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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 午前の授業を終えた私と芹香ちゃん達は、いつものように連れだって食堂へと足を運んだ。

「麗華様、今日はなにを召し上がります?」
「そうねぇ。私は今週の限定デザートのアイアシェッケをいただこうかと思っているの」
「まぁ、それはよろしいですね」
「私もデザートはそれにしようかしら」
「私も」

 うんうん。チーズのお菓子はおいしいもんねぇ。しかも期間限定のメニューは人気も高い。早く行かないと無くなっちゃうかもしれない。思わず気持ちが急いて私が心持ち早歩きになってしまうのも仕方がない。芹香ちゃん達と和やかにおしゃべりをしながらも、心はすでにチーズケーキの元へ~。

「あっ!麗華様」
「えっ。きゃっ!」

 菊乃ちゃんの慌てたような声の後に、体にドンっという衝撃を受けた。

「大丈夫ですか、麗華様!」
「…ええ。平気よ」

 少しよろけてしまったけれど、後ろに立っていたあやめちゃんが支えてくれたから、特に痛いところもなく問題はない。
 しかし一体なにごとかと思いきや、どうやら曲がり角から飛び出してきた男子と、おしゃべりをしていて余所見をしていた私が正面衝突したようだ。

「すすすすすいませんんっっっ!」

 声を上擦らせ今にも土下座せんばかりの勢いで謝罪する男子生徒。誰かと思えば、同じクラスで塾も一緒の多垣君だった。
 クラスも塾も同じなら普通はもう少し親しくなれそうなものだけど、残念ながらこの多垣君には目が合っただけでいつも怯えられてしまう。これは前に若葉ちゃんのロッカー落書き事件の時に、多垣君の不用意な一言で一瞬でも私を窮地に陥らせた事を、まだ引き摺っているのかな。別にもう気にしていないからいいのに。
 すみませんすみませんと謝罪を繰り返す多垣君を、芹香ちゃん達が囲んだ。

「ちょっと貴方!誰にぶつかったかわかっているの!」
「かなりの激突でしたもの。これは打撲では済まないお怪我をなさったに違いないわ。骨が折れたんじゃありません?麗華様」
「痛みますか、麗華様。あぁお可哀想に!」
「貴方、この責任どう取るつもり!」
「誠意を見せなさいよ、誠意を!」

 …一体どこのゴロツキですか、
 軽くぶつかった程度で、骨が折れたと騒ぎ立て、責任を取れ、誠意を見せろと脅迫する人達を、世間では当たり屋という──。
 そんな当たり屋に因縁をつけられた多垣君の顔は真っ青を通り越して蒼白だ。
 私が多垣君に必要以上に怖がる原因の大半は、絶対に芹香ちゃん達のせいだと思う…。

「おやめなさいな。皆さん」

 少女マンガなら、出会い頭に男女がぶつかったらそこから恋愛が始まる王道シチュエーションのはずなのに、なぜかアウトロー街道まっしぐらこの状況に目も当てられず、私は止めに入った。

「麗華様」
「それほど強くぶつかってもいませんし、私も余所見をしていたのですから、それくらいにして差し上げて?」
「よろしいのですか?麗華様」
「ええ。でも危ないですから今後このようなことのないよう、これからは廊下は走らないようになさってね、多垣君」
「ははいっっ。申し訳ありませんでしたぁっ!」

 できるだけ親しみやすく優しげに見えるように心掛けて微笑んだのに、なぜ更に怯えるか…。
 多垣君は米つきバッタの如く頭を下げまくると、一目散に逃げて行った。だから、廊下は走るなと今言ったばかりでしょうが。
 まぁ、いい。それよりも早く食堂に行きましょう。
 と、そこへ

