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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 新入生の部活見学が始まった。
 手芸部の繁栄のためにも、新入部員の確保が重要だ。南君を前面に出して、男子生徒達にもアピールをしよう。ファッションデザイナーやアパレルの仕事に就いている男性は大勢いるのだから、手芸に興味のある男子だって瑞鸞にもっといるはずなのだ。そういった隠れ手芸男子をガンガン取り込むわよ!
 と意気込んでみたものの、思ったようには人が集まらない。ほかの部活はどんな勧誘をしているのか探りに行けば、グラウンドでサッカー部が見学に来た生徒と一緒にリフティングの記録に挑戦して盛り上がっていた。なるほど、体験型か。新入生も楽しそうだ。
 リフティング競争で最後まで残ったのは部長だった。ほぉん、やっぱり部長が一番上手いのか。いつまでも軽やかに蹴り続ける部長を、それそれ、と私も一緒に手拍子で応援をしてあげたら、私と目が合ったタイミングで、部長が足をもつれさせボールが落ちた。あら~、惜しかったねぇ。でも頑張った頑張った。拍手。
 するとサッカー部部長が、落としたボールをそのままに私の元へ駆けてきた。応援のお礼かな?

「また弱みを握りにきたのか…!」
「まぁ、なんという被害妄想でしょう!私はただ見学をしていただけですのに…」

 酷いわ~、心外だわ~。それとも知られたら困ることをまた隠しているのかしら?私は目の前に立つ部長の横から顔を出し、グラウンドのサッカー部員達をじろじろと眺めた。おや、あれに見えるは同じクラスの男子ではないか。サッカー部だったのね。手を振ってみよう。あ、逃げた。そこへ部長が私の前に立ちはだかるように体をずらしたので、部員達の姿は再び見えなくなってしまった。ちぇっ。

「見学?」

 サッカー部部長が訝しげに私に聞き返した。

「ええ、偶然通りかかったらなんだかずいぶんと盛り上がっていましたので、つい。でも部長なだけあって、リフティングがお上手ですのねぇ。私感心してしまいました。まるで蹴鞠大納言のようでしたわよ」
「蹴鞠大納言…」

 平安時代に藤原成通という、清水寺の欄干を鞠を蹴って渡ったという伝説を持つ蹴鞠の達人の大納言がいたそうだ。蹴聖と称されているけど、でも蹴鞠をしながら欄干渡りに挑戦って、蹴聖というより蹴鞠バ…、いやいや、ひとつのことに熱心に打ち込むのは尊いことだ、うん。

「ぜひ今度はリフティングをしながら、平均台を渡ることをお勧めいたしますわ」

 サッカー部部長よ、現代の蹴鞠大納言になるのだ!
 せっかく褒めてあげたうえにアドバイスまでしてあげたというのに、蹴鞠大納言は「部員達が委縮するので、お願いだから帰ってください」と私をグラウンドから追い出した。「良かったらこれどうぞ」とスポーツドリンクまで渡されて。蹴鞠大納言め、みかじめ料を渡しておけば私がおとなしくなると思うなよ。

 ほかの部活もいろいろと見て回る。大半はただの見学が多いようだ。合唱部は一緒に歌っていて楽しそうだった。囲碁将棋部は見学者と対局していた。やっぱり体験型のほうが見学者の受けがいいな。運動部の中には、練習をする部員をきゃあきゃあと応援する女の子達の華やかさで、新入生を釣っている部もあった。そういえばカサノヴァ村長はかつてこの部の部長であったな…。
 途中、柔道部を覗くと野々瀬さんがいて、岩室君に「崇君、タオルここに置いておくね~」と声を掛けていた。タカシクン?
 乙女2号よ、師匠に報告すべきことがあるのではないかな?

