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消えた砂糖事件

 新たにまろと忍者という異世界人二人が加わって今日も平和なパレスです。

 相変わらず俺ことキリはパレスの店員として楽しく働いています。


 ところで公家まろ秋野麿あきのまろさんは当然のように働いていない。曰く「給仕は下男の仕事じゃ」。さすがまろ。さすが高貴なお方。……悪い人じゃないんだよ。ちょっと偉そうなだけで。ちなみに忍者の時雨さんの姿は俺には見えない。たぶん天井とか床下とかに潜んでいると思われます。秋野麿さんが呼ぶと音もなく現れるからちょっと怖いんだよなあ。背後に急に現れるとかやめてこわい。心臓に悪い。


 にしても驚くべきは秋野麿さんの順応力。異様に高い、と思う。江戸か平安か何時代かしらないけど少なくとも現代の人じゃないっぽいのに、しかも異世界というのにめっちゃ馴染んでるよ。忍者である時雨さんはともかくとして、秋野麿さんはゆったりまったり高貴な貴族さまなのに。いや、だからこそなのか?大物は何事にも動じないのかねえ。普通にスイーツ美味じゃ美味じゃ言いながら食ってるし。異世界ライフ満喫していらっしゃる。すごいなあ。アウェイをホームに変えてしまうまろクオリティ。あとめっちゃポジティブ。毎日がすごく楽しそう。俺も結構楽しいけど。


 




 

* * *


 現在夕方、お客さんもなく暇である。でも今日は朝からいつになくお客さんが来て、悲しいかな暇に慣れてしまった俺はちょっとてんやわんや。ジロウさんもてんやわんや。いや、ジロウさんはあかんだろ。……まあ、それももう落ち着いてすっかり暇になったけどな。なんだったんだあの急な来客は。




 「あー、砂糖が切れてしまいましたね」


 ジロウさんの声に振り向くと困った顔で砂糖の瓶を振ってみせてくる。空ですか。あ、そうそうこの世界でも砂糖は砂糖なのです、はい。で、砂糖はいつもパレス御用達の仕入れ業者で購入してるんだけど、次仕入れる前になくなるとは…、客の少ないパレス異例の事態じゃないですかこれ。いつもならむしろ余ります。なかなか無くならないのに。いくら朝からいっぱい来たからといっても早くない?そんな半日でごっそりいくか?ジロウさんに詳しく聞いてみるとなんでもここ最近減り続けていたらしい。どういうことだろう。



 「そうですねえ、どうしたんでしょう……ネズィミでも入りましたかね?」


 「はは、まさか」


 ネズィミが厨房に入ったら砂糖どころで済まされない。厨房中の食料が食い荒らされる。…ちなみにネズィミというのはご察しの通りネズミ的な魔物です。見た目はまんまネズミ。色も形もまんまネズミ。ただネズミよりもちょいとタチが悪くて、とにかく大食漢。厨房空っぽになるらしいかんね。冗談抜きで。おおこわ。


 「なんにしても砂糖がないと明日から困りますね」


 「ええ、困りますね。とりあえずその場しのぎですが数日分の砂糖を買ってきていただき…」


 「二人とも如何した?困った顔をしておるぞ」


 ジロウさんの言葉を遮り秋野麿さんが登場した。マイペースだよなあこの人。


 「ああ、アキノマロさん。砂糖がね、なくなったんですよ。ネズィミが入ったんじゃないか、なんて言ってたんですけどね」


 「ネズィミとは知らぬが砂糖、とはあの甘い粉のことよな。あれを毎日二掴み舐めるのがまろのこのところの楽しみじゃ」


 うっとりと目を瞑りながら言う秋野麿さん。……ん?毎日、舐める?


 

 「ちょっと待って秋野麿さん、砂糖毎日舐めてるんですか」


 「ん?そう言っておる。ああ、そうじゃそうじゃ、そろそろなくなりそうじゃと思っておったんじゃ。して、今日なくなったのか」


 お ま え か !

 砂糖毎日舐める、っておい。やんごとなき御公家様がなんてことをやっておられる!しかも二掴み。それはもう舐めるとは言わない。体に悪いよ!せめて一掴みに……ってそういう問題でもないけれど。ジロウさんの方をそっと見たら苦笑いしてるし。もう笑うしかないですか。そうですね。








 「あー、アキノマロさんでしたか。そうですか。んー困りましたねえ。明日から砂糖なしでは営業できませんし、おやつも作れませんねえ」


 ジロウさんがなにやらぶつぶつと言っている。ちょっとわざとらしくありません?「おやつも作れません」のあたり。

 だがしかし、秋野麿さんが反応している…!


 「なんと、おやつを作れぬか」


 「はい、砂糖がないと…」


 「むう…そうか……」


 秋野麿さん、相当の甘党らしくジロウさんがおやつに作ってくれるケーキやらクッキーやらにメロメロ。めっちゃ食べるんだよなあ。

 ……なるほどジロウさん。つまり秋野麿さんに砂糖を買ってきてもらおうという魂胆だな。はじめてのおつかい、なんちゃって。犯人だし責任とって買って来いというわけですね。なかなか厳しい。

 しかし、言いようのない不安を感じるのは俺だけなのだろうか。蝶よ花よと面白おかしく生きてきた生粋のお公家様だぜ。俺の想像だけど多分間違っていないと思う。おつかい、できる…?



 「それでは、まろが砂糖を買うてきてやろう。砂糖がないと困るのでの」


 わあ。言っちゃったよまろ。めっちゃ上から。

 時雨さん!こういうときになぜ出てこない!止めて!ジロウさんも笑ってないで!ありがとうございますじゃなくて!


 やばいどうしよう不安すぎる……。

 俺が買ってきますってさっさと言えばよかった俺の馬鹿。


 






 

 

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