初仕事
マネージャーの吉田さん、お元気ですか。
どういうわけか希里は異世界でカフェの店員をやることになりました。
ジロウさんに雇われ、カフェ「パレス」の店員になりました、英希里です。
ジロウさんの言っていた辞めた店員とやらは、どうやら俺が最初にパレスに来た時に対応してくれた女の人らしい。めっちゃ最近じゃねえか。って、つまり昨日?しかも店員は彼女一人だったそうで。俺の存在はまさに渡りに船だったというわけか…。
というわけで早速今日はお仕事初日。
俺の寝る場所は店の二階、居住スペースのひと部屋を貸してもらうことになった。中々広くてびっくりなんだけど。外から見た感じそんな広そうには見えないんだけどなあ。とにかくジロウさんには感謝。この異世界で寝る場所と仕事が同時に手に入ったわけだし。重畳重畳。
それにしても昨日は意外とぐっすり眠れた。俺は基本どこでも眠れるけれど、この状況でぐっすり眠れるとはさすがに思っていなかったわけで、我ながらなんというか…。まあいいや。良いことには違いない。
「おお、キリくん素敵です。似合ってますよ」
ただいま俺はジロウさんに渡された、パレスの制服着用中。なかなかお洒落だ。ジロウさんが着ているのとは若干デザインが異なっている。細かいな…ジロウさんのこだわりかね?
「じゃあ早速今日からお仕事よろしくお願いしますね。お客さんが来たら接客お願いします」
ジロウさんがにっこり微笑みながら言う。
え…それだけ?もうちょっと具体的な指示を頼みたい。恥ずかしながら、俺はこういう接客系のバイトとかしたことない。というかバイト自体したことない。高校から芸能界の仕事してたからな…。それまではロンドンだったし。…でもこういうカフェの店員の役ならやったことはある。しかしまあ、それはあまり参考になるとは思えない。うん。
「接客って…」
「自分の思う接客でいいですよ。大切なことはお客さんのことを一番に考える。それだけです」
ジロウさんは笑顔でそう言い残して厨房へ行ってしまった。
まあいいや、俺アドリブ得意だし。
よしよし、それじゃあ異世界での初仕事、がんばりますかー!
と言ったものの、誰も来ねえ…。
開店から数時間。人っ子一人来ませんよ、この店。大丈夫?さっきから暇で暇で仕方ない。
「暇ですねえ。まあいつものことですが」
ジロウさんも厨房から出てきた。
ほんとに誰も来ない。美味しいのにな、ここの料理。シュークロウのシュークリーム?だっけ、あれすごい美味かった。
「ねえ、ジロウさん。昨日俺食べたんですけど、シュークロウのシュークリーム」
「美味しかったでしょう?シュークリームは一番人気ですよ」
「はい、すごい美味かったんですけど、シュークロウって何なんですか?」
そう、すごい美味かったわけだが、シュークロウって聞いたことない。ちょっとシュークリームとかけてんのかな、とか思ったけどジロウさんの様子を見る限りそうでもないっぽいし。
「おや、知りませんか。君の世界にはいなかったのでしょうかね。シュークロウは白いふわふわの羽毛が綺麗な魔物ですよ。お腹だけ黒いんです」
「魔物!?」
「ええ。肉はとても柔らかくてジューシー、卵も栄養満点で羽毛はとても高価です。素敵な魔物ですね」
にこにこしているジロウさん。…ちょっと待て、魔物ってなんだ?俺は魔物を食ったのか?
「ちょっと、ジロウさん…魔物ってなんですかね…?」
「魔物もいなかったのですか?魔物は魔物ですけどね…」
俺の問いにジロウさんが考えている。うーん。
「君の世界がどうなのかは知りませんが、この世界では私たちが食べている肉はみんな魔物の肉ですよ」
「牛とか豚とかはいないんですか?」
「ウシ?ブタ?知りませんねえ。ウッシーとブータならいますよ。美味しいお肉です」
ウッシー、ブータ!?
ちょ、え?冗談だろワンモア!
……まじか。まじなのか。絶対牛と豚じゃん。
「そ、それってどんな魔物…?」
見たい。めっちゃ見たい。
ジロウさんを見つめると彼は俺の期待に応えて何やら紙とペンを持ってきて絵を描いてくれた。
ウッシーとブータ!
牛と豚ー!
ジロウさんが描いてくれたウッシーとブータはまさに、牛と豚でした。まんまじゃねえか。
「ついでに。シュークロウはこんな魔物です」
そういうとジロウさんはシュークロウも描いてくれた。
…白鳥だ。腹が黒いけどだいたい白鳥だ。
「きれいな魔物でしょう?肉も卵も羽毛も最高でその上美しい、私大好きです」
自分が描いたシュークロウを見ながらしみじみというジロウさん。
…それにしても、絵うまいなあ。