「なにあれ。格好つけちゃって」

 私に向けてのあからさまな当てこすりを、背中に浴びせられた。
 一体誰だ。相手を確認しようとくるりと振り向くと、大方の予想通り、そこには腕を組んで私を鼻でせせら笑う蔓花さんとその一派がいた。
 私と目が合っても逸らさず、逆に挑戦的な目で口角を上げる蔓花さんの態度に、芹香ちゃん達が殺気を漲らせる。両者は完全にやる気だ。しかし私はそんな芹香ちゃん達を制すると、鷹揚な笑みで

「あら、格好いいと思っていただけの?光栄だわぁ。どうもありがとう」

 予想外の反応に頬をピクリとさせ一瞬言葉に詰まった蔓花さんに、「どうぞご遠慮なさらず、真似してくださっても、よろしいのよ?」と畳みかけ芹香ちゃん達を促すと、反撃の隙を与えぬよう、おほほほほと高笑いで蔓花さん達に背を向け、何事もなかったように歩みを再開した。

「麗華様に対してあのような言い草、許せないわ!」
「本当よ!」

 私の後に続いてきた菊乃ちゃん達の怒りは収まらない。

「あの程度のくだらない挑発など、相手にするのも時間の無駄よ。気にする程のものでもないわ」
「でも…」
「小事に拘わりて大事を忘るな。放っておけばいいのよ」
「さすがは麗華様。器が大きくていらっしゃる」
「ほほほ」

 だってこんなことをしている場合じゃないんだもん。多垣君とぶつかって当たり屋が登場したのと、蔓花さん達に足止めされたことで、結構タイムロスしているのだ。これは急がないと。早く行かなきゃ限定デザートが売り切れちゃうかも!さぁ、皆さま、競歩競歩!

 そして着いた食堂で、私は早速お目当てのアイアシェッケを注文した。すると、給仕係から「すみません!こちらのデザートは人気が高くて、たった今、最後の1個が出てしまったんです」と衝撃の一言が!ええええっっっ!
 私はがっくりと肩を落とした。たかがデザート、されどデザート。楽しみにしていた食べ物が食べられない時のこの肩透かし感。この失望感…。

「麗華様、あれを!」

 地味にショックを受ける私に、菊乃ちゃんがなにかを見つけ指し示す。そしてそれを見た私は、驚愕に目を見開いた。
 つい先ほど私にぶつかって走り去って行った男子生徒が座るテーブルの前には、私が焦がれていたアイアシェッケが!

「またあいつか、多垣!」
「何度目だ、多垣!」

 騒ぐ菊乃ちゃん達を置いて私は彼の元まで歩いて行くと、静かにその背後に立ち、肩に手を置くと、

「多垣君、誠意をみせて?」

 ねぇ私、ぶつかられた腕がとても痛いの。





 いい加減、止まない嫌がらせの跡を掃除して回るという後手対応では、いつまで経っても埒が明かないので、同志当て馬と相談して積極的に犯人を捕まえることにした。正直言って、終わりの見えない早朝登校が負担になってきたのもある。
 …それに、円城は私が同志当て馬と密かに通じていることに気づいている気がするんだよね。決定的なことを言われたわけじゃないけど、あの思わせぶりな口ぶりと微笑み…。この前なんて、「ねぇ、吉祥院さん。伝説の女スパイ、マタ・ハリの最期について君はどう思う?」と話しかけられた。これってすでに思わせぶりのレベルを超えていると思う…。
 ここ最近の私は円城と目が合うたびに、君がスパイだということを知っているよ、と言われているかのような心理的圧力を感じ、真綿でじわじわと首を絞められるかのような恐怖を味わっている。近頃、なにかに追いかけられて逃げきれない悪夢をよくみるのは、偶然ではないはずだ。私の心が悲鳴をあげている。がんばれ、麗華。がんばれ。
 これ以上円城に弱みを握られている状況は、精神的にもかなり悪い。一刻も早くこのスパイ生活から足を洗いたい。逮捕されて銃殺刑なんて絶対にイヤだ!
 というわけで、この数日は今までよりも更に早い時間に登校して、嫌がらせの現場を押さえるべく張り込みをしている。

