石畳の街
ドアを開けるとそこは知らない場所でした。
バッキンガムがバッキンガムじゃなくて、日本語が英語で、シュークリームがシュークロウで…
ドアの先は見知らぬ街で。そのドアは確かにさっき俺が入ってきたドアのはずなんだけどな。もう一度閉めてみる。また開けてみる。…変わんないよなあ。
意を決して俺は外に踏み出した。
石畳の広がる綺麗な街だ。後ろを振り返るとバッキンガム(仮)が佇んでいる。俺の知っているバッキンガムの外装とほぼ同じだ。ただ、看板が違っていた。
「『Palace』…宮殿か。いや、確かにバッキンガムは宮殿だけどよ…」
なにこの、名前違うんだけどちょっと関係ある感じ。
とりあえずちょっと散策してみるか。
ちょっと大きな噴水があったりして子供が戯れていたり読書する人がいたり。この状況じゃなかったらすごいいい風景なんだけど。石畳が綺麗。日本じゃない感が半端ない。ここは店が立ち並ぶエリアらしい。バッキンガム改めパレスの他にもよく似た外観の店がたくさん並んでいる。
少し歩くと広場に出た。どうやら街の中央っぽいな、ものすごく大きな建物がある。人の出入りが多い。市役所?それにしても出入りする人の服装がなんていうか…うん。鎧?みたいな着てたり見間違いじゃなければ、でっかい剣っぽいの待ってたりするのだけれど。今から戦います!冒険に行きます!みたいな。もしくはやっとたどり着いたぜ!戦ってきました!みたいな。
これはどういうことでしょうか。あれですか?撮影所とかですか?これはファンタジー映画かなんかの撮影?ハリウッド??
「ちょいと、兄さん。ちょっとこれ買わないかい?」
呆然と前方の建物を眺めていると後ろから声をかけられた。
明るい茶髪の女の人だ。鮮やかな緑の目をしている。日本人ではない。
「おや!兄さんえらい男前じゃない!このペンダントはいかが?ガールフレンドのプレゼントにぴったりだよ」
茶髪の彼女がペンダントを目の前にかざす。綺麗な宝石だ。
「アロン特産アロンストーンさ。綺麗だろう?兄さんの容姿でこのペンダントをプレゼントしたらどんな女の子でもイチコロだよ!」
「ありがとう。でも遠慮しとくよ。他をあたってくれないかな?」
確かに綺麗だけどプレゼントする人もいないし、そもそも金がない。どうせあれだろ、またアルトとかいう謎の通貨がいるんだろ。
適当に断ると茶髪の女の人は名残惜しそうに去っていった。
そういえばさっきの人、アロン特産アロンストーンって言っていたような。アロンというのがこの街の名前なんだろうか?聞いたことないな。観光案内所みたいなところないのかな。
目の前には市役所…ではなさそうだがなんだか重要そうなでかい建物が。ここでなにか聞くことができるかもしれない。しかし、ファンタジーな方々が出入りしていらっしゃる…あんなでかい剣担いでいる人が入っていくんだけど、大丈夫なの…?一般人OK?
…俺場違いだよな、うん絶対丸腰の人間が入っていくところじゃない。俺は戦士でも冒険者でもなくて役者だ。人間だ。無理無理。
* * *
そういうわけで戻ってきました。パレス前。
店員さんが異世界がどうたらって言っていた。確か言っていた。だったら彼に聞くのが手っ取り早いじゃん。あんな武装集団の巣窟に丸腰で入っていくよりは安心だし建設的だ。よし、彼に聞こう。