なく立っているフリして色々考えていると、どうやら出来上がったようだ。厨房からいい香りが漂ってくる。仕事が早いな、ジロウさん。とりあえず厨房に向かおう。マシューさんの元へ運ばねば。







 「キリくんナイスタイミングです。出来上がりました。パレス特製スコーンです」


 厨房には出来たてのスコーンが。俺の知っているスコーンと見た目はまったく同じだ。美味しそう。

 

 「スコーン運んだら紅茶もお願いします」


 ジロウさんからスコーンを受け取ってマシューさんのもとへ。俺はカフェ店員、カフェ店員…俺は今カフェの店員を演じている。…って違うけど。マジでカフェの店員だけどさ。





 

 「お待たせしました。パレス特製スコーンでございます」


 マシューさんの前に丁寧にスコーンを置く。美味しそう。


 「おお、ありがとう」


 「紅茶もまもなくお持ちいたします」


 一礼して再び厨房へ。……なんかすごいカフェ店員してるぜ俺。






 厨房で紅茶の準備。はい、俺紅茶入れるのは得意です。ロンドン育ちのロンドンっ子ですから。さっきまでの暇な時間にジロウさんに紅茶を入れたら紅茶は任された。というわけで紅茶は俺の仕事だ。ちなみに紅茶は紅茶だった。炭酸とかではなかった。よかった。

 それにしてもダージリン…これはもっと違う名前ではないんだなこれが。普通にダージリン。

 うん、いい感じいい感じ。こんなものでしょう。マシューさん今お持ちしますよ。キリのスペシャルティーを。



 「大変お待たせしました。ダージリンでございます」


 「ありがとう」


 「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」


 「うむ」


 「ごゆっくりどうぞ」


 こんなだよな?店員の台詞。イマイチ自信がないけれど。まあいいや、こういうのは堂々としていれば大丈夫。どうせ店員の言葉なんて真剣に聞いてないだろう。伝票を置いたらひとまず退散。




 カウンター前にトレー片手に立つ俺。マシューさんの様子を窺うと、紅茶を一口飲んで驚いた顔をしていた。どうだ、参ったか。キリのスペシャルティーは本場の味でございます。




 ああいい香り。俺も食べたいなあ。






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