「確認ですけど、犯人が現れた場合、まずは水崎君が出て行くのですよね?」

 現在、私と同志当て馬は嫌がらせ犯に見つからないように、若葉ちゃんの教室が見える廊下の陰に隠れている。

「そうだな。基本的には俺ひとりで捕まえるつもりだけど、もし逃げられそうになった時には力を貸してくれ」

 同志当て馬が取り逃がしたら、通りがかったフリをした私が犯人を捕まえるということね。

「相手にもよりますけどね」
「いまさら頼りないこと言うなよ」

 だって蔓花さん達だったらちょっと、いやかなり怖いし。私が普段強気な態度で蔓花さん達に対峙できるのは、あくまでも芹香ちゃん達ががっつり脇を固めてくれている時限定だから。実は小心者の私が1人で蔓花さん達を相手取るのは絶対に無理。勝てる気がしない。なのでその時は同志当て馬には悪いけど、見つからないよう抜き足差し足でこっそり逃げよう。仮に犯人が男子だった場合は力では敵わないから、体当たりをして大袈裟に怪我をしたと騒ぎ立てればいいかな。
 同志当て馬は時間潰しに教科書を読んで予習をしている。さすが成績上位陣。勉強のできる人は空いている時間も無駄にはしない。私も見習わなくては。
 私は自分で受験対策用にまとめているバインダーを取り出して暗記の勉強を始めた。

「…すごいな、それ」

 暗記の優先順位によって色ペンを変え、教科ごとに付箋も色分けしている私のまとめノートを見て、同志当て馬が感想をもらした。そうでしょう。これを作るのは時間がかかって大変なんだ。完璧できれいなノートにしたいから、大きく書き間違えをした場合は、修正テープで見た目が汚くなるのがイヤで、最初から書き直したりもしている。1枚書き上げるのにも時間がかかるから、まだ完成にはほど遠いんだけど、ここは覚えたほうがいいぞ、なんていう一言メモなんかは吹き出し付箋に書いて目立つようにしたり、我ながらとっても見やすくて自信作の対策ノートなのだ。
 対して、同志当て馬の読んでいる教科書は、赤いペンしか使われていないシンプルすぎる様相だったので、文房具問屋街で仕入れてきた飛び出す絵本方式の立体付箋をあげた。これおすすめだから、ぜひ使って!教科書を開けるたびに気分が高まるから!あっ、こっちの走る人型付箋もあげるよ。後ろから順番に貼っていくとパラパラマンガみたいになるから!

「あー、ありがとう…」
「どういたしまして」

 そうしてお互い自分の勉強に没頭していると、同志当て馬が教科書から顔をあげた。

「おい。誰か来たぞ…」

 耳をすますと階段を上ってくる小さい音が聞こえる。私と同志当て馬は見つからないように壁にへばりついた。とうとう犯人か?!
 ひたひたと足音を忍ばせた気配が、若葉ちゃんの教室に入って行ったのを感じた私達は、そっと教室に近づき、ドアの隙間から中を窺った。
 教室の中には、若葉ちゃんの机の前に立つ女子生徒が1人いた。後姿で誰かわからないけど、派手な感じではないから蔓花一派ではなさそうだ。ひとまず良かった。でも本当にあの子が犯人…?
 私の疑問に答えるかのように、女子生徒は若葉ちゃんの椅子を引くと、カツカツと音を立てて何かをこすり付け始めた。現行犯だ!

「なにをしている!」

 私が現行犯と認識したと同時に、同志当て馬が大きくドアを開け放し中へ踏み込んだ。あ、デジャヴ…。
 生徒会長の突然の登場に、女子生徒は驚いて、手に持っていたチョークを床に落として振り返った。

「あ…」

 その振り返った女子生徒の顔に、私は見覚えがあった。名前は、そう…

「生駒さん…?」

 1年生の時に同じクラスだった生駒さんだった……。
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