時雨
「まろは北九条秋野麿でおじゃる」
「はあ……」
目の前にいらっしゃる公家のお方は北九条秋野麿さんというらしい。
俺がシャワー浴びている間に何がどうなったのか同居人になっていた。とりあえず見た目と名前的に日本人決定……?俺の生きていた時代とだいぶ違うみたいですが……。俺の聞き間違えでなければ「おじゃる」って言った。「おじゃる」って言ったよこの人。
「アキノマロさん、彼はうちの従業員のキリくんです。彼も異世界人なのですよ」
「ほお……、まろと同じ、とな」
「あ、はい。英希里です」
興味深げに俺も見つめる北九条さん。
あれかな?こう…言葉遣いとか、英希里と申し上げ奉り候、とか言わないといけなかったりするのでしょうか。ほら、高貴な人っぽいしこの人。なんたって「まろ」だぜ。って言い方もなにもわからないんだけどさ。……いや、ここはおじゃるで…いやダメだ。俺的にそれはアウトだ。仮にもイケメン俳優名乗って…る…からな。
「突然見知らぬ場所に来てしもうたのでのう、そちも同じというなら心強いぞ」
「はあ……」
「キリくん、異世界人の先輩ですね」
ジロウさん……、先輩って、確かにそうですが。ちょっとこんな後輩、どうしよう…。なんか先輩風吹かせられる感じじゃないですぜ。どう見てもこの人の方が偉そうだよ……。
それに何、心強いって……俺は不安だよ。ものすごい不安だよ。
異星人でも見るような感じで目の前のまろを見ていると(異星人という表現はあながち間違っていないかもしれない…)、彼が二三度瞬きをした。
「そうじゃそうじゃ、実はまろ一人ではないのじゃ」
「え」
何を言い出しますかこのまろ。
ふと思い出したように北九条秋野麿が天井に向かって声をかける。
「ほれ、そこにいるのであろ?時雨」
何してんだこいつ?とジロウさんとともに彼を眺めて……………あ。
もしかしてもしかしてあれじゃないすか、あれ。ニンジャ!天井に潜んでいるといったら!
と冗談半分に思ったら、
「は!」
黒装束の男が片膝をついてまろの前に現れた。
一瞬、一瞬でしたよ。瞬きしたらそこにいた!
てかまじか。
「忍者!」
「そうじゃ。まろの忍、時雨じゃ」
まろに紹介された時雨という忍者が静かに頭を下げた。
うわあ、これホンモノだよな。マジニンジャ!
テンション上がる。
一人静かにテンションあげあげな俺が気になったのかジロウさんがじっと俺を見つめる。
「キリくん?」
「え、あ、ああ!忍者に会えてちょっと興奮しています。すいません」
「はあ、ニンジャ、とはキリくんの世界ではなにか特別な存在だったりするのでしょうか?」
そうだよな、こんな興奮してんのびっくりだよな。でも、忍者ですよ忍者。しかもホンモノっぽい。
「特別というかなんというか…、んー」
説明しづらい。スパイみたいなもんだろうけどなんかそれ言っちゃうとイメージ微妙だよな…。
「昔のなんかあれです。すごい人です」
我ながら残念な回答だった。忍者役はやったことないし。ついでに言うとまろな公家役もやったことない。ないない。
ちらりとまろを見ると残念なものを見る目で俺を見ていた。……否定はしない。
「そちは忍を知らぬのか?まあよい、この時雨はまろの優秀な影じゃ。まろと共に世話になる」
まろがそう言うと時雨さんが再び静かに頭を下げた。無口だな。ますますそれっぽい…!
よろしくお願いします。あとでサイン貰えねえかなあ……なんつって。