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 無事スパイを引退してからは、あのふたりとはほぼ関わる事もなく、私は実に平和な毎日を過ごしていた。

 私がパシリにされていたという事も周りにバレる事もなく、恐れていた学院内での地位転落は免れた。

 それどころか、“あの鏑木様に個人的に頼まれごとをされるくらい、親しい麗華様”などというあらぬ誤解をされ、妙な羨望まで受ける始末だった。

 いやいや、親しくないから。

 あれ以来、ほとんどしゃべってないから。期待した目で見ないでください。



 愛羅様とは、あれからも時々メールのやり取りをさせてもらっている。なんて贅沢なメル友!

 勉強のアドバイスや、中等科の話のほか、鏑木と優理絵様のその後の話なども教えてもらっている。


 手紙作戦成功の情報も、愛羅様から教えてもらった。

 優理絵様は毎日届けられる、鏑木からの一生懸命書かれた手紙と可愛い花束に、わりとすぐに陥落した。

 愛羅様はその手紙を直接読ませてはもらっていないそうだけど、見せてもらった封筒と便箋はすべて違う種類で、可愛い花や動物が描かれている物だったそうだ。

 私のアドバイスを忠実に守ったらしい。

 そんな可愛い便箋に毎日、謝罪と共に優理絵様に会いたい、寂しい、ひとりはつらいなどと書いてあれば、元々鏑木を可愛い弟と思っていた優理絵様は、母性本能と罪悪感にぐらぐら揺れてしまったらしい。


 泣き落としか。きっと円城の入れ知恵だな。


 あげくの果てにはちゃっかり、今年のサマーパーティーでは一緒に踊ってほしいなどと書いて、その約束を取り付けた。

 さすが。転んでもただでは起きない。


 実際サマーパーティーでは、照れ隠しなのか不機嫌な表情をしつつも頬を赤くして、しっかり優理絵様と踊っていた。

 もしかしてあいつ、私とお兄様のワルツに憧れてた?

 いつか自分も、なんて思ってた?

 今も若干優理絵様より鏑木のほうが背は低いけど、あの頃よりは身長差はなくなっているし、満を持してといったところだったのかな。

 ワルツはさすがは腐っても鏑木で、小学生のくせに流れるようなリードだった。

 お嬢様方はうっとりとしていた。

 私は、ケッという気分でローストビーフを齧っていた。


 鏑木の行き過ぎたストーカー行為も、本当に反省したらしく落ち着いたそうだ。

 年上の優理絵様にふさわしくなるべく、日々精進中らしい。

 学院では相変わらず冷たいポーカーフェイスで、女子達にきゃあきゃあ騒がれているけど、その正体を知っている私としては、暴露したくてしょうがない。

 しかしそんな事をすれば、破滅街道まっしぐらなので、自室の枕に顔を埋めて、「本当はバカなんだぞーっ」「バカの上にストーカーなんだぞーっ」「騙されるなーっ」と叫んで、ストレス解消をしている。



 そんな、私が勝手に心の中でメル友呼ばわりしている愛羅様から、創立記念日に一緒に出掛けないかというお誘いを受けた。


 騎士様とデート!!


 行きますとも!何があろうと行きますとも!

 あぁ、なんということでしょう!!

 いつもはお姫様役は親友優理絵様だけど、この日ばかりは私が騎士様の守るお姫様役か?!


 私の髪型は、お母様の趣味で毎日お手伝いさんが巻いてくれている。

 頭の後ろにはリボンまで付けられていて、まるでいんちきロココの女王だ。

 でもこのいんちきロココの女王ヘアなら、前世で愛読していたフランス革命のマンガのように、男装の麗人騎士とその騎士に守られる悲劇の王妃みたいになれるんじゃない?

 うきゃーーーっ!


 早速お兄様に愛羅様とお出かけをする自慢をしたら、女の子ふたりだけでは危ないから、お兄様とその友達の伊万里様も一緒に行くと言い出した。


 あぁ、なんということでしょう!!

 愛羅様だけではなく、お兄様と伊万里様まで!

 右手に愛羅様、左手に伊万里様、背中にお兄様だなんて、はっ!これはもしかしてあの少女マンガで大人気のシチュエーション、逆ハーレムというやつなのでは?!

 あぁ我が世の春…。


 桃園伊万里(ももぞのいまり)様は、お兄様の初等科からのお友達で、私も何度もお会いしたことがある素敵な方だ。

 実はこの伊万里様が、私に小さい花束のアイデアを間接的にくれた方なのだ。

 伊万里様はお兄様に会いに我が家へ遊びに来るとき、いつも友達の妹である私に、可愛い小さな花束やちょっとしたお菓子などを持ってきてくれるのだ。

 このお菓子も、きれいな瓶に入った蜂蜜だったり、お花の形のチョコレートの詰め合わせだったり、実に女の子が好きそうな物を選んでくる。

 姉妹はいないはずなのに、高校2年生にしてすでに女の子の扱いに長けている、なかなかに危険な匂いのする方だ。

 いつもいろいろ贈り物もらっておいてなんだけどね。

 もちろん優しくも危険な匂いのする伊万里様のことは好きですよ?女は、優しいだけの安全パイよりも危険な男が好きなものだ。だから将来、伊万里様が女の敵になるんじゃないかと、楽し…心配しているのだ。


 そんな伊万里様は、お兄様とは違ったタイプのイケメンさんだ。

 鏑木、円城コンビもそうだけど、イケメンにはイケメンの友達ができるものなのか?

 そういえば、秋澤君の仲のいい友達って誰だったかなぁ。

 ………………。

 ……自分の事を棚に上げて、ろくでもないことを考えるのはやめよう。

 秋澤君だってくりくりお目々のリスみたいに可愛い顔してるじゃないか。

 親しみやすい顔で、私は好きだぞ秋澤君!



 愛羅様にふたりも一緒でいいか聞いたところ、快諾してくれた。

 遊びに行く場所は、日本一人気のある遊園地。

 みんな、私と一緒に動物の耳のカチューシャとか付けてくれるかな?

 お兄様、絶対嫌がりそう。

 平日だけど、きっと混んでるだろうなぁ。来たるべき日に備えて、しっかり食べてしっかり寝て体調管理しておかないと。

 魅惑の逆ハーレムデーまであと少しだ!




 ちなみに愛羅様情報によると、鏑木は創立記念日に優理絵様とのデート(って本人は思っているだろうな)を見事勝ち取ったらしい。

 場所は博物館だそうだ。

 さすが。


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