 スパイ活動を終え、そろそろ部室に戻ろうかと歩いていると、アホウドリ桂木に出会った。あぁ、こいつも新入生だったな。桂木は私に気づいた途端、嫌そうな顔をした。

「円城さんに近づいていないだろうな」

 最上級生に会った第一声がそれかね。礼儀のなっていないアホウドリは無視して通り過ぎてやる。

「おい!」
「ワタクシ、挨拶も出来ないアホウドリの相手をしてあげるほど、暇ではありませんのよ~」

そう言って、私はオホホホホと笑ってやった。

「円城さんには唯衣子さんがいるんだからな!」

 喚くな、うるさい。人の顔を見れば同じことを何度も何度も。

「桂木君は本当に、唯衣子さんがお好きなのねぇ。健気ですわぁ」

 嫌味ったらしく言ってやるとアホウドリが顔を赤くして言葉に詰まったので、そのまま放置して私はさっさと部室を目指した。けっ。あ~あ、これから1年、アホウドリと同じ校舎なのは鬱陶しいなぁ。言いたいことがあれば円城に言え。



 これまでの手芸部の部活見学は、部員による活動内容の説明と部室内の見学が主だったけれど、ほかの部活を偵察してみて、実際に部活動を体験させたほうが反応がいいということを知ったので、私達の部も手芸体験を組み込むことになった。作るのは簡単な物ということで、ポケットティッシュケースだ。部室の前にも“手芸体験、実施中”の張り紙をした。
 すると見学者が増えた。作る物はティッシュケースという、なかなかに微妙な物だったりするけれど、一緒にチクチク手芸をしながらおしゃべりをすることによって、部内の雰囲気も伝わり、質疑応答もしやすく、完成する頃に部活以外の話もできるくらいに新入生も打ち解けてくれた。

「手芸体験は盲点でしたわ。さすが麗華様」
「おかげで例年より新入生が見学に多く集まってくれています」
「男子も入ってきてくれていますよ」
「学園祭でも体験コーナーを設置してみましょうか、麗華様」

 手芸部のみんなに褒められ、記入済みの入部届の枚数を数えながら私はほくほくした。蹴鞠大納言に感謝だね。




 入部届が足りなくなる前に生徒会室に取りに行くと、同志当て馬達が仕事をしていた。なんだか忙しそう。生徒会室を見回すと、若葉ちゃんが指サックを付け、伝票らしきものをめくりながらパチパチパチパチ…と凄まじい勢いで電卓を叩いているのを見つけた。おぉ、これが噂の、高道若葉の電卓さばき!

「なんか用?」

 会長席に座っていた同志当て馬に声を掛けられたので、私は入部届が欲しいことを告げた。

「あぁ、ちょっと待って」

 同志当て馬が席を立って取りに行ってくれた。う~ん、なんとなく一部の役員達が私を警戒するような空気を醸し出している気がする。ピヴォワーヌが自陣に乗り込んできたとでも思っているのかな。
 戻ってきた同志当て馬が私に入部届をくれた。

「これくらいで足りるか?」
「ええ、充分です。ありがとう」

 この用紙が全部無くなるくらいに入部希望者が来るといいなぁ。

「そうだ、吉祥院。君に見てもらいたいものがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「会長!その人に見せるなんて!敵に手の内を見せるようなものじゃないですか!」

 ひとりの役員が立ち上がって同志当て馬の行動を止めようとした。え、なに?

「吉祥院はピヴォワーヌの中でも話のわかる人間だから平気だ」

 そう役員を制した同志当て馬に「これなんだけど」と見せられた紙には、“ピヴォワーヌへの対応マニュアル”…?

「入学してきたばかりの外部生は、ピヴォワーヌをへの対応を間違えることがよくある。だから彼らに向けてのマニュアルを作ろうと思っているんだ」
「まぁ」

 いいんじゃないかな。今まではクラス委員や内部生がそれとなく注意したりして教えていたけど、あまり詳しく教えられていない外部生が失敗して冷や汗をかく場面もよくあるし。実際内部生も、どこまで言っていいかわからないというのもあるしね。

「これまでも生徒会にそれらしきものはあったんだけどな。でも曖昧なところも多くあったから、今回、箇条書きにして明確にしてみることにしたんだ。どうだろう?」
「よろしいかと思いますわよ?これを外部生全員に配るのですか?」
「いや、これを各クラス委員に渡して、口伝で教えてもらおうかと思っている。やはり書面で直接渡すのは、問題があると思うから」
「そうですか」

 あくまでもこれは規則じゃなくて暗黙の了解だからね。証拠には残せないと。
 同志当て馬はマニュアルを見ながら苦笑いした。

「生徒会がピヴォワーヌを特別扱いするマニュアルを、率先して作るのはどうかと思ったんだけどな。高道が困るのは外部生だからと提案したんだ」

 若葉ちゃんが?!
 言われてみればこのマニュアル、私が若葉ちゃんのために書いた注意事項がほとんどだ。電卓を叩いている若葉ちゃんを見ると、自分の名前が出たのに気づいた若葉ちゃんが顔を上げ、私達に向かってにかっと笑った。

「君が見て、足りないと思うものはないか?」
「そうですわねぇ。えっと…ピヴォワーヌ専用席に座らない。みだりに馴れ馴れしくしない。廊下等で出くわしたら先を譲る。校内の牡丹の花を踏んだり粗略に扱わない…」
「犬公方かよ…」

 私が音読していると、役員の誰かがボソッと呟いた。私が振り返り、「まぁ、上手いことおっしゃるのね?」と親しみをこめた微笑みで返事をしたら、下を向いて黙ってしまった。あら?
 マニュアルの中身は私が考えたのとほぼ一緒なので、補足することは特にない。

「これでよろしいんじゃないかしら。あまり細かすぎてもどうかと思いますし。ただピヴォワーヌ対応マニュアルとして単独で教えるのではなく、瑞鸞の注意事項の一環として教えたらいかがでしょう。他の学校にはない、瑞鸞独特のしきたりなどを教えるついでとして。そのほうが角が立たないかもしれませんわよ?」
「なるほどね。そのほうがいいかもしれない。単独で教えるとピヴォワーヌへの特別扱いが露骨すぎるしな。でも独特のしきたりか。なにがある?」
「はーい!長靴禁止!」

 若葉ちゃんが手を挙げて元気よく発言した。

「それをわざわざマニュアルに入れるか…?たぶん高道しかそんなことする人間いないと思うぞ?」
「うそぉ!」
「本当だよ。学校指定の長靴がない時点で察してくれ」
「え~っ。じゃあ廊下を走らないとか、階段を一段抜かしで上らないとか?」
「高道、それは世間の高校では常識っていうんだよ」
「え~っ」

 同志当て馬と若葉ちゃんは、ポンポンと仲良さげに掛け合いをしていた。う~ん、これは…。

「じゃあ瑞鸞独特のしきたりってなぁに?」

 若葉ちゃんの問いかけに、みんなの目が私に集まった。

「そうですわね…。ごきげんようの挨拶は女子のみ、とかでしょうか」
「お~!なるほどぉ~」

 若葉ちゃんが拍手をしてくれた。

「ここにいるみなさんは、ほとんどが中等科や高等科からの外部生なのですから、ご自分達が入学した時に驚いたことを書きだしてみては?」
「そうだな。やってみるか。誰か思いつくことあるか?」
「バレンタインに手作りチョコは好ましくない」
「あれってなんで?」
「さぁ、食中毒予防とか?」
「はーい!名前入り粗品タオルの使用禁止!」
「高道さん、それしきたり以前に女子高生としてちょっと終わってる」
「え~っ」
「でも男子ではいそうだから一応入れとくか」
「校門の前で一礼」
「それは校則の範疇じゃない?」
「コンビニ弁当禁止」
「それ重要」
「確かにね。最初うっかり持ってきて浮きまくった」
「はーい!雨合羽禁止!」
「高道、たぶんそんなことをするのも君だけだ」
「やだなぁ、水崎君。私だって合羽は着てきたことないよ」

 頑張ってね~。私は入部届を手に生徒会室を後にした。
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