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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 今日は期末テストの順位発表日。いよいよ審判の下る日だ──。

「麗華様、順位表が貼り出されたみたいですよ。見に行きませんか?」
「そうね」

 芹香ちゃん達に誘われて、一緒に掲示板に見に行く。あぁ、胃がキリキリする…。

「今回の鏑木様と円城様の順位も楽しみですね」
「あら、あのお二人だったら当然上位よ」
「そうよねぇ。鏑木様が今回も1位かしら」
「円城様だって負けてはいないわよ」

 端から成績上位を目指す気もない芹香ちゃん達は、歩きながら気楽に他人の順位予想などをしている。

「麗華様はどう思います?」
「え、なにが?」
「期末テストのトップですよぉ」
「どうかしらね…」

 皆の話を上の空で聞いていた私は、適当に返事をした。
 正直言って、鏑木達の順位なんてどうでもいい。私が気になるのは自分の順位のみだ。30位以内のノルマは果して達成しているのか…。大丈夫。あれだけ頑張ってきたじゃないか。でも他の生徒達も同じくらい頑張ってた…。もし、30位以内に入っていなかったら…。怒れる鏑木の顔が目に浮かんだ。うっ!胃にギューッと絞られる鈍痛が!
 掲示板の前は順位表を見に来た人でいっぱいだ。人だかりを芹香ちゃん達が露払いをして進むと、

「見て!トップはやはり鏑木様よ!」

 菊乃ちゃんが真っ先に1位の名前を確認して叫んだ。
 本当だ。1位 鏑木雅哉。
 あれだけのハードスケジュールで、首位を守れるとは、本当に鏑木の頭の作りはどうなっているんだ。
 いや、それより私の順位は…。鏑木の順位にはしゃぐ芹香ちゃん達を尻目に、私は下から順番に名前を追っていった。……無い。無い。無い!
 私は血の気が引いた。
 課せられた目標を達成できなかった場合、鏑木からどんな制裁が下されるのか…!
 あぁ、神様。どうか、どうか哀れな子羊の私をお守りください!
 みぞおちを手で押さえ、祈るような気持ちで目線を上げていくと、

「…っは!」

 18位 吉祥院麗華

 息を吸い込んだまま、一瞬呼吸が止まった。
 幻覚じゃないよね?18位に私の名前が書いてあるよね?ね?ちょっと、お願いだから誰か一緒に確認して!
 芹香ちゃん達は上位陣の順位に夢中でそれ以外は眼中にない。ちょっと!貴女達のお友達の麗華ちゃんが18位に入っているかもしれないんだってば!もうっ!

「麗華様は18位ですわねぇ」

 おっとりとした声に振り向くと、私達の後ろから芙由子様が掲示板を見上げていた。

「芙由子様…!」
「おめでとうございます」

 にっこり笑う芙由子様に後光が見えた。
 芙由子様にも見えているってことは、私は正真正銘、18位に入ったんだ…!
 この苦節何週間。睡眠不足に抗い、胃痛に苦しみ、本気で血反吐を吐くんじゃないかと思いながらもひたすら勉強しまくった成果が今ここに!やった!私、やったよ!
 芙由子様の声が聞こえた芹香ちゃん達も、順位表を確認して「麗華様が18位?!」「凄いですわ、麗華様!」と口々に賞賛してくれた。

「ありがとう。でも18位なんて大したことではないから、あまり騒がないで?恥ずかしいわ」
「そんなことないですよ!もっと誇ってくださいな!」
「麗華様はご自分の成績がどれだけ凄いのか、自覚がないのね」
「奥ゆかしいから、麗華様は」

 私は困ったわといった表情を作って、ほほほと笑った。

「あっ、鏑木様と円城様だわ!」

 誰かの声を合図に道が開かれると、その間から鏑木と円城が悠々と歩いてきた。
 来たわね、鏑木。ほら、とくと御覧なさい。18位に私の名前があることを!
 鏑木は無表情で順位表の一番上を見ると、そのまま目線を下まで下げた。今、私の順位もしっかり目に入ったはず!
 30位以内どころか、鏑木が一番最初に設定した20位以内の目標すらクリアしているんだぞ!どうだ!さぁ、褒めなさい!讃えなさい!
 私の強い視線に気づいた鏑木がこちらを見た。そして私と目が合うと、ふいっと目を逸らして踵を返して立ち去った。え…、それだけ?
 私、18位なんだけど。鏑木に言われたノルマを見事クリアしたんだけど。なにその無視するような態度は。無反応で帰る気か!
 キーッと頭の中でヒステリーを起こしていると、「おめでとう、吉祥院さん」と肩をポンと叩かれた。

「円城様」

 赤い頬を押さえた芹香ちゃん達が、声を出さずに口パクで「円城様よ!」と騒いだ。

「ありがとうございます」
「僕はちょっと調子が悪かったんだよなぁ」

 と言った円城の順位は4位。嫌味か。
 円城は「放課後にサロンでね」と言うと、にこやかに歩いて行った。後に残された芹香ちゃん達が円城の後ろ姿を目で追いながらきゃあきゃあと盛り上がる中、今度は同志当て馬と若葉ちゃんがやってきた。

「あっ!あった!」
「…今回は俺の負けだな」
「えへへ、勝ったー!」

 若葉ちゃんは3位で、同志当て馬は5位だった。

「麗華様、私達も教室に戻りましょうよ」
「そうね」

 私達が掲示板を離れる時、近くにいた男子生徒達から「あの女、マジムカつく…」という声が聞こえた。思わずそちらを見ると、その男子達は若葉ちゃんを苦々しげに睨んでいた。あの子達って、外部生だよね…。

「麗華様?」
「今行くわ」

 成績優秀だから嫉妬されるって、若葉ちゃんも大変だなぁ…。
 教室への帰り道で、蔓花さんの一派と出くわした。そのまま通り過ぎようとした時、丁度やってきた英語の教師が「蔓花」と蔓花さんに声を掛けた。

「蔓花、今回の英語のテストで95点だったぞ」

 私達は音が出る勢いで一斉に振り返った。嘘っ、蔓花さんが英語で95点?!

「えーっ!真希。英語95点だったの。すごーい!」
「真希って英語得意だったっけ?」

 蔓花さんの取り巻きが驚き騒いでいるけど、私だってびっくりだ。
 こう言ってはなんだけど、蔓花さんは典型的な瑞鸞内部生。つまりエスカレーターで大学まで行けるからほとんど勉強をしていないおバカ内部生なのだ。それなのに、95点って急に受験勉強に目覚めたのか?!
 しかしそうではなかった。蔓花さんはふふんと笑うと、

「インターに通う友達のジェフに教えてもらったの」

 インターナショナルスクールに通う男友達だと?!
 瑞鸞のような名門ブランド校とは別次元の、どんな学校かはよく知らないけどなんだかおしゃれだよね~という謎のブランド力を持つインターナショナルスクール!
 そのインターに男友達がいて、なおかつその男友達に英語を教わるという、まさに絵に描いたような恋愛謳歌村村民からの爆弾に、私は満身創痍レベルのダメージを受けた。
 この場かから一刻も早く逃げねばならない。そうでないと…。

「あらぁ?麗華様、ごきげんよう」

 しかし獲物を見つけたハンターの如く目を光らせた蔓花さんは、私を逃がしはしなかった。

「ごきげんよう、蔓花さん…」
「見ましたわよ、順位表。さすがは麗華様、素晴らしい成績ですこと」
「ありがとう」
「凄いですよねぇ。さぞや試験勉強を必死に頑張ったんでしょうねぇ」
「そうでもないわよ」
「またまたぁ。毎日ずーっとお家で勉強しないと、あんな成績は絶対に取れませんよぉ」

 蔓花さんは私を勉強しかしていないガリ勉と決めつけてくる。

「それに比べて私なんて、インターの友達に教えてもらった英語くらいしか良い点数が取れなくって。麗華様は優秀な家庭教師をつけて、毎日勉強に励んでいるんでしょうねぇ?」

(男友達のジェフに教わる私と違って、あんたは雇った家庭教師に勉強を教わっていたんでしょ。さすがボッチ村村長、さびし~い)という副音声が聞こえた。

「真希、言い過ぎ~」
「え~、私は褒めているつもりなんだけどぉ?遊んでばかりの私達と違って、麗華様はずっと家で勉強しているんだもの。偉いじゃなぁい」

 勝ち誇った表情の蔓花さんに言い返してやりたいけれど、図星すぎてぐうの音も出ない…。
 負けた…。完全敗北だ…っ!
 芹香ちゃん達も反撃材料が見つからず、蔓花一派にやられっぱなしで黙り込む中、思わぬところからとんでもない砲撃が飛んできた。
 それはおっとりと「家庭教師…?」と首を傾げる芙由子様からだった。

「麗華様の成績が上がったのは、ピヴォワーヌのサロンで鏑木様と円城様に勉強を教わっていたからでしょう?」

 瑞鸞のツートップ、鏑木と円城から勉強を教えてもらっていた!
 この凄まじい破壊力を持つ攻撃に、形勢は一気に逆転した。

「それは本当ですか、芙由子様!」

 目を血走らせた芹香ちゃん達に詰め寄られた芙由子様は、「ええ」と頷いた。

「鏑木様と円城様に勉強を見てもらうだなんて、なんて素敵なの!」
「あのおふたりから教わっていたから、麗華様の成績が上がったのね!」
「私も鏑木様と円城様に勉強を教わりた~い!」

 いくらインターナショナルスクールに謎のブランド力があろうとも、この瑞鸞で絶対的な崇拝の象徴である鏑木と円城の価値に勝る者などない。
 鬼の首を取ったかのように、鏑木と円城の名前で蔓花さん達に攻撃を繰り出す芹香ちゃん達。
 逆転負けを喫した蔓花さん達が敗走していくのを芹香ちゃん達は鼻息も荒く、やってやったぜといった顔で見送りながら、「よくぞ言ってくれました!芙由子様!」と芙由子様のファインプレーを讃えた。
 芹香ちゃん達に囲まれた芙由子様は「あ、でもこれは言ってはいけなかったのかしら。ねぇ、麗華様?」と、いまさらなことを言った。
 しかし、インターナショナルスクールか…。瑞鸞とは交流も接点もないのに私と同じく初等科から瑞鸞に通う蔓花さんが、どうやってインターの学生と友達になれるのかな。

「一体、どこで知り合うのかしら」

 うわっ、心の声が表に出てしまった!

「麗華様?」
「いえ…。私の周りにインターナショナルスクールに通っている方はいないので、ふと気になってしまっただけなのよ」
「そうですねぇ」

 私の疑問に、皆もう~んと唸る。

「それはもしかしたら…」
「合コンとか…」

 合コン?!
 私の耳には全く話は入ってこないけど、やっぱり瑞鸞生も合コンをしているのか?!
 でもそうだよね。他校の男子生徒と知り合う機会なんて合コンくらいしかないもの。合コンか…。
 私は前世でも合コンに行ったことはほとんどないし、現世では当然1度もない。なんとなく合コンって出会いを求めてがっついている印象があるんだよねぇ。だけどそれは偏見かもしれない。健全な出会いもあるかもしれないしね。私も思い切って合コンデビューを…。

「ふしだらだわ!」

 菊乃ちゃんが叫んだ。えっ…?

「合コンだなんて、瑞鸞生として軽薄すぎます!」

 菊乃ちゃんの憤りに、

「そうよね。瑞鸞生としてあるまじき振る舞いだわ」
「私もそう思う」
「私も。合コンなんてふしだらだわ」

 と他の子達が次々に同調した。えっ?えっ?

「麗華様もそう思いますよね?」
「え…」

 全員の目が私に注がれた。

「そうね…。私も合コンは、あまり賛同できない振る舞いだと思うわ…」
「ですよね~!」

「私達は瑞鸞の名に恥じない慎み深い行動をしなくては」と一致団結する菊乃ちゃん達の姿を見ながら、私はこの子達とずっといたら、一生ぼっち村を卒村できないかも…という危機感に襲われた